「 自国を守る軍備が十分でなく心構えも欠けている日本 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年6月18日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 891
6月初旬、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議は、アジアで中国対非中国陣営の対立構造がより顕在化し、諸国が軍事的な備えを急速に強化しつつあることを明らかにした。
6月4日、同会議でゲーツ米国防長官が行った演説は、力を誇示する中国を念頭に、米国は太平洋国家であり、これからもそうであり続けるとの強い意思を示すものだった。
歴代8人の大統領に仕えた国防長官は、「イラクとアフガニスタンというコストのかかる長引く2つの戦争で、米軍の負担は増し、国民の忍耐が薄れ、将来の外国への介入能力が低下しているのは事実」と述べたうえで、米国の繁栄は米国が貿易の大半を依存するアジアの繁栄と共にあることを強調した。問題は存在していても、米国のアジアに対するコミットは変えないとして、近年、同海域での米国の存在は顕著に広がり深化していると語った。
「3年前、この同じ会議で私は、国防長官就任1年半で、アジアを4回訪ねたと言いました。今、4年半で私のアジア訪問は14回に達しています」「アジアを訪問するたびに、衝撃的かつ驚くべき変化を見てきました。米国とより強い軍事的協力を打ち立てたいという切望が諸国間に広まっていることです。過去20年間、米国政府で働いてきた体験に基づいて考えても、米国との軍事協力への要望がこれほど高かったことはありません」
こうした要望への米国の対応能力の高さの一例として、長官は東日本大震災における日米協力について語った。
「大震災発生から24時間以内に米国は『トモダチ作戦』を立ち上げ、被災地での自衛隊の救援活動への支援を開始しました。ピーク時には2万4,000人の兵、空母を含めて24隻の船、190機の航空機を動員しました。兵力の半分の10万人を投入した自衛隊との緊密な協力が実現されました」
ゲーツ長官は、日米両国は、大震災によって同盟関係の維持だけでなく、より強固でより機動的な実質的同盟関係を築くに至ったと、誇った。
長官が米国の目標として「くどいようだが」と前置きして列挙したことが4点ある。(1)自由で開放された貿易、(2)国際法の遵守と、各国の権利と責任の秩序ある体制、(3)海、空、宇宙、サイバー空間へのアクセスの自由、(4)紛争の平和的解決、である。
いずれも中国を意識したもので、中国への強烈な非難ともなっている。長官が強調したように、今、東南アジア諸国、インド、オーストラリア、アジア海域諸国のすべてが米国との軍事協力を強化させている。一方、インドに典型的に見られるように、独自の努力も重ねている。インドはこの五年間で戦闘機や潜水艦の調達を進め、中国を追い抜いて世界最大の通常兵器輸入国となったのだ。理由は明らかで、中国やパキスタンとの緊張に備えるためだ。
そのような緊張感をいっさい感じていないのがわが国の民主党政権だといってよい。日米同盟に頼り切って、自助努力を怠ってきた日本は、大震災でさらに力を落としつつある今、中国やロシアのみならず、韓国からさえも脅かされている。
防衛省は8日、中国海軍の艦艇8隻が沖縄本島と宮古島のあいだを通過したと発表した。確認されていないが、潜水艦も潜伏航行しているはずだ。
外務省は中国艦隊の航行は「公海上」なので抗議しないそうだが、昨年、米韓両国が公海である黄海で軍事演習を予定したら、中国は「近海への外国海軍の進入は許さない」として猛烈に抗議した。沖縄本島と宮古島のあいだは、わが国の近海そのものだ。自国を守る装備も十分でなく、心構えも欠けているのだ。今、日本がすべきことは、抗議すべきときには抗議する強い国家意思を持つこと、少ない予算で効果的に中国の軍事力に対処するために、潜水艦の数を増やすことだ。