「 中国国防白書に見る軍事的脅威 」
『週刊新潮』 2011年4月14日号
日本ルネッサンス 第456回
4月1日、中国国家海洋局所属の航空機が東シナ海の中間線周辺の公海上で監視活動を展開していた海上自衛隊の護衛艦「いそゆき」にまたもや異常接近した。3月26日に続くあからさまな対日示威行動である。
航空機はいそゆきの周りを2周し、最接近時の高度は約60メートル、護衛艦までの水平距離は約90メートルだったという。国際慣例上、それ以上近づいてはいけないとされる高度約150メートル、水平距離約450メートルを大きく逸脱していたのみならず、いそゆきの針路を2度、横切るなど極めて危険な行為だった。
中国の意図は明らかで、尖閣諸島も東シナ海も中国領だという主張を行動で示し続け、最終的に日本から奪うことにある。中国共産党と周辺諸国の関係を振り返ると、中国共産党は一度主張し始めたことは決して諦めないことが見えてくる。チベットやウイグルの併合、核兵器の開発、海洋と宇宙への進出など、どれをみても彼らは目的完遂に邁進する。事態が彼らの主張どおりになるまでやめない。
逆に言えば、彼らは主張どおりに行動する。彼らの目指すところを知るには彼らが掲げる戦略を注意深く読みとればよい。その意味で、中国の軍事力増強の意図は自ずと明らかだ。
3月31日に中国国務院が発表した「2010年中国の国防」は中国の長期目標を知るうえで非常に役に立つ。1998年以来、ほぼ2年に1度公表してきた国防白書には、建前の衣をまとった鎧、中国の本音が明記されている。
3月5日に開幕した全国人民代表大会で、中国共産党は今年の国防費を昨年に較べて12・7%増額すると発表したが、これで23年間、ほぼ連続して異常な2桁軍拡が続くわけだ。国防白書はそうした中国の軍事力構築の努力はあくまでも防衛のためだと強調している。中国は現在、「新たな歴史的出発点」に立つのであり、「中国の発展は世界の発展」に、さらには、「中国の安全保障は世界の平和」につながると謳い上げ、「中国の平和的発展が世界の永久平和と共同繁栄と調和」を創り上げる力なのだと断じている。
事実に基づかない中国
これからの10年間こそ、中国の「重要な戦略的チャンスの時期」で、富国強兵政策の推進にかける決意が示されている。
自信に満ち溢れた論調が全体を貫き、中国の戦略には平和や発展や調和などの形容がついて回る。しかし、額面どおりに受けとめるわけには到底、いかない。一例が、第2章「国防政策」の冒頭で強調されており、先にも触れた「防御的国防政策」である。人民解放軍の役割を、侵略に抵抗し社会の安全を擁護する「神聖な職務」と定義し、「強固な国防と強大な軍隊の建設は中国の近代化建設における戦略的任務」だと明記している。
中国の国防の基本的骨格は防御にあり、紛争解決においては非軍事的手段を先行させ、「後じて敵を制する」(先制攻撃はしない)という政策がこれでもかというほど強調されている。だが、第二次世界大戦終結後、戦争によって国土を広げた国は世界中でたったひとつ、中国しかない。この60余年の歴史を振り返るとき、中国の「防御的軍事力」も「非先制攻撃」もそらぞらしい。
たとえば、中国は建国の翌年の1950年、朝鮮戦争に介入した。そのとき中国が掲げた大義は「米国の侵略に抵抗し、(北)朝鮮を援助する」ことだった。言うまでもなく、朝鮮戦争は北朝鮮が韓国に侵攻したことが発端であり、「米国の侵略」などという事実はどこにもない。
1962年に国境を巡ってインドと戦争したときも、1969年にこれまた国境争いでソ連と戦争したときも、1979年に「ベトナムを成敗する」といって攻撃をしかけたときも、中国はすべて、「自衛のための反撃」だと主張した。事実に基づかない中国の主張に周辺諸国が怒るのは当然だ。
中国の非先制攻撃の主張について、米国国防総省が昨年、興味深い分析を発表した。中国は決して先制攻撃はしないという主張の真偽を判断する材料として、国防総省は2008年の中国の国防白書から次のような記述を紹介したのだ。
「敵による第一撃を受けて初めて反撃するということは敵の攻撃を受身でまつことではない。政治戦や戦いの場で有利な機会を逃がすということでもない。政治的第一撃は戦術的第一撃と識別されなければならない」「もし、国家や組織が他国の主権や領土を侵した場合、侵された当事国は戦術的第一撃を浴びせる権利を有する」
つまり、中国の主権や領土が「政治的に」侵された場合は、それを「敵」の第一撃と見做して、中国側は武力で戦術的に第一撃を放ってもよいといっているのだ。
日本国の土台を造り直す
防御的国防、非先制攻撃と繰り返すが、言葉とは裏腹に先制攻撃を辞さないと言っているに等しい。
冒頭で触れたように中国は尖閣諸島及び東シナ海の領有権を主張し、海自の艦船への異常接近という示威行動をやめない。日本側の通常の監視行動も、状況次第では、中国の主権の侵害と見做され、対日攻撃を正当化されかねないことを、日本は忘れてはならないだろう。
今回もまた、中国の国防白書には台湾領有への並々ならぬ意気込みが明記された。中国はすでに台湾海峡地域に台湾の陸軍13万の兵の3倍を超える40万の兵を配備済みだ。台湾をとらえる核搭載可能なミサイルが1,400基を超えたように、台湾海峡における中台の力のバランスは中国優位に傾いている。
だが、中国にも弱点はある。強大な陸海空軍を築いても、それらを統合運用する力に欠けているのである。
前述の米国防総省の分析でも、人民解放軍の司令官の統合作戦遂行能力の不足が指摘されていた。ただ、中国は、その欠点を大急ぎで直しつつある。白書には、その点が詳しく書き込まれているが、それは中国の自信を示すものでもあろう。
記述によると、彼らは人材育成戦略プロジェクトを立ち上げ、軍全体をまとめることの出来る指揮官の育成に努めているそうだ。政治教育を施し、国家を担うに足る自覚を持たせることがその基本であると指摘されている。情報化時代の新しい軍の在るべき姿を具現化出来る情報管理に優れた人材、情報技術の駆使に長けた人材、新しい装備の操作に秀でた人材など指揮官、幕僚、科学者、技術専門家、及び下士官の育成に特に力を入れたことが報告されている。
大災害で深い傷を負った日本こそ、実はいま、国家を担うに足る人材育成に集中しなければならない。隣国の強烈な台頭に怯むことなく、日本国の土台と人材を造り直すときだ。
温家宝首相の、被災地訪問に不快感を感じます…
温家宝首相の、被災地訪問に不快感を感じます。
I feel uncomfortable visiting the affected areas by Chinese Premier Wen Jiabao.
中国の温家宝首相が、被災地を訪問すると言う。
私は不快感を感じます。
その理由は、中国政府の日本に対する対応が誠意を感じられ…
トラックバック by 近況報告 — 2011年05月19日 21:03