「 ミサイル迎撃能力を持った中国 米国介入の阻止で領域拡大を狙う 」
『週刊ダイヤモンド』 2010年3月6日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 828
英国の有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が、中国が1月11日に行った弾道ミサイル迎撃システムの「技術実験」に成功したとの分析を発表した。これによって中国は、米露と並んでミサイル迎撃能力を持つ国に仲間入りしたことになる。
中国のミサイル開発は1970年代から始まる。21世紀の大国となるには宇宙と海洋における軍事的優越性の確立が欠かせないとの考えからだ。
宇宙も海洋も多くの未知の可能性を含んだ領域であり、それに関する研究も開発も、大いに結構だ。だが、中国の迎撃ミサイル技術の確立は人類にとって何を意味することになるのか。答えを得るために、中国の宇宙や海洋に対する考え方を見てみよう。
彼らの海洋に対する考え方はすでに明らかだ。東シナ海は沖縄トラフまですべて中国の海だと主張する。中国の大陸棚の延長なのだから当然だという理屈だ。しかし、日本を含む国際社会全体は海上の境界線は海底の地形のいかんにかかわらず、中間線を基本とすると考える。中国の考え方は、国際社会のそれとは異質なのだ。
宇宙に関しても中国は特異な考え方を表明してきた。米国議会の常設政策諮問機関である「米中経済安保調査委員会」の報告書を見てみよう。
ちなみに、同委員会は、民主、共和両党が選んだ専門家で構成される超党派の組織だ。米中の経済関係が米国の国家安全保障に及ぼす影響の調査を目的とする。その研究への評価はきわめて高い。2008年の同委員会の報告書は次のように分析している。
「多くの中国人学者たちが、中国の統治する空間は領土上空に始まり、宇宙に向かって無制限に延びている、という主張をしている。中国当局は、自国の主権が宇宙にも及ぶことを明記した国内法をまだ制定はしていない。しかし、人民解放軍の著名な戦略家の蔡風珍将軍は、『一定地域の地上、上空、宇宙は切り離し不可能の統合体である。これらは現代の情報化戦争の戦略的な司令高度なのだ』と主張している」
国際社会には、宇宙上空のどの高さまでが、その国の領空なのかという規定はないが、一定の高度以上の空間は人類共有の空間だという考え方は受け入れられている。だからこそ、国際宇宙ステーションの建設をはじめ、多くの宇宙衛星の打ち上げが可能だ。
ところが、中国は、地上とその上空、宇宙は切り離すことの出来ない統合体だとしたうえで、「情報化戦争の戦略的司令高度だ」と主張するわけだ。海洋権益の貪欲な追求と同様に、宇宙権益についても貪欲かつ独善的な主張を展開しているのだ。
中国はこのような意図を具現化する力をつけつつある。ミサイル迎撃実験での成功もその一つだ。前述の委員会は、中国の宇宙に寄せる意図が、他の国々とは異なり濃い軍事的色彩を帯びていると分析する。
「(中国は)宇宙での軍事行動につながる兵器類の大規模な開発計画を進めている。衛星通信妨害装置、全地球測位システム(GPS)妨害装置、衛星攻撃ミサイル、レーザー兵器など、宇宙用兵器の開発や配備を野心的に実行している」
中国人民解放軍の基本目標は、「自国の主権の強化」である。そのことは中国の「国防白書」2006年版にも明記されている。彼らの主権は軍事力によって強化され、まず、アジアで確立される。
その際の中国の最大関心事は米国の介入を阻止することである。ミサイル迎撃実験の目標も同様であろう。
米国がその海域で力を失い、あるいは撤退したとき、中国は南シナ海の西沙諸島、さらに南沙諸島を取った。東シナ海、尖閣諸島、沖縄で同じ運命をたどらないためにも、鳩山政権は普天間問題を解決し、日米同盟を強化しなければならない。