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2008.03.20 (木)

「 無法な海上攻撃、日本は怒れ 」

『週刊新潮』'08年3月20日号

日本ルネッサンス 第305回


 南極海で調査捕鯨を続ける日本鯨類研究所の調査母船、日新丸に、米国の反捕鯨団体「シー・シェパード」(SS)が、執拗な攻撃を繰り返した。3月3日には海上保安官2人と乗組員1人が負傷した。

 後述するように日本の調査捕鯨は、国際捕鯨委員会(IWC)で認められた合法的な行為である。それに対してSSが行ったことは、海賊行為に他ならず、日新丸に同乗して警戒に当たっていた海上保安官が数回にわたる無線警告の後、SSに向けて音響警告弾を計7発投げたのは当然だ。6発は空中で破裂、1発は相手方の甲板に落ちて破裂した。

SSのワトソン船長は7日、豪ABCラジオに「銃撃を受けた」「防弾チョッキを着ていなかったら重傷を負っていただろう」と述べたが、これらは偽りである可能性が高い。

日本側が投げた警告弾はテニスボール大でクラッカーのように大きな音をたてて破裂する。大きな音は相手を脅かすためで、警告弾は武器に該当せず、殺傷能力もない。

日本捕鯨協会の中島圭一会長は、3月10日、ワトソン船長の主張は「虚偽を通り越して滑稽ですらある」との強い反論を、次のように発表した。

「保安官の投げた投擲弾は、空中で破裂する警告弾にすぎず、人体に害をもたらすものではない。いままで何も反撃しなかった日新丸から反撃されたのでよほど慌てたのだろう」

事件に関して、英国ヒースローで中間会合を開催していたIWCは3月8日、全会一致でSSに対し、「海上における安全を阻害する危険な行動の停止」を要求した。また、SSが行った「船舶の活動に関する人命と財産に危険を及ぼす全ての活動は受け入れられない」として、これを強く非難する声明を発表した。

IWCはまた、声明文末尾に、SSが「受け入れ難いふるまいと行動」によって1987年以降、IWCへのオブザーバー登録を拒否されていることを、念を押す形で明記した。

IWCがこれまでの20年間、全ての会議から追放し続けてきたのがSSであり、今回、IWC中間会合の全出席国が一致して非難声明を出したにもかかわらず、同会の締約国である豪州などではSSの面々が英雄扱いされているのだ。

迷走をつづけるIWC

横浜市長の中田宏氏は、捕鯨問題を研究してきた数少ない政治家の一人だ。氏は、感情論がIWCを覆い、IWCの本来の機能が果たされていないと指摘する。氏は昨年5月、米アンカレッジでのIWC年次総会に、09年のIWC年次総会を横浜に招致したいと考え出席した。

「横浜は来年、開港150周年を迎えます。周知のように、日本は、米国が捕鯨船団の補給のために開港を求めたことが発端となって開港しました。横浜、そして維新後の日本の歴史は、そこに端を発するわけです。それを記念する意味で横浜でのIWC総会の開催を考えたのです。しかし、年次総会での議論は余りに非建設的でした。科学的知見と理性を欠いた反捕鯨国の感情的な議論を聞いていて、こんなIWC総会を横浜で開催するのは無意味だと考え、招聘をとりやめました」

IWCの本来の目的は、海洋生物資源を持続可能な形で管理することである。なかでも、海洋の生態系の最上位にあって、膨大な量の魚類を食べる鯨を管理すると同時に、捕鯨の適正水準を守らせることが目的だ。

生態系の最上位にある鯨だけを守り続ければ、海洋資源のバランスは必ず崩れていく。人類も魚類の捕獲を続ける結果、海洋の生態系はいよいよ、バランスを失う。だからこそ、鯨類を管理する発想が生まれたのだ。

しかし、幾つかの欧米諸国が、鯨を愛し熱中する余り、IWCも彼らの声に影響され、本来の鯨資源と捕鯨の管理という視点を失ってきた。IWCの報告書は、IWC自体がもはや機能していないことを認め、悲鳴にも似たコメントを載せている。SSへの非難を全会一致で発表したヒースローでの中間会合での発表から拾ってみよう。

「IWCは近年、議論の二極化が進み、袋小路とでも表現すべき事態に陥っている」「そのためにIWCは外部の専門家を招き助言を求めた」というのだ。

では、外部の専門家はどんな助言を与えたのか。「合意形成により努力せよ」「採決を頻用するな」「困難な課題が生じたときには冷却期間を設けよ」など9項目の「助言」が並んでいる。

科学調査が無視され、感情論が罷り通り、収拾不可能な事態に陥ったIWCの袋小路振りが際立つ。

危機管理のあり方とは

日本が長年にわたって実施してきた科学調査は、非常にレベルが高く充実した内容だ。反捕鯨国の人物でも、科学者であれば日本の調査に納得し、日本などIWCの半分近くの国々が主張する一定数の鯨の捕獲に賛成の立場をとる。だからこそ、IWCの科学委員会では日本は支持されてきた。科学的主張に基づいた日本の調査捕鯨も了承されてきた。

だが、科学委員会の提言は、本会議になると、無視され否定され覆されるのが常である。本会議のメンバー国は現在、78。日本をはじめとする鯨資源の持続的利用を支持する国々が36、反捕鯨国が42で、その差は6か国だ。

ほぼ二分されているIWCだが、前述のように、理性的に科学に基づいて討論する科学委員会では、日本への支持は非常に高い。理論で勝っても、彼らは感情で反発する。そこでSSのような感情むき出しの海賊行為に直面した日本はどうすべきか。

まずSSに対しては、あくまでも毅然として対処すべきである。海保の保安官は警告したうえで警告弾を投げたが、危機管理の専門家、佐々淳行氏は、もう一歩踏み込むべきだと語る。

「海保は、北朝鮮の工作船が能登半島沖に出現したとき、基本的に追尾するだけでした。そこで法改正を行い、次に北朝鮮の武装工作船が奄美沖に出現したときまでには船体に向けて射撃する『船体射撃』が可能になりました。SSによる今回の海上での不法行為に対して、海保は船体に向けて発砲してよかったのです」

他方、海保の巡視船が事件当時、南極海にいれば、その種の攻撃は可能だけれども、調査捕鯨船に海保の保安官が乗船していた状況では、海賊行為に対してさえ、手を出せないのが日本の法律だとの分析もある。

ではなぜ、乗組員の命にも関わりかねない危険な妨害が予測される海に、海保の船は出ていかないのか。答えは明白だ。海保の船の能力では、あの遠洋に出かけることは不可能だからだ。

敵意に満ちた違法攻撃が見せつけたのは、危機のなかで、国家として国民を守り、国益を守る術が余りにも欠けている日本の姿だ。

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