「 同盟国米国の軽視と中国偏重 福田外交で陥る危険な罠 」
『週刊ダイヤモンド』 2008年12月29日・1月5日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 721
福田康夫首相が12月27日から30日まで、4日間にわたって中国を訪問する。11月16日の訪米は、わずか26時間の滞在だった。中国に偏重するかのような日本外交は、はたして持つのだろうか。 日本外交の危うさは、じつは安倍晋三政権時からうかがえた。安倍前首相は、政権発足直後に中国を訪れる一方、訪米は政権発足から半年以上が過ぎた2007年4月だった。中国、韓国、NATO本部への訪問より後になったわけで、その間、米国が北朝鮮外交を対立軸から融和軸へと切り替えたプロセスからは明らかにはずれていた。米国の協力なしには拉致問題の解決はいっそう困難になるだけに、日本外交は直接的な傷を負ったといってよい。 後任の福田首相は当初からアジア外交、すなわち中国外交重視を打ち出した。同盟国米国を重視する姿勢が希薄な福田首相に、ブッシュ大統領は笑顔で接しながらも、よそよそしさを隠さなかった。米国が現在最重要だととらえているイラン問題についても、福田首相にはひと言も語っていない。
イラン問題は、ブッシュ大統領が11月7日のサルコジ仏大統領、9~10日のメルケル独首相との会談で最も多くの時間を費やした問題だ。掛け値なしに、米国にとっての最重要の問題、日本にとっては文字どおり石油の供給という生命線に直結する問題について、米国は日本にひと言の相談もしなかった。このことの持つ意味の深さを、読み違えるべきではない。だが、福田首相は、日米関係の希薄化について心を痛めているようでもなさそうだ。氏の外交を支える私的懇談会「外交政策勉強会」の構成員に、首相の意図が明白に反映されている。谷野作太郎・日中友好会館副会長ら、総じて“チャイナスクール”の面々が集まっている。
首相の四日間にわたる中国訪問には、いくつか重要課題が待ち受けている。中国側は、今次の日中首脳会談、08年の胡錦濤国家主席の訪日に大きな期待を寄せる。北京オリンピックを盛り上げ、新たな躍進へとつなげるためだ。そのためにも日本と詰めるべき課題として、東シナ海や歴史問題がある。
歴史問題、その象徴である靖国問題は、中国にとって日本コントロールの手段にすぎない。にもかかわらず、安倍前首相は中国の思惑を忖度して屈服した。福田首相は「読売新聞」の論調に影響されたのか、親中派の意向を代弁したのか、早々に中国の期待する“参拝せず”の姿勢を打ち出し、これまたすでに敗れている。
では、東シナ海問題について、福田首相はどこまで日本の立場を代表しうるのか。過去30年間の海洋境界についての国際社会の争いは皆、中間線を基本にして解決されてきた。地中海に浮かぶ小さいながらも美しい国マルタとリビアの海域境界線は、1985年に等距離原則で決着した。国際司法裁判所はこのとき、「(海の境界線は)海底の地質学・地質構造学的特性は各国の権原の証明に無関係」と断じた。つまり、中国の大陸棚がずっと続いているのであるから、東シナ海は沖縄海溝まで中国の海だ、という中国側の主張は通らないということだ。
それでも、調整の余地はある。リビアの海岸線はマルタのそれより長い。それを勘案して中間線を少しマルタ側に移し、両国の海の境界とした。
その後に画定した海域境界線は、93年のデンマークとノルウェー、99年のエリトリアとイエメンなど、すべて中間線を基本とする。東シナ海問題については、中間線を主張する日本が正しい。中国が一方的なのだ。
首相はこの問題にきっぱりと決着をつけなければならない。そうして日本の国益を守ることなしに、中国の環境問題解決に手を貸すという理由で、日本の資金、技術を無償供与するような外交は許されないのだ。