「 立場が変われど国際摩擦を避けて通る福田首相はやはり「不可」評価のままか 」
『週刊ダイヤモンド』 2007年12月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 718
2002年4月に、発足一年後の小泉純一郎政権の評価を誌上座談会で問われたことがある。出席者は京都大学の中西輝政教授、経済アナリストの森永卓郎氏、それに私の三人だった。
福田康夫首相が訪米してブッシュ大統領と会談し、シンガポールでの東南アジア諸国連合の首脳会議で中国の温家宝首相とも首脳会談を行なった今、あらためて五年前の座談会を読み直した。驚いたことに、三人とも「特優、優、良、可、不可」の五段階で福田氏に「不可」の最低評価を下していた。
当時の福田氏への評価は、極端に二分されていた。「不可」の落第点とは対照的に、非常に高く評価する人びともいた。理由は“手堅い”“失敗しない”“官房長官としての会見でボロを出したことがない”などというものだ。
確かに福田首相は、官邸での“ぶら下がり”会見を見る限り、若い記者たちをよくコントロールしている。その手並みは、たとえば安倍晋三前首相とは比較にならない。
かといって、日本の国益に基づいて国際社会を“コントロール”できているかといえば、答えは明らかだ。ブッシュ大統領との会談では、首相は日本にとっての重大案件である拉致問題を自分から持ち出すことはしなかった。問題を切り出したのは、ブッシュ大統領だった。
なぜ、ブッシュ大統領は拉致問題を切り出したのか。日米首脳会談に先んじて、平沼赳夫氏ら拉致議連の代表と家族会の皆さんがワシントンの有力上院・下院議員、シンクタンクを訪れ、「米国が実行しようとしている対北朝鮮、テロ支援国家の指定解除は間違っている。北朝鮮のテロ活動は続行中だ」と主張したからにほかならない。
保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズなどでの訴えが、大統領に報告されていたと思われる。
一方、福田首相は、水を向けられたにもかかわらず、明確な主張を展開していない。
相手とのあいだに意見の不一致や摩擦を起こすような問題については、なるべく触れないという姿勢は、温首相との会談でも同様だった。日中関係は今、微笑に彩られ、深刻な問題はあまり話題にされない。かといって、問題は解決したわけではなく、厳然として存在し続けている。
その一つが、東シナ海のガス田開発である。
温首相との会談で、福田首相はこの東シナ海のガス田問題についてもほとんど主張していない。11月17日の「産経新聞」では、それより三日前に東京での日中協議で、日本側が協議の停滞を理由に試掘を示唆した際、中国側が「試掘なら軍艦を出す」と発言したと報じた。日本が東シナ海でガス田の試掘を実施するなら、中国は軍事力でこれを排除する、つまり、戦争も辞さないと言っているのだ。この真偽を確認するために取材をしたら、官僚たちは中国をかばって、日本への恫喝があったことを否定した。
だが「産経」は23日、再び報じた。安倍政権下では、中国側の譲歩がなければ、今秋にも試掘に入る準備として漁業組合などと交渉を始める予定だった。福田首相は方針を変えて、試掘の準備はしないことを決定したというのだ。さらに注目されたのが、同紙が、軍艦を出すとの中国側の発言は、じつは一度や二度でなく、「複数回」あったとしている点だ。
官僚は滅多なことでは情報を出さない。いわんや、親中派の福田政権下では、日中関係に負の影響を及ぼす情報は出てこなくなる。そうした状況下で「産経」が二度にわたって報じたのは、それを真実だと信じられる情報を持っているからだ。かつて官房長官としての福田氏を「不可」と断じたが、首相となり日本を代表する立場に立った今、日本のために主張できない福田氏は、やはり「不可」のままである。