「 米国内でも批判強まる対北朝鮮外交 テロ支援国家の指定解除は大いに疑問 」
『週刊ダイヤモンド』 2007年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 713
横田めぐみさんの拉致から30年が過ぎた。13歳の少女は43歳となり、横田夫妻は共に70代だ。
「疲れ果ててしまいました」と母親の早紀江さんは語る。「ブッシュ大統領個人は拉致問題をきちんと理解してくださっていると思いますが、国務省には北朝鮮の実像が見えていないのでしょう。私たちには理解できない北朝鮮融和策ですもの」と嘆く。
米国国務省の対北朝鮮柔軟外交は明らかに間違っている。ライス国務長官もヒル国務次官補も、北朝鮮が寧辺の5,000キロワットの実験用原子炉、使用済み核燃料棒の再処理施設、核燃料棒の製造施設の三つの施設を“無能力化”することを高く評価するが、これらはいまやほとんど役に立たない老朽施設だ。その“無能力化”は意味がない。
北朝鮮にはほかにも核関連施設があり、北朝鮮は全情報を開示すると誓約した。だが、それが正しく実行される保証はまったくない。にもかかわらず、ライス長官らは、テロ支援国家の指定を解除するというのだ。
拉致議連会長の平沼赳夫氏は、「そのような動きは日米関係を損ねる」と強調する。超党派の議員団団長として訪米した氏は、上下両院、国防総省、国務省、ホワイトハウスを訪ね、日本の主張を力説した。
「下院では、二八議員の連名で、北朝鮮をテロ支援国家の指定から解除するのに反対の法案を出してくれました。賛同議員は今も増えつつあります。上院でも反対法案を作成中でした。感謝祭後に提案してくれると思います」
氏は、米国の立法府には国務省主導の対北朝鮮譲歩外交に強い反対があることを実感したと述べるとともに、日本政府はもっと日本の立場を強く打ち出すべきだと強調する。日本政府、とりわけ外務省には、米国の指定解除は不可避との見方が強い。一六日の日米首脳会談でブッシュ大統領は「解除しない」と明言しなかった。だから「指定解除は不可避」というのだ。
だが、福田康夫首相も外務省も、そんな消極的な姿勢で北朝鮮と闘って、国民を救うことができると考えているのか。そもそも首相は、拉致被害者を救出したいという切実な想いを持っているのか。つい疑いたくなる。
私たちは、拉致問題について、多くの米国人が日本の側に立っていることを実感している。シーファー駐日大使は大統領宛の書簡で、解除は日米関係を損なうと伝えた。平沼氏らの訴えに、上院も下院も解除反対の意向を明確にした。有力紙の「ウォール・ストリート・ジャーナル」も一六日、「ピョンヤンの死の灰」と題した社説を掲げ、解除は日本への侮辱で同盟関係を損なうと警告した。
救う会の西岡力氏は、これまでブッシュ政権を批判したことのなかったM・グリーン氏さえも同件に関して政府を批判したと強調する。かつてブッシュ政権の国家安全保障会議上級アジア部長として活躍したグリーン氏は、日米関係に摩擦が生じても、それを上回る成果が得られるのなら解除の意味はあるとしながらも、北朝鮮は決して米国の期待する結果を出しはしないと分析して、批判しているのだ。
拉致被害の当事国でもない米国にこれだけの反対が存在する。それに比べて、日本政府の姿勢のなんと自主性のないことか。拉致問題解決への情熱のないことか。指定解除は米国政府の既定路線として諦めるのはまだ早い。第一、そんなことは許されない。
横田夫妻をはじめ家族会の皆さんは米国世論に訴えるべく、米国一流紙に指定解除反対の全面広告を打つ予定だ。高額の掲載料は広く国民の支持と浄財で賄う。首相は、家族のこの必死の想いを受け止めよ。首相は家族に「私を毛嫌いしないでください」と頼んだ。政府こそが先頭に立つべきときに、それをしないのであれば、毛嫌い以前に愛想を尽かされるのである。