「 先を見た中国の国際標準化戦略 国益意識が低い日本の最悪のシナリオ 」
『週刊ダイヤモンド』 2007年11月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 716
インド洋での海上自衛隊の補給活動を再開するための新テロ対策特別措置法案が13日、衆院本会議で可決され、参院に送られた。だが、混迷を極める国会では同法案は審議開始の目途さえ立っていない。
政党に党利党略は当然だが、政党も政治も日本国と国民のためにある。党利党略を超えた国益がなければならず、国益は党益を凌駕するのである。自民・民主両党の、少なくとも執行部は、その原点を欠いている。
国家意識、あるいは国益意識の有無は、事柄が重要であればあるほど、結果において大きな差を生じさせる。一例が知的財産権だ。知財権といえば中国の模造品を連想する。中国の模造品輸出で世界が被る損害が80兆円に上るように、優れたアイディア、仕組、技術、すべてを対象とする知財権には膨大な額のお金がついて回る。
知財権保護について、日本の法整備が遅れているのは明らかで、被害を被った日本企業の多くが泣き寝入りに終わるのが現実だ。知財権保護が国益、つまり、企業の集合体としての国家の利益のためにどれほど重要かという意識が欠けているのが日本である。国家意識の欠如が企業及び個人の知財権を損なっているのだ。
他方、私たちは、海賊版と模倣品を作り続ける中国人を厚顔無恥で、知財権の意識を欠いていると憤る。だが、この見方は甘すぎる。中国人は強烈な国家意識で動いている。だからこそ、彼らは知財権が国益、国力にもたらす影響を研究し、いまや全局面を反転させるべく新たな戦略に乗り出している。それが国際標準の取得である。つまり、知財権とは国際標準のことなのであり、知財権戦略は国際標準化戦略と同義語だと彼らは気付いたのだ。
国際標準は取った者が勝つ世界だ。いったん取得すれば、それを使う相手からロイヤルティを得ることができる。日本の技術がどれほど素晴らしくとも、その技法、手法に関して他国に国際標準を取られてしまえば、自らの工夫と精励で生み出したものに対して日本が対価を支払わなければならないのだ。それが国際標準なるものが包含する狡猾さである。それに気付かない日本は敗北しかねないのだ。
『中国が世界標準を握る日』(光文社)や『ビジネスモデル特許の驚異』(PHP)などの著者、岸宣仁氏は、国際標準の重要性に目覚めた中国が2001年に温家宝首相直属の「国家標準化管理委員会」を設置したことを重視する。〝中国式〟技術や仕組を国際標準にする前に、国家標準として定めてしまう目的だ。〝中国式〟技術や仕組が、日本からの盗用や模倣であっても、彼らは少しも構わない。中国の国家標準としての登録が大事なのだ。
そのうえで中国の国家標準を国際標準として認めさせればよいわけだ。そのために中国は今、国際標準化機関にある多数の小委員会に、多くの人材を送り込み、議長ポストを取りつつある。中国の国家標準を国際標準とする、あるいは国際標準に中国の国家標準を反映させるために、事務局運営の主導権を握りつつあるのだ。
中国には市場がある。そこに中国の国家標準を確立し、さらに国際標準を手にすれば、鬼に金棒だ。中国市場では、日本企業を含めて企業が中国標準に従わなければならず、天文学的な額のロイヤルティが発生する。
6年前に国家標準化管理委員会をつくった中国に比べて、日本には戦略も、問題意識もない。まさに国家意識、国益意識の有無の相違である。新テロ特措法案で混迷を続ける日本の政治の貧しさは、政治家も経済人も国民も、日本が国家であることを忘れてすごしてきた戦後60余年の結果である。
国家意識、国益意識の回復が必要なのは、国防や外交のためだけではない。経済、産業、ひいては国民生活のためにも重要なのだ。
中国の国際標準化
櫻井よしこさんのブログに「先を見た中国の国際標準化戦略 国益意識が低い日本の最悪のシナリオ」(週刊ダイヤモンド 2007年11月24日号)の記…
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