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2007.07.26 (木)

「 異形の中ロ両国、脅威に備えよ 」

『週刊新潮』 2007年7月26日号
日本ルネッサンス 第273回


異形の中ロ両国、脅威に備えよ

ユーラシア大陸の2つの地域大国、中国とロシアがますます異形の国となりつつある。

中国が、言論の自由を許さず、人権に配慮せず、環境汚染によって人類を破滅させかねない犯罪的国家であることは、度々指摘してきた。

その中国とロシアを比較して、米国の〝政治哲学者〟フランシス・フクヤマ氏は、「それでも、現在のロシアは、中国より民主的である」と書いた(『読売』7月16日朝刊「地球を読む」)。

理由はプーチン大統領は選挙によって選ばれ、ロシアは中国のようなインターネット検閲も行わず、投獄している反政府派の数は中国よりずっと少ないからだそうだ。

しかし、プーチン政権下ですでに14人もの言論人が殺害されたが、殺害犯は逮捕されていない。のみならず、殺害にはプーチン政権の意思が反映されていたとの疑いが濃厚である。こんな異常は罷り通ってはならないのである。加えてロシアでは、プーチン政権が各企業を次々と国有化し、市場経済への逆行を強めている。大規模石油・天然ガス開発事業、「サハリン2」では、三井物産、三菱商事、英蘭ロイヤル・ダッチシェル3社の経営権が、突然、ロシア政府系のガスプロムに奪われた。国際法無視の独裁的手法である。

中国とロシアはそっくりなのだ。相似形をなす両国の姿は、この上なく異形で、両者の最大の共通項は強大な軍事力の構築である。国力の基盤は何よりもまず軍事力にある。最終的には、国際法も道義も無視して、力に物を言わせる国家だ。ロシア問題専門家の伊藤憲一氏は、これを〝力治国家〟と呼んだ。政治や交渉、文化・文明の力では決してなく、剥き出しの力、暴力、武力によって成り立つ国という意味だ。その点で、7月14日、プーチン大統領が欧州通常戦力(CFE)条約の履行を一時停止する大統領令に署名したのには深刻な意味がある。

悪化し続ける米ロ関係

1990年11月に結ばれたCFE条約は、東西陣営の冷戦終了を象徴するものだった。戦車、戦闘機など非核兵器の保有上限のみならず、条約履行を検証する軍事視察の受け入れや、各国軍の活動に関する情報提供も定めている。だが、それを、プーチン大統領は一時停止すると決定したのだ。実際の停止までには150日間の猶予期間が設けられたとはいえ、同決定はロシアの進む方向を示しており、同国の特質を象徴するものとなるだろう。

国際政治評論家の田久保忠衛氏は、ロシアの決定は直接的には米国がミサイル防衛(MD)網の関連施設をチェコとポーランドに設けようとしていることへの反発だが、それ以上に旧ソ連邦の体質に近づきつつある点で、不気味な動きだと見る。
「ロシアがどのようなプロセスを経てここに至ったかを辿り、力の再構築にかける彼らの狙いを分析すべきです。プーチン大統領は、ロシアと米国の軍事費は1対20と大きく開いており、米国と軍拡競争をする気はないと語っています。かといって、軍事的劣勢をそのままにしておく心算でもない。一概には言えませんが、今回の方向転換は、ロシアが私たちの価値観とは全く無縁な形で、再び強力な帝国を築こうとしていることを示していると思います」

2006年2月、ミュンヘンで開催された世界安全保障政策会議でプーチン大統領は米国の一極支配を批判し、米国のMD戦略、特にチェコとポーランドに基地を設ける計画に烈しく反発した。今年4月26日の年次教書演説でも同様の厳しさでMD計画に反発した。ソ連崩壊後、旧ソ連圏諸国を次々にメンバー国に加えつつ、東方に勢力を拡大する北大西洋条約機構(NATO)に対しても同様の非難を展開した。親欧米路線を採るウクライナやアゼルバイジャンなど旧ソ連圏諸国に対しては、エネルギーを武器とする尋常ならざる脅迫政策を進めてきた。

烈しい米国批判の大統領演説を受けてイワノフ第一副首相も「ロシア軍は今後、部隊の移動をNATOに通報しない」と述べた。

5月15日にモスクワを訪れたライス国務長官はプーチン大統領に、MD網はイランからの核攻撃の危険に備えるものだとの米国の戦略論を説明。だが、両者の溝は埋まらない。ただ、「言葉による戦争を慎む」という点の合意は可能だった。

米露関係は全く改善されず、プーチン大統領は「MD計画はロシア向けであり、実行された場合はロシアのミサイルを欧州に向ける」と、冷戦回帰の意図さえ明らかにした。

そして6月7日、ドイツのハイリゲンダム・サミットで米露首脳が会談。プーチン大統領は、アゼルバイジャンのレーダー施設を米露共同で使用しようと提案、ブッシュ大統領は即答を避けたが、一週間後の6月14日、ゲーツ国防長官がロシア提案は「受け容れ難い」「従来どおりの計画を進めていく」と表明した。

問われる日本の危機意識

7月1日、2日、プーチン大統領の訪米と再び米露首脳会談の開催。プーチン大統領は今回はMD網の構築にNATO及びロシアも参加させること、情報共有のための施設をモスクワ或いはNATO本部に設けることなどを提案した。MD計画に協力する形をとりながら、実際にはその骨抜きを狙うロシアの意図も、米国の拒否も、明らかだった。

これら一連の駆け引きの末に、CFE条約の一時停止という今回のプーチン大統領の決断がある。

強い主張と米国に反発し強いロシアを目指すプーチン大統領をロシア国民は熱烈に支持する。対するブッシュ大統領はつとめて友好姿勢を演出する。プライベートな別荘にプーチン大統領を招き、父親のブッシュ元大統領らと共に家族ぐるみの夕食会や沖釣りでもてなした。その友好姿勢を裏返せば、米国にはロシアとの関係を悪化させる余裕がないことを示している。
「中東情勢の改善が見られないいま、ブッシュ政権はロシアのみならず、空母建設に踏み出した中国に対応する余裕もないのです。米国防総省は、中国の軍事力強化に重大な懸念を表明しながらも、阻止出来ない。その場合、米国が必要とするのは、NATO及び日本の力です。また日本を守るのは、日本でしかあり得ない。しかし日本が、この危機的な情勢を認識しているのか。極めて疑問です」と田久保氏は語る。

軍事力を国家の基盤に置く国々に対応するには、相応の軍事力、それを有効に活用する政治的意思、行動を可能にする法整備や制度がなければならない。すなわち、まず集団的自衛権の行使を可能にし、憲法9条の改正を実現することだ。日本周辺で高まるこうした危機への認識はあるのか、備えを固める覚悟はあるのか。安倍晋三首相、小池百合子防衛相に、厳しく問うゆえんである。

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