「 給食費滞納家庭の増加とあきれた言い草 美しい国の第一歩は“大人の教育”から 」
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 673
2006年、私たちは「美しい国づくり」を掲げる安倍晋三首相を70%近い支持率で誕生させた。07年、私たちはどこまで美しい国の創造が出来るだろうか。これに関して考えさせられる二組の数字がある。いずれも、美しい国づくりは私たちの意識こそが鍵であることを鮮烈に示している。
第一組の数字は、3,010万円の給食費滞納で273家庭に対し、12市町村が法的措置の導入を決定したことだ。なかでも最も件数の多い岩手県滝沢村は、人口約5万3,000人、盛岡市に隣接し、新興住宅地が開発され、多くの流入人口を擁する自治体だ。
同村の小中学生は約5,500人。うち、看過できない給食費滞納64件、計950万円について、同村は法的措置を決定、財産差し押さえの仮執行を明記した催促状を出した。
滞納保護者に見られる理由は、大別すると(1)経済的困窮、(2)納付意識の低さ、(3)生活における支払い優先順位の問題、に分類出来る。
それにしても、給食費は小中学生それぞれ、一食当たり251円と278円である。それをなぜ払わないのか。
「なぜ払えないのか」でなく、「なぜ払わないのか」と書いたのには理由がある。たとえば(1)の理由を言えば、多くの人は同情するかもしれない。「格差社会」といわれる今、払えない人がいるのはむしろ予測されるのであり、気の毒だと考えるかもしれない。しかし、たとえば滝沢村では「本来、経済的困窮を理由に払えないという家庭はあり得ない」という。就学児童を持つ家庭に対しては、経済的困窮があれば、教材費、給食費を含めて多種類の援助制度を設けているからだ。申請があれば、援助は確実に行われる。ほかの市町村でも事情は同じだ。
ところが、申請は世間体ゆえに出来ないとして、放置する家庭があるのだ。援助制度も活用せず、滞納で保護者責任を果たさないほうが世間体が悪いとは、滞納保護者は考えないのだ。
(2)は、経済的余裕があっても、払わなくてすむものなら払わないでおこうという親たちだ。どの市町村でも、「こうした親は、督促するとシブシブ払う」と担当者らは言う。
(3)は、住宅ローンが絡む場合が多い。マンション購入や自宅を新築した家庭は、住宅ローンの支払いを最優先して、給食費を払わないのだ。(2)(3)のケース共に、責任ある保護者としてはあるまじきことだ。
だが、教育現場に行ってみると、あるまじき非常識を振りかざす親は驚くほど多い。作り話かと疑われるほどの非常識な親が増えているのは、この国の美しくない現実である。たとえば、広島県庄原市では、77ヵ月間、3人の子どもの給食費、保育料約70万円を滞納した親が「義務教育だから払わない」「給食を出してくれと頼んだ覚えはない」などと、裁判で主張した。
給食費を督促された保護者全員がここまで身勝手なわけでは決してないだろう。しかし、払うべきものを払わずにすませたいと考える点では共通項がある。さらにもうひと組、次の数字が示す日本人の姿こそ寒心に堪えない。
今回、督促対象となった273家庭よりも、給食費滞納家庭は、じつはもっと多いという事実だ。滝沢村の場合、04年度で300家庭に上る。給食費滞納は1998(平成10)年度から顕著に増加した。それ以前は2ケタだったのが、この年初めて3ケタの160家庭になった。以降、増加傾向が続き、04年度で300家庭にも達したのである。
日本の良識や常識が消え去りつつある。これこそ日本にとって最も深刻な問題である。昔なら恥と考え、決して行なわなかった言動を、今は平然とやってのける大人がどれほど多いことか。その姿を、子どもがまねるのだ。こうしてみると、新年の課題、そして美しい国の第一歩は、大人をきちんと教育することだという現実が見えてくる。
給食費払わぬ親をどうする3
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