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2006.11.09 (木)

「 中国に芽生える新しい歴史認識 」

『週刊新潮』 '06年11月9日号
日本ルネッサンス 第238回

中国国内に、事実に沿って理性的に歴史を考えようとする人々が少数ながら存在する。中国共産党のイデオロギーに囚われず、自らを弱者と位置づけてひがむこともなく、歴史事実を歪曲することもなく、中国共産党政府の歴史教育政策を真っ向から批判する人々だ。

日中対訳で日本僑報社が出版した『中国の歴史教科書問題』(袁偉時著、武吉次朗訳)、『「氷点」停刊の舞台裏』(李大同著、三潴正道監訳、而立会訳)は、共産党支配の下で、硬直していた中国もやがてまともな国になる日が来るとの希望を抱かせる。

周知のように中国の週刊紙『氷点』は今年1月24日、中国共産党によって突然停刊処分にされた。袁偉時教授の論文、「近代化と中国の歴史教科書問題」を掲載したことが理由とされている。

同論文は日本に対しても非常に厳しい視点で書かれてはいるが、従来の中国政府や学者たちの一方的な主張とは根本から異なる。袁氏は、長年来、中国大陸の近代史研究と教育を支配してきた論調は「個別の歴史学者が革命宣伝の主張に呼応したもので、不幸にもイデオロギー化」したものだと指摘する。

「イデオロギーの抑圧は学術まで呑み込」み、イデオロギーに固められた歴史研究は貧困の一途を辿り、政治は歪曲され、国の未来は負の影響をうけているというのだ。「多くの人が嫌悪を催しているが、諸条件に制約され、泣き寝入りし沈黙するほかない」現状を、氏は痛烈に批判する。中国の正当性、中国共産党の正当性を強調する余り、中国の歴史教育では事実を歪曲し常に中国が正しいとの主張を教えてきた、それがどれほどの知的貧困を生み、政治をねじ曲げてきたかという告発でもある。

袁氏は1932年生まれ、中山大学哲学学部教授を務めた。『氷点』掲載の論文は02年に書いたが、これまで殆ど顧みられなかった。

中国人が、暴力で言論を封じ、貶め、価値観を共有しないというただひとつの理由で、多くの人々を死に追いやる原因を、袁氏は、中国の過てる民族主義に求めている。

生々しい中国自身への記述

「『愛国』を看板に騒ぎを起こし、その誤った主張と愚行に同意しない人に『西洋の奴隷』『買弁(外国資本の手先)』『漢奸』などのレッテルを貼りつける」と指摘し、中国政府のシンクタンク、社会科学院近代史研究所長だった張海鵬氏の名前をあげて、中国共産党の庇護の下で学説を磨いている学者や研究者をも、恐れず批判するのだ。

教科書について氏は、1840年のアヘン戦争と1899年の義和団事件を軸に検証している。双方とも外国人の一方的侵略で中国人はひたすら善なる被害者という位置づけで教えるのは間違いだと主張するのだ。

教科書では、「義和団が近代文明を敵視し盲目的に外国人や外来文化を排斥した愚挙について一字も触れていない」「義和団は、西洋人を殺し、外国人や外国文化に少しでも関係のある中国人まで殺した」と、書いている。1900年6月24日から7月24日のひと月間に全国で義和団によって殺された外国人は231名、内子供は53名、中国人の被害はもっと凄まじく、北京では、「当時の知識人たちが少なくない実録を残してい」て、それによると、6月18日、「死者は十数万人に上った」「日頃快く思っていなかった者を教民(キリスト教信者)だとして一家惨殺する」「刀や矛で殺され、バラバラに切り裂かれ、生後一月未満の嬰児すら残酷に殺され、人道は地に堕ちた」と、氏は生々しい指摘を引用した。

袁氏は中国の歴史教科書が、こうした中国人自身による恐ろしい事実に一言も触れず歴史を教えていることを非難して結論づけている。 「義和団事件とはまさに(中国自身の)専制統治が国家人民に招いた禍の典型である」と。

義和団事件を契機として中国は諸国の属国に転落し、国内には亡国の風景が広がったが、中国共産党の歴史教育はこの「災難の風景を革命救国の悲壮な楽章に書き換えてしまう」、それこそ、「まったく突拍子も無い話」だと突き放すのだ。

それにしても中国人の同胞殺害の規模と残虐さには息を呑む。全国に波及した義和団事件のありとあらゆる暴力行為の一部に過ぎない、北京というひとつの町でのある一日の被害者が「十数万人」だというのだ。袁氏は、制度改革を望まない勢力によって、清朝政府の下で「一億以上の中国人が『非業の死』を遂げ」たと記す。この虐殺の歴史を生きてきた人々は人間殺害のイメージを、自分たちの体験に基づいて記憶しているのではないか。彼らは日本軍が殺し尽くし、焼き尽くし、奪い尽くしたという。赤ん坊をボールのように投げて軍刀で串刺しにして殺したなどともいう。その種の残虐行為は日本人には考えられないことだ。中国人自身による“虐殺”の記憶が対日非難の背景にあるとはいえないだろうか。

日中史につながり得る変化

袁氏は、中国の教科書が、義和団による殺人、放火、略奪などは、外国の護衛隊と称する軍隊が北京入りした後に始まったのであり、外国兵の侵入を全ての原因と位置づける主張は根拠がないことを、当時の出来事を時系列できっちり並べて証明した。そのうえで、中国共産党が推進する歴史教育は「歴史の真相を歪曲しているだけでなく、清朝政府が国際法を蹂躙した罪を隠蔽するもの」と喝破するのだ。

袁氏は、「義和団から文化大革命まで」中国人が「やったことは民衆の殺傷、社会秩序と正常な国際関係の破壊だった」「文化大革命を否定するだけで、その淵源である義和団を徹底的に批判しなければ」この種の「暴行がふたたび台頭する」と警告する。だが、事実関係を軸としたこのまともな教科書批判は、中国共産党の一党独裁体制の下で掲載された途端に消されていった。中国を代表するとして高い評価を受ける研究者の多くが、同論文を取り上げもしない。共産党の枠内にとどまり、袁論文について尋ねると「あれは間違いばかりです」と答えるのみだ。

彼らがいかにこの種の“事実”の普及を恐れているかの証左である。袁論文は日本に対して厳しい批判も展開する。しかし、同論文を突きつめていけば、日中の歴史問題でも中国を一方的な被害者とする現時点での主張から離れて、新たな地平も開けてくるだろう。勇気をもって発信した袁氏、それを報じた「氷点」の李大同編集主幹、彼らを支持した識者たちの存在は、中国に生まれつつある、小さいが確実な変化が、やがて、より大きな変化へと、必ず、つながっていくことを予測させる。

そのことは、日本政府も日本の知識人も、眼前の都合に振り回され、安易に日本を悪者と断罪する歴史認識を受け入れることは、決してしてはならないと告げている。

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