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2006.06.08 (木)

「 靖国妥協外交で日本は守れない 」

『週刊新潮』 '06年6月8日号
日本ルネッサンス 第217回

福田康夫氏の首相候補としての存在感が高まり、支持率が急上昇中だそうだ。福田氏なら中国外交を巧くやってのけることが出来そうだからというのが理由らしい。

日中外交をスムーズに進めるために、靖国神社に参拝する首相に異義を唱え、“A級”戦犯を分祀せよと主張してきたのが福田氏だ。福田路線を支持すべく、氏の背後に控えるのが古賀誠、山崎拓両氏らだ。政治活動、個人的行状からみて、いずれも疑問符をつけざるを得ない人々だ。

メディアも“福田氏の存在感増す”と報じ、事実上支援している。

しかし、福田路線で本当に日中関係はうまくいくのか。私はそうは思わない。氏の政策の主だったものは、靖国神社参拝反対、“A級戦犯”分祀、代替追悼施設の建立、女系天皇制への移行などであろう。それら全てに共通するのは、眼前の問題に対処する弥縫型の政策であることだ。どこにも日本の国益を見詰める高い理想は見えない。福田路線に立脚する限り、日本国の立場の主張は金輪際不可能だ。

これまでの推移をしっかりと見詰めれば、日中関係の悪化は決して小泉首相の靖国参拝が主因ではない。主因はむしろ中国国内政治にある。具体的には胡錦濤、江沢民の現、前国家主席と各々の傘下に連なる陣営の権力争いの側面が非常に強い。

以前は、首相の参拝にもかかわらず、胡錦濤政権は小泉首相に前向きに対処していた。03年5月31日、ロシアのサンクトペテルブルクにおける初顔合わせで胡主席はSARS問題についての日本の支援に“心から感謝”した。

中国を長年取材してきた東京新聞編集委員の清水美和氏が語る。

「胡錦濤国家主席が日本に頭を下げて感謝したのには、非常に深い意味があった。江沢民は日本から多額のODAを貰いながら感謝もせず『評価する』と言っただけです。しかし胡主席は小泉首相に握手を求めて心から感謝すると述べた。その時点で首相はすでに3回、靖国参拝をしていた。江沢民時代とは対照的に、中国政府は靖国問題を超えて長期的視野で日中関係を築きたいと考えていたのです」

中国政府の日本に対する考え方は03年3月号の「文藝春秋」「中央公論」に掲載された人民日報論説部主任編集の馬立誠氏の論文にも反映されていた。論文で氏は日本を「事実に即して言えば、アジアの誇り」「率直にアジアの誇りであると言える」と絶賛した。そのうえで、「日本の謝罪問題はすでに解決」「中国の直面している課題のより多くは国内問題」と述べ、「感情的になるように煽るそうした『愛国者』は、実際には愛国賊なのだ」という言葉を引用した。そして中国のナショナリズムの問題点として「独善」と「排外」をあげた。

日本分断戦略を見据えよ

氏は「中日友好こそは唯一の正しい選択である」と強調したが、これは胡政権の意思の反映だった。流れを変えたのは、中国内の「愛国賊」の動きとそれを利用した江沢民勢力である。

同年8月には、胡錦濤路線を生ぬるいとして中国内で日本の新幹線購入に反対の署名が集まり始めた。江沢民が長年実施してきた反日教育の“成果”が時の政権に抗う形で表面化したのだ。日本側にも馬鹿な行動があった。9月の珠海での集団買春事件がそのひとつだ。住宅リフォーム会社「幸輝」の社員らによるもので、同社は後にお年寄りを狙った悪質リフォーム詐欺で逮捕者を出した。

西安大学での日本人留学生の寸劇も、中国社会の底流に教育で叩きこまれた反日感情の起爆剤となった。

反日感情の烈しさに、中国政府は狼狽し、対日政策の練り直しに乗り出した。これが同年12月に唐家迺㍾走ア委員が主宰した対日工作会議である。馬立誠論文や胡主席の日本への感謝に代表される友好的政策は否定され、強硬策をとる基本政策が確認された。但し、日本が中国を必要とするように、中国も日本を必要とする。というより中国は日本なしでは二進も三進もいかない。経済、技術において、中国は日本なしには成り立たない。だから中国政府は政治と経済の切り離しを考えた。それが「政冷経熱」である。

小泉首相ひとりを悪者にして、旨味のある経済だけはしっかり抱え込み実利を担保する方針を立てたのだ。

05年にはさらに中国がいきり立つ場面があった。同年2月の日米安全保障協議委員会、通称「2+2」で、両国の戦略目標にはじめて「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」という一文が入ったのだ。万が一、中国が軍事的手段に訴える場合、日米両国は対応するという意味だ。

米国に非難の矛先を向ける余裕のない中国は、さらに対日強硬策に傾く。日本の力を殺ぐために日本国内を分断し小泉首相を孤立させる。国際社会では、日米分断で日本の孤立をはかる。政冷経熱と4月の胡錦濤訪米の、それが意味である。

誇りを失った財界人

こうした背景事情に目配りすることなく、中国政府の政冷経熱政策に乗ったのが当時経団連会長の奥田碩氏、経済同友会の小林陽太郎氏、北城恪太郎氏らである。三氏は小泉首相に靖国参拝中止を提言したが、それは日本国を想うよりも、明らかに三氏が軸足を置く各企業の利益を想ってのことと考えざるを得ない。

三氏らは福田氏同様、首相の靖国参拝中止で日中関係は友好裡に発展していくと考えているようだ。しかし、これは浅知恵、視野狭窄、なによりも日本を貶める考えだ。

中国の要求に膝を屈すれば全てうまくいくと考える福田氏はじめ親中派の人々は、そのような考え方こそが日本を歴史問題の泥沼に引きずり込んでいくことを認識すべきだ。

中国政府は靖国参拝問題で、歴史問題を利用して日本を動揺させられること、日本を支配出来る旨味を実感した。その手を使わないはずがない。そこで何が起きたか。尖閣諸島の中国領有を主張する「中国民間保釣連合会」の童増会長が、日中戦争当時の日本企業による中国人の強制連行などに対し損害賠償訴訟を中国国内でおこすべく「中国民間対日賠償請求連合会」を4月に設立し、中国共産党がこれを公認したのだ。同連合会には中国共産党、政府、軍のOBが多数、名を連ねている。中国政府が手綱をゆるめれば、右の連合会は途方もない訴訟行為に出る危険性がある。中国政府が、靖国を遙かに超えて、深刻な実害を生み出す、歴史をめぐる訴訟メカニズムを作らせたのだ。

眼前の小利益を追い求める余り、歴史問題で不当な妥協を重ねることは墓穴を掘ることにつながる。親中派政策の行き着く先こそ、この墓穴である。中国の思惑も見破ることなく、墓穴を掘る人々に問いたい。そんな有様で何が日本を代表する財界人か、何が首相候補かと。

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