「 理想と現実の狭間の教育基本法 」
『週刊新潮』 '06年5月25日号
日本ルネッサンス 第215回
憲法改正とともに教育基本法の改正が焦眉の急である。過日与党の改正案が出され、かねて注目されていた愛国心について、そこには「我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊敬し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」と書かれていた。「愛国心を養う」と書けず、「愛する態度を養う」と表現したのは、自民、公明両党の連立から生ずる苦渋の折衷そのものの案だった。
他方民主党は5月15日、「日本国教育基本法案」を発表した。まず第一に注目すべきは、民主党が現行の教育基本法を廃止するとした上で、右の法案を新法として作成したことだ。
西岡武夫座長の下で、新法案を取りまとめた鈴木寛参議院議員が語る。氏は5年前の参院選挙で、教育問題のみをとりあげて約76万票を集めた。以来、民主党の教育基本問題調査会事務局長を4年間務めてきた。
「占領下で作成された教育基本法は一旦廃止し、真にあるべき日本国の教育を念頭にゼロから作り直すべきだとわれわれは考えたのです」
新法案に「日本国」と冠した点に、日本人が日本人のために作る教育基本法だという気概が込められている。
憲法も教育基本法も、こうした考え方が根幹にあってほしいと私は思っている。単なる改正ではなく、日本人の手で、占領軍が有無を言わせず日本人に与えたものを、根底から作り変える気概が必要なのだ。
現行の教育基本法の問題点は、全てにおいて個人を強調しすぎ、家庭や家族を置き去りにしたこと、現場を強調しすぎ、教育行政への国の関与を〝不当な支配〟として排除しようとしたこと、日本国民を抱きとめ、守り育てる大きな枠組みとしての国家や、国家を構成する歴史や文明、穏やかで謙虚な精神文明の生成に大きな役割をはたした宗教心の重要性を無視して、まるで人間はみな突然、ひとりでこの世に生れ、ひとりで成長したかのように位置づけたことだ。その結果、個人はバラバラの存在となり、家庭や家族、故郷や国から切り離されていった。
民主党案の大胆な挑戦
民主党の新法案は、「前文」で家庭を教育の原点と位置づけた。さらに第十条で、「家庭における教育は、教育の原点」だと再度強調し、「子どもの基本的な生活習慣、倫理観、自制心、自尊心等の資質の形成に積極的な役割を果たす」のが家庭教育であると規定した。
与党案も第十条の「家庭教育」に同趣旨の内容があるが、民主党案は右の文言のように、明らかに現在の教育に欠けている資質を具体的に書き出した点でより説得力がある。
現行教育基本法では、教育行政は「不当な支配」扱いされ、現場の考え方が優先された。その結果、日教組が力を持ち、教育を歪めてきた。民主党案はこの「不当な支配」条項を取り去り、第四条において、「学校教育は、我が国の歴史と伝統文化を踏まえつつ」「学校の自主性及び自律性が十分に発揮されなければならない」とした。与党案が「不当な支配」の文言をそのまま残したのとは対照的である。
宗教教育に関しても民主党は重要な点を新法案に盛り込んだ。第十六条で「宗教的な伝統や文化に関する基本的知識の修得及び宗教の意義の理解」「宗教的感性の涵養及び宗教に関する寛容の態度を養う」ことなどは「教育上重視されなければならない」とし、「生の意義と死の意味を考察し、生命あるすべてのものを尊ぶ」ことの大切さも強調した。
宗教心も道徳心も消え去ったかのような現在の日本で、宗教心の育成、小さな存在としての人間を超えた大摂理への畏敬の念を養うことがどれ程大切かは、今更言うまでもない。この点も、現行教育基本法をほぼそのまま焼き直し、宗教心の涵養よりも、行政による特定宗教への肩入れの禁止に軸足を置いた与党案よりは、民主党案のほうが優れている。
注目の「愛国心」について、民主党は「前文」で「日本を愛する心を涵養」すると明記した。「祖先を敬い、子孫に想いをいたし、伝統、文化、芸術を尊び」と続け、与党案を凌駕した。再び鈴木氏が説明する。
「愛国心ではなく、日本を愛する心の涵養としたのは、そうすれば、日本人と日本国を作りあげてきた祖先の生き方も伝統も文化文明も、全て包含されるからです。聖徳太子以来の日本、大化の改新で太子の理想を具現化した日本、古事記や日本書紀に記されている日本国の足跡、そこから窺える日本人の価値観全てを愛する心という意味で『日本を愛する心』としました」
聖徳太子、大化の改新、奈良時代に編纂された古事記と日本書紀を縦軸として貫くのはまさに旧き良き日本の価値観である。そこには、神道も仏教も含めた宗教への畏敬、天皇を戴く皇室の尊重、皇室を支えてきた男系男子による皇統の継続、善き道徳心、上も下も睦(むつ)びて和の精神を尊重することなどが、当然含まれる。
国家百年の教育のために
それにしても、旧社会党系議員も混在する民主党で、よくこの法案を取りまとめたものだ。西岡座長や鈴木事務局長、鈴木氏と共に奔走した佐藤泰介参議院議員らの功績であり、高く評価したい。
問題は、しかし、民主党案に沿って教育基本法が改正される可能性はあるのかという点だ。その内容は、バランスのとれた常識を備える保守の立場の人々が切望するものであり、自民党議員のなかにも、この民主党案こそが本来の自民党提出の案でなければならないと語る人は、実は、少なくない。だが、肝心の自民党は、公明党との連立で制約を受けており、両党間で詰めた現法案を修正するのは難しいと見られている。考えられる“修正”は、付帯決議に「愛国心」を盛り込むことや、国会質疑の答弁で「愛国心の涵養」という言葉で答えることなどだという。
自民党にとって、公明党との連立は、参議院での過半数を得る代わりに、重要法案になればなるほど、自民党の質的変化を進めるジレンマとも、深刻な矛盾ともなって噴き出してくる。
他方、民主党が党内左派勢力をおさえて今回の至極まっ当な新法案をまとめることが出来たのは、国会で過半数を持たない民主党の案は成立しないと踏んだうえで、従来自民党を支えてきた各種宗教団体を、新法案によって民主党支持に変えさせることが出来ると読んだからだとの突き放した見方もある。
種々の見方も批判も一理ある。だが強調したいのは、民主党案をまとめた人々、それを支持する民主党と自民党の議員たちが、心底、真面目に、まともな教育基本法を作りたいと欲している事実だ。教育こそ、国家百年の計である。その重要性を考えて、自民党も民主党も、民主党案を軸にした歩み寄りの知恵を出すのが、国民への責任である。
拝啓櫻井よしこ殿(続々)読書感想「何があっても・・」(語学習得に於ける「自然体と必然性」・・)
もう一度、繰り返し申しておきたい。
新たな試みとして、我国の(特に、初等教育における)英語教育について、触れてみたい。という目的である。このところ、拙ブ…
トラックバック by エセ男爵酔狂記 Part-II — 2006年05月26日 22:05
左翼にお伺いを立てる『児童の権利条約』意見交換会
昨日発売された(九州は今日)「週刊新潮」に先日の外務省での意見交換会について記事が掲載されています。
■児童の健全な育成を守るNGOネットワーク↓…
トラックバック by なめ猫♪ — 2006年05月26日 23:39
民主党の教育基本法改正案が意味するもの
日本会議メールマガを転送しますのでご参照いただければ幸いです。
23日に民主党が衆議院に提出した「教育基本法案」http://www.dpj.or….
トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年05月27日 10:47
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日本会議メールマガを転送しますのでご参照いただければ幸いです。
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玉音放送後の大本営命令が語る遺棄化学兵器の真実
関東軍および支那派遣軍は、連合軍に降伏し武装解除を受けるまでの間に、戦時報復兵器である化学兵器を含む武器弾薬等の軍需物資を満州や支那大陸に遺棄することが…
トラックバック by オンラインコンビニエンス何でもそろう便利屋です — 2006年05月27日 19:34
占領憲法無効論とは帝国憲法及占領憲法有効論
拙者が今まで学んできた憲法学の知識をまとめるために試みに執筆したマッカーサー占領憲法無効論が、このスレに紹介されていました。 立憲主義者は占領憲法を…
トラックバック by オンラインコンビニエンス何でもそろう便利屋です — 2006年05月27日 20:41
靖国神社の英霊は「鬼」? 新華社通信の記者が反日記事
日本会議のメールマガを転送します。ご参照いただければ幸いです。
私は情報収集のため、多くのメルマガを購読していますが、特に中国情報については「中国週…
トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年05月28日 08:48
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「日本の明日」どう選びますか?
みなさまの意見交換の場を設ける一環として、5月22日に「日本の未来を選ぶ」アンケートを開始しました。意識あるみなさまのご参加をおまちしています。結果は…
トラックバック by 博士の独り言 — 2006年05月28日 09:10
愛国心ぐらいはさっさと持ちましょう
教育基本法で、愛国心を盛り込むかどうかでさかんに議論されています。 愛国心は必要
トラックバック by 余分なものを捨てましょう — 2006年05月28日 09:44
拝啓櫻井よしこ様(終章)・読書感想「何があっても大丈夫」(日本人の語学学習について・・)
<第二章>
かくして、再び、櫻井さんの話に戻る。
さて、上記「この一冊:何があっても大丈夫」からの抜粋により、櫻井さんの学歴過程と英語の接点、社会人と…
トラックバック by エセ男爵酔狂記 Part-II — 2006年05月28日 13:21
今に活かそう教育勅語の理念
国会での教育基本法改正をめぐり、『愛国心』と言う言葉をめぐり論議が白熱している。政府案はやはり公明党との連立政権のため、『愛国心』とストレートには書けず、…
トラックバック by 三笠の山に出でし月かも — 2006年05月29日 00:21
この一冊「共産主義黒書」
本来ならば、櫻井よしこ氏の一冊を紹介したかったのだが、多くのブログに立派な書評とともに紹介されているため、これでは筆者の出番はないものと思い、表題の一冊…
トラックバック by 博士の独り言 — 2006年05月29日 00:52
「国の名誉回復」が日本を甦らせる
名誉回復は何故必要なのか
「お前の親父や、じいさんは残虐非道な犯罪人だ。近所の家へ押し入り、無抵抗な女子供を惨殺したのだ。お前たちは善人ぶっているが…
トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年05月29日 10:47
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平沼赳夫氏の教育基本法改正についてのスピーチ
今回は、5月17日に行われた『日本会議首都圏地方議員懇談会 平成18年度総会』で行われた、平沼赳夫氏の教育基本法改正についてのスピーチを紹介します。
…
トラックバック by 新・へっぽこ時事放談 — 2006年05月29日 10:49
行政・企業・自治体を巻き込む人権政策確立要求
福岡県に対する情報公開で明らかにされた人権擁護法案・男女共同参画行政に関する資料をこれから明らかにしていきたいと思います。
とりあえず帰宅して…
トラックバック by なめ猫♪ — 2006年05月29日 20:15
心よりお見舞い申し上げます
この度、インドネシア共和国ジャワ島中部で発生した地震の被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。博士の独り言
トラックバック by 博士の独り言 — 2006年05月29日 20:27
闘う晋三 vs 媚びる康夫
拉致問題解決に向けて「対話と圧力」ではなく、「圧力と対話」を打ち出した安倍晋三氏。日本人の感覚からすれば「おい、いい過ぎだよ」と感ずる向きもあるかもしれ…
トラックバック by 博士の独り言 — 2006年05月29日 22:40
中国における愛国心教育
教育基本法改正で愛国心を法案に盛り込むか盛り込まないか、その表現などを巡って喧々諤々されていて新聞やテレビでも「愛国心」の文字をよく見ます。15日に放送さ…
トラックバック by 中南海ノ黄昏 — 2006年05月30日 09:57
中国に存在する航空母艦(3) 〜 台湾が中共の“不沈空母”となる悪夢
日華(台)親善友好慰霊訪問団
藤田 達男
●航空母艦の建造・配備は中国の念願だった
前回 5/16付の記事( http://prideof…
トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年05月30日 10:08
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『国家の品格』と武士道精神4
藤原正彦氏は、武士道は「昭和のはじめごろから少しづつ衰退し始め」、大東亜戦争の戦後は「さらに衰退が加速された」という。アメリカは占領期間、日本弱体化のた…
トラックバック by ほそかわ・かずひこの BLOG — 2006年05月30日 11:23
しつこいようだが愛国心
愛国心について今までずいぶん書いてきた。「必需品としての愛国心」 「続・必需品と
トラックバック by 幸か不幸か専業主婦 — 2006年05月30日 15:51
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27日、不幸な地震に襲われたインドネシア・ジャワ島のジョクジャカルタ。ジャワ島には知人はいないが、インドネシアに住む友人に電話でお見舞いを述べた。M6.2…
トラックバック by 博士の独り言 — 2006年05月30日 16:43
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人生の師匠と、池田門下は言う。
「師弟不二」の教条化の昨今、池田先生は、池田大学の校長先生と言う視点は、未来部には受け入れやすいのではないだろうか。
「釈…
トラックバック by 黄金の創価学会 — 2006年06月01日 02:24
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一応一歩前進でしょうが…
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YOMIURI ONLINEより引用
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トラックバック by ☆独断雑記 XYZ — 2006年06月28日 12:31
西の広島に対する東の国立と呼ばれた理由と歴史教育の必要性について
国立市議会議員 石井伸之氏の原稿を転載いたします。
昭和四十七年四月六日生まれ(現在三十四歳)
平成十一年 国立市議選に立候補しましたが、
七…
トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2007年01月04日 10:20
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改正教育基本法の検討1
日本は今日、政治・経済・社会等、あらゆる分野で深刻な問題を抱えている。最も危機的なものの一つが、教育である。教育の改革のために、教育基本法が改正された。…
トラックバック by ほそかわ・かずひこの BLOG — 2007年01月20日 08:49
改正教育基本法の検討4
●教育基本法改正の経緯
旧教育基本法は、占領下に作られ、戦後教育を呪縛してきた。同法が制定された後、国会で教育勅語が排除・失効とされ、わが国の教育は…
トラックバック by ほそかわ・かずひこの BLOG — 2007年01月24日 19:28
GHQが否定した「伝統的価値観」が新教育基本法の根本哲学に
前回、新教育基本法で何ができるようになったのか――ポイント10をご提案させていた
だきましたが今回から下記の10点について何回かに分けてご提案いたします…
トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2007年02月06日 08:48
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