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2005.09.15 (木)

特別レポート「 『小泉改革』 は幻想に過ぎない 」

『週刊新潮』 '05年9月15日号
日本ルネッサンス 「拡大版」 第181回

小泉圧勝、自民党単独過半数を大幅超過、民主は現有議席の確保も不確実。9月4日の各紙の世論調査は、ほぼ一様に選挙戦が自民党の圧倒的有利で進む状況を分析していた。

テレビ各局の討論会でも首相はこの上なく歯切れよい。郵政公社のままで規模を縮小すべきだと、眉間に縦皺で熱弁する民主党岡田克也代表に、「民主党は民営化反対でしょう」と切り込み、自身の民営化案の欠点を突かれると、「民営化のどこが間違っているんですか」と話をずらして切り返す。理屈で応じる岡田代表は、首相の断定的な口調の前に、ひたすら押しまくられているかに映る。そして首相は絶叫する。「改革を止めてはならない!」と。

忘れ去られようとしているのは、その「改革」の中身である。小泉首相の郵政民営化は、一体どんな内容なのか。どの討論を聞いても、どの報道を読んでも、よくわからない。理解しようとして法案を手にとれば、基本法の郵政民営化法だけで200条を超える。郵便局会社(通称・窓口会社)、郵政事業会社(集配等を行う)、郵便貯金銀行、郵便保険(簡保)会社、これら4つの会社の全株を保有する日本郵政株式会社に関する法案と、関連法案を全て合わせると、厚さ10センチ程の分量になろうか。だから、岡田代表は首相に質した。

「読みましたか、全文を」
 岡田代表は、小泉改革はまやかしだ、首相自身が中身を吟味していないだろうと言おうとして尋ねたのであろう。首相はあっさり切り返した。

「読んでませんよ。要綱は読みました。でも、永田町の政治家は誰も、全文なんか読んでませんよ!」

堂々とした否定に、岡田代表は、なんと反論を忘れ口を噤んだ。恐らく氏も読んでいなかったのだろうと推測した場面だった。けれど、法案の束を見ると、これほどわかりにくい法案なら、ただでさえ込み入った議論は苦手の政治家たちが読んでいないとしても、不思議ではない。そこで、小泉郵政改革は本物か否かをこの法案に沿って見てみる。

郵政民営化の賛成論者でも、今回の小泉法案には留保をつける人が少なくない。理由は、郵政改革が本来目指していた目的を達する構図になっていないからだ。道路公団改革の失敗は、不要の道路をこれ以上借金で造ることはやめようというところから出発したにもかかわらず、殆ど全ての道路を借金で造れることになってしまった顛末からも見えてくる。来月には道路公団が3分割されて首都高速公団などと共に6つの会社が誕生するが、長い時を待たずして、道路公団の失敗は確実に目に見えてくるはずだ。

道路公団改革が明らかに改悪であるのに較べ、郵政改革は少なくとも改悪でない点において、遙かによい。が、郵政改革も道路改革同様目的をすり替えている。

郵政事業の民営化は、郵貯、簡保の大転換を目的としていたはずだ。国民の貯蓄が、財政投融資の原資となり、国民の与(あずか)り知らぬ内に道路公団をはじめとする特殊法人や地方自治体に貸し込まれたり、国債購入の資金に充てられてきたのは、周知のとおりだ。だからこそ、この公的不良債権とさえ言われるものの原資となってきた郵貯や簡保を、健全化していくことが郵政民営化の大目的だった。

どこが改革なのか

現実にはどうなったか。悉く、当初の目的から外れてきた。その外れ方は、道路公団改革の失敗の構図と非常に似通っている。

まず、両改革共に、真の目的を脇に置いて、民営化の形を作ることが自己目的化してしまった。道路公団の場合は、来月誕生する民営会社の殆ど全ての資産と借金を、高速道路保有・債務返済機構が持ち、各会社は機構から道路や橋をリースされて営業する。これからも約2,000キロにのぼる高速道路を造り続けるが、出来上がった道路も、建設に要したコスト(借金)も、道路が完成した時点で全て機構に移される。つまり、会社は何の責任も負わなくてよいのだ。責任もない。資産も借金もない。形だけ経営を任されたけれど実質的経営権限は全く与えられていない。おまけに、リースされた高速道路事業からは利益を上げてはならないと決められた。本業から利益を上げられないことは、より良い経営をする動機も奪われているということだ。

道路公団改革によって生まれる経営責任のない6つの会社の姿は、これまで、道路公団の下で無責任な経営を続けてきたファミリー企業と同じである。6つの会社を統括する機構は、現在の道路公団が肥大化した存在と考えればよい。

小泉首相は、高速道路の建設とその管理を請負う民間会社を作らせて、これを以て民営化は達成したと言ったが、採算もとれない赤字道路はこれまでどおり建設され、返済も定かでない借金が積み上げられていくのが小泉流道路公団改革の真の姿である。

郵政民営化法案では新たに5つの組織が生まれる。まず、日本郵政株式会社である。同社は、その下に出来る4つの会社の株を保有するために、持ち株会社とも呼ばれる。この持ち株会社の株の少なくとも3分の1以上を、国は、常時、保有していなければならない。3分の1以上であるから、それより多く持つことも十分考えられる。つまり、国がこの会社の大株主なのだ。持ち株会社は完全な国策会社、持株会社なのである。

持ち株会社の下に郵便局、郵便事業、郵便貯金銀行、郵便保険の4社が置かれ、当初、持ち株会社は4社の株の全てを保有する。

問題は郵便貯金銀行と郵便保険会社である。当初両社とも普通の民間企業になるはずだった。だが、小泉法案ではそうはならない。

ちなみに郵便貯金銀行は現在郵政公社に預けられている貯金のうち、通常貯金分の約50兆円の規模で始まる。通常貯金を除いた定額貯金など、約180兆円分は郵便貯金・簡易生命保険管理機構という独立行政法人に預けられ、政府の責任で、国民に対して契約時の条件を満たすことになっている。

郵便貯金銀行や郵便保険会社の株は、先述のように、2007年4月1日の発足時点では全て持ち株会社が保有するが、遅くともそこから10年後の2017年には全株を放出する。もし、この点をこのまま維持出来ていれば、郵貯と簡保は徐々に民間金融機関にとって代わられ、規模は大幅に縮小され、財投機関債や国債の購入に、無批判に資金を注ぎ込んできた悪弊も消えていくことだろう。そうなれば、郵政改革は小泉首相が誇ったように、世紀の偉業となっていったことだろう。

すり替えられた論理

しかし、ここで大反対がおきた。これでは郵貯も簡保も解体されるという自民党内からの反対論の大合唱で妥協がはかられた。小泉首相は、株は一旦放出するものの、即日、持ち株会社が買い戻してもよいとの条件を呑んだ。郵便局会社や郵便事業会社が買ってもよいという条件にも同意した。くどいようだが持ち株会社は永久に、国が3分の1以上の株を持つ特殊会社だ。特殊会社はこれまた未来永劫、郵便局会社と郵便事業会社の全株を保有する。つまり、3社全て国の強い影響下にある会社なのだ。

そうした会社が郵便貯金銀行や郵便保険会社の株を買えば、郵貯も簡保も実質的に政府の支配下にとどまる。竹中平蔵経済財政政策担当大臣は、そこから先は、金融市場の判断と同じだと説明する。東京三菱銀行の株を買うように、郵貯銀行の株も、その業績によって、市場で売買されていくというのだ。

しかし、物事は、恐らく、そうスッキリとは運ばない。そう考える理由は、財投機関債と国債の購入である。真っ当な民間会社なら、自身で判断して国債等を購入するか否かを決める。しかし、民営会社になるといっても、その株主構成からみて会社が政府の強い影響下にとどまる限り、従来同様、新しく生まれる会社は財投機関債や国債の購入を通して政府の財政赤字を裏で支え、支えることによって財政赤字をさらに拡大させていくのではないか。結局今と殆ど変わらない状況が続くと予想されるのだ。

実態を変えていないのに、手段にすぎなかった民営化自体が重要な目的であるかのように喧伝されてきた。そのため郵貯、簡保事業を民間と同一基準で運営することによって財投などへの資金の流れを止めるという、真の目的も見事に忘れられてきた。手段と目的のすり替えは、道路の失敗の事例とピッタリ重なる。

小泉首相はそれでも本気で郵政民営化法案は成功だと信じているようだ。成功事例どころではない同法案を成功と考えているとしたら、理由は2つ考えられる。

まず、8条委員会を設けなかったことだ。道路公団改革では作家の猪瀬直樹氏らがメンバーとなった8条委員会、通称民営化委員会が空中分解して、改革の失敗を印象づけた。その失敗を認識しているからこそ、首相は郵政では委員会を設けず、竹中特命大臣に任せた。もうひとつは、道路では法案作成を国交省道路局に丸投げして、骨抜きにされた。郵政では竹中特命大臣の下で法案を作成させた。

竹中氏の下で作成された法案を、私は高く評価するものだ。だが、法案も竹中氏も、自民党内から強い批判を浴びた。支持基盤の弱い小泉首相は妥協を重ね、これまでに指摘してきた一連の譲歩をした。その結果、今回の法案で大きく変わる可能性のあるのは、特定郵便局長の地位くらいのものではないか。郵貯銀行と簡保会社は事実上国営のまま維持し、国債、財投機関債の引き受けも従来どおりに行われていくのだ。

4年余りの小泉政治を振り返ると当たり外れの落差の大きさに気づく。政治評論家の屋山太郎氏は、その理由は首相の人を見る目にあると語る。

「党内の人材を尻目に、小泉首相は自分の身の回りの人間しか選ばない。そして選んだ人間によって成果が異なってくる。首相自身にも、官僚を引っ張っていくだけの力も政策もないために、人選を誤れば、結局、官僚政治に流れていく。その典型が道路公団改革です」

逆に言えば、人を得たときは成功なのだ。成功の事例は、竹中氏起用による金融改革だと指摘するのはドイツ証券東京支店副会長の武者陵司氏だ。

「小泉氏の就任時は金融危機が進行中で、最大の要因は不良債権だと分析されていました。どこで信用の核を構築し、不信の連鎖を断ち切り、メガバンクは信頼に足る存在だと思わせるかが問われていました。メガバンクの信用改革にメスを入れて事態を転換させたのは竹中氏の功績で、強い反対を押し切って柳沢伯夫氏を切り、竹中氏を起用した小泉首相の功績です」

何も大きく変わらない

高く評価される金融改革は、反面、強い批判も浴びている。立教大学経済学部の山口義行教授は、竹中大臣の下で、間接金融市場に直接金融市場の考え方が持ち込まれているのが混乱のもとだと批判する。

「日本の中小企業と金融機関の伝統的な関係は、融資先と金融機関がいわば一体となり、長期的視点で融資を行うことが特徴でした。融資先が苦しいときは金利を下げたり一時的に猶予して企業を育てるなどの柔軟性のなかで日本型間接金融が存在してきました。しかし、市場から資金を調達する直接金融では、リスクの高い企業は高い金利を払わなければならない。高利貸のような市場に、竹中氏がしてしまったのです」

慶応大学経済学部の金子勝教授も批判的だ。

「直接金融では企業は再生しないのです。結果は銀行の貸出しが減っているだけ。銀行は個人向けの株式投信やリスクを負わない商品でわずかばかりの手数料を稼ぐしかない。その一方で110兆円もの国債を購入している。竹中さんは銀行の不良債権処理と一緒に企業再生をしなかったために、ここまでズルズルときた」

たしかに改革の過程で中小企業が犠牲になったという具体例は多い。が、「市場経済である以上、やむを得ない」と武者氏は万全の措置の難しさを指摘する。

「10年以上も続いた日本の信用収縮がようやく終わり、信用回復の条件が整ってきたことは特筆すべきだと思います」

それにしても金子氏の指摘は重要だ。

「郵政民営化は究極のツケの先送りです。大手行の保有する国債の価格が下がると彼らは潰れます。銀行を潰さないためにも郵貯は国債と財投機関債を買い続けるしかないのです」

郵貯や簡保は、民営化後も国債や財投機関債を買い続けるのか否か。買い続ける場合、国民の財産を規律をもって運用するという民営化の目的と市場原則はいかにして守っていけるのか。その担保なしに、形だけの民営会社誕生を以て、民営化の達成とは余りに厚顔無恥ではないか。

本来は、こうした点を正すのが郵政改革の目的だった。そのためには、郵貯や簡保の出口、使われ方を整理しなければならなかったはずだ。しかし、まず道路公団改革に失敗し、次に、郵貯銀行と郵便保険会社の株の買い戻しを認めたために、目的の達成は今や不可能だ。結局、何も大きくは変わらないのだ。民主党は小泉首相に、これらの点をこそ突きつけなければならないのに、それが出来ていない。郵政民営化の内容をもっときちんと議論しなければならないのに、それも出来ていない。

この総選挙は、決して郵政だけが焦点であってはならない。百歩譲って、郵政改革が焦点だとしても、小泉郵政改革では、本来目指したはずの真の改革は決して達成されない。大見得を切って訴える小泉首相の改革は、まぎれもない幻想なのだ。

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