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2005.07.28 (木)

「 台湾の“小泉”国民党主席となる 」

『週刊新潮』 '05年7月28日号
日本ルネッサンス 第175回

7月16日、110年の歴史上初めて中華民国国民党の党主席選挙に複数の候補者が立ち、一般党員にも開かれた形で投票が行われた。日中関係に重要な位置を占める台湾はどこに向かおうとしているのか。取材に飛んだ台北では、馬英九(まえいきゅう)台北市長が、台湾23県全てで対立候補の王金平(おうきんぺい)立法院長(国会議長)を破り、圧勝をおさめつつあった。しかし記者会見場に現れた氏の表情は、まるで国民党の未来を暗示するかのように蒼ざめ、硬く強張っていた。

55歳の働き盛り、“甘いマスク”と人々が言う柔らかな外見、金権とは無関係の清潔さ、台湾社会のエリート、外省人としての地位などが馬氏圧勝の要因と言われる。

ちなみに外省人とは、中国共産党に敗れた蒋介石国民党主席が台湾に逃れて来た折り、蒋介石と共に台湾に渡った中国人とその末裔を指す。彼らは軍事力で台湾を制圧し、長きにわたって戒厳令を敷き、統治機構の権力を自らの掌に集中させ圧政を行った。

外省人に対して元々の台湾住民を本省人と呼ぶ。1988年に国民党主席となった李登輝氏は本省人である。発の本省人主席の下で外省人の権力が殺がれていき、台湾の民主化と台湾人意識の覚醒が進められたのは周知のとおりだ。その後国民党は、外省人の特権を突き崩し続けた李登輝氏を除名し、党主席の座は再び中国生れの連戦氏が占めるに至った。

今回の国民党主席選挙は、同党が陥っている幾層ものねじれの下で行われた。外省人の馬市長をあからさまに排除しようとしたのは、他ならぬ伝統的な外省人勢力だった。例えば王陣営は、王氏と親民党の宋楚瑜氏との握手の場面をビデオで選挙前日に流し、王氏への本省人の支援を強調した。現国民党主席の連戦氏も、王氏に投票したことがテレビカメラによって暴露された。

大樹に寄った対立候補

連戦氏は投票の瞬間をマスコミに撮影させたが、その際、投票用紙は二つ折りにされていたにもかかわらず、強い照明で文字が浮き出たのだ。用紙に印刷された1と2の数字の内、丸印が2につけられていたのが炙り出されたようにはっきり見えたのである。1は馬氏、2は王氏の番号だ。国民党現主席、中国訪問で感涙に咽んだ中国派の連戦氏が本省人を応援し、仲間であるはずの外省人を拒絶したことが暴露された瞬間だ。国民党内部で進行する外省人同志の対立と確執の深刻さを印象づけた場面でもあった。さらに、もうひとつの確執は劇的な場面となって噴き出した。

敗北を悟った王氏が馬氏に祝いの電話を入れたあと、馬氏は王氏の事務所に駆けつけた。選挙で生じた亀裂を修復し、これからの党運営に協力を取りつけるためだ。駆けつけてみると王氏は車で台北を離れるところだった。駆け寄った馬氏は黒いフィルムを張った後部窓ガラスを手で叩き呼びかけた。

「院長、院長!!」

各社のカメラのフラッシュが光る。テレビカメラが回る。ライトの中で後部座席に身を沈める王氏の姿がはっきりとらえられている。王氏は馬氏に答えないまま、車は発進した。ところが、車はカーブを曲がりきれず、ハンドルを切り返しつつ戻ってきたのだ。馬氏はまたもや追いすがり、窓ガラスを叩いた。車中の王氏は、横を向いたまま、窓を開けることもなく無視し続けた。

化石のように固まった王氏の姿は、氏と氏を支えた伝統的外省人勢力が時代の変化についてゆけず、新しく開けつつある地平から遂に滑落しようとしている姿に重なる。彼らの姿勢は、明確な中国への追随政策であり、そのことは王氏の選挙での戦いぶりからも、見えてくる。

氏には特筆すべき能力もカリスマ性も認められず、立法院長という重責の地位に昇った要因は李登輝前総統に取り立てられたことが大きいと言われる。王氏は、李前総統を除名した国民党の主席になるには、外省人が憎む李登輝色の払拭が重要だと考え、選挙期間中、恩を忘れて李登輝批判を強めた。台湾独立を主張する李登輝氏との違いを強調するため、中国との統一が必要だと説き、あからさまに中国に傾いた。

国民党中央評議会委員で中国文化大学史学研究所の陳鵬仁教授はこれを「出藍現象」と呼ぶ。「青は藍より出でて藍より青し」の故事のように、外省人の支持を得るために、藍よりも青くなり、中国に傾いたというわけだ。

一方の馬市長は中国との統一については口を噤み、台湾の独立には反対、(中国と香港のような)1国2制度にも反対との発言にとどまっている。その上で“黒金(へいちん)”の追放と党改革を公約した。国民党は骨の髄まで汚職と利権に染まっていると言われる。黒金はそうした汚い金全てを指す。これらの公約を掲げた馬氏が伝統的な外省人の中国寄りの政策を強調した王氏に72・4%対27・6%、実に3倍近い差で圧勝したのだ。

人気はあるが、実績乏しい

日台間の架け橋のひとりといわれる彭榮次氏が興味深いアナロジーを語った。

「国民党の利権体質を追放すると叫び続けた馬市長は、台湾の小泉純一郎なのです。自民党をぶっ壊すと叫んだ小泉首相と多くの共通点があります。一匹狼的で群れない。金権体質と無縁でパフォーマンスに長けている。人気抜群で、世論の動向に敏感だが、実績は乏しいのです」

小泉首相が、伝統的に日本の中枢権力を握ってきた田中、竹下の流れを汲む旧橋本派を潰してきたように、馬氏は伝統的な国民党、あからさまな中国派を敗北に追い込む地殻変動を起こしつつあるというのだ。

この種の変化の背景にはより深い台湾社会の変化がある。外省人であっても、若い世代ほど台湾社会に根をおろし、彼ら自身の台湾化が始まっている一方で、本省人の間にも、省籍に縛られない投票行動が広がっているというのだ。馬氏が獲得した37万5,000票余りの支持はこのような背景から生れたと見られる。

馬主席の誕生は、国民党の潰滅をもひき起こす可能性が否定しきれない。李主席時代の終わりには1,000億元(約3,500億円)規模の資産があったといわれる同党は、いまや職員給与の支払いも銀行借入れに頼らなければならない。馬市長の黒金一掃の公約は、既得権益に寄生する国民党関係者らが最も恐れるものだ。実現されれば金の切れ目が縁の切れ目で、事実上国民党が解党されることもあり得る。

権力の中枢では忌み嫌われる馬氏の公約は国民には非常に受けがよい。独立を否定し、一方で決して統一を口にしない姿勢も、現状維持を望む国民の心を魅きつける。陳水扁総統と民進党にとっては大きな脅威である。2008年の総統選挙で本省人の政党として政権を維持出来るのか、日本の運命と重なってくるだけに他人事とは思えない。

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