「 居直る北朝鮮との対話は無理 国民大集会に溢れていた経済制裁発動への強い要求 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年5月14日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 591
4月24日の日曜日、東京の日比谷公会堂には人が溢れていた。拉致問題解決のために北朝鮮に経済制裁を発動せよと要求する国民大集会が開かれたのだ。定員2,000人の会場に6,000人が詰めかけ、会場に入り切れない人びとのために急きょ、第二会場が設置された。
拉致問題の解決を求める国民大集会は、これまでは金正日総書記への要求を突きつける内容だった。七回目の今回、初めて対象が日本政府となった。もはや「対話と圧力」と言うだけでは不十分だとして、小泉純一郎首相に経済制裁の発動を求めたのだ。私は第一回国民大集会からかかわってきたが、国民の関心と熱意は、当初とは比較にならないほど高まっている。
今回の会は午後2時から。4時間続いたにもかかわらず、中途で帰る人はほとんどいない。さらに、第二会場の人びとの姿は驚きであり、心打たれるものだった。第二会場は単に日比谷公園の中に演台を一つ置き、その演台を半円形に取り囲む空間が区切られただけのものだ。そこには腰かける椅子もない。公会堂の中で進行中の集会の模様がビデオや音声で送られてくるわけでもない。それでも人びとはその場を離れなかった。横田夫妻や平沼赳夫・拉致議連会長、安倍晋三・自民党幹事長代理らが、順次、会場を抜け出して、演台から語りかける。人びとは地面に座り、あるいは立ち尽くし、約4時間を会場内の人びととともに過ごした。そして、会場内外の全員が小泉首相に求めたのだ。「今こそ北朝鮮に経済制裁を科せ」と。
首相は「対話と圧力」と言い続けるが、日朝間に対話は成立してこなかった。一方的に騙され、経済援助をし続けてきただけだ。横田めぐみさんのものといわれた遺骨は、2人以上の他人のお骨だった。偽物を渡しておきながら、金正日政権は「日本が鑑定を捏造した」と言い立てる。小泉首相が署名した2002年9月17日の日朝平壌宣言では、北朝鮮は核兵器を開発しないことになっている。だが、北朝鮮が核開発を続けていたことは、同年10月16日、米国が明らかにした。北朝鮮も、封印していた核燃料棒8,000本を2003年7月までに再処理したと米国に通告した。2005年2月10日には、北朝鮮は「核兵器を作った」と初めて公式に認め、「核兵器庫を増やす」として、核増産への意欲を示した。
現在、北朝鮮は寧辺(ヨンビョン)の実験用黒鉛減速炉の稼働を止(と)めている。これは原子炉から使用済み核燃料棒を取り出し、核兵器の原料となるプルトニウムを抽出するためと見られる。これらはすべて日朝平壌宣言に違反し、平壌宣言を白紙化するものだ。が、金総書記は言い張る。「平壌宣言を白紙化し、国交正常化をしないという日本とどうして一堂に会して会談ができようか」と。
居直る北朝鮮と、まともな対話は無理である。小泉首相が対話対話と言うあいだに、金総書記は核やミサイルを開発し続けるだろう。首相が逡巡するあいだの4月22日、北朝鮮は竹島問題で韓国と連帯して日本に対抗すると発表した。
中途半端な日本の対応が状況を悪化させるのだ。そして、力をつけたと勘違いする金正日圧政の下でまた新たな犠牲が生まれているのは、平島筆子さんの例からも明らかだ。2003年1月に44年ぶりに帰国した平島さんは「金正日総書記万歳」と言わされ、屈強な男たちに囲まれ平壌に連れ戻された。これも、新たな拉致である。
対話では役に立たない。金正日体制が変わらざるをえないところまで、日本の持てるすべての力で経済制裁を科していくべきだ。国民大集会に溢れた人びとの姿は、日本国民の大多数の声を反映している。小泉首相は、こうした国民の声に耳を傾けなければならない。