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2005.04.21 (木)

「 中国には堂々と対峙せよ 」

『週刊新潮』 '05年4月21日号
日本ルネッサンス 第162回

中国で政府公認のデモが続いている。4月3日には深蝨ウ市で、日本の国連安保理常任理事国入り反対の大規模なデモ、9日には北京の日本大使館前で、同じ理由による大規模デモが発生、警官の目前で日本大使館への烈しい投石が続いた。10日には広州市と深蝨ウ市で3万人が終日、荒れ狂った。

デモ参加者を当局がバスで送りとどけたり、デモ隊が進み易いように警官が交通整理をして道を開けたことなど、どの目撃証言も中国政府がデモを助長した事実を指摘していた。

10日午前、町村信孝外相が抗議し、謝罪と補償を求めたのは当然だ。しかし、中国政府は同日夜、「責任は中国側にはない」と主張したのである。デモは「歴史問題などで日本に不満を抱く国民の自発的抗議活動」だそうだ。中国外務省、秦剛副報道局長のこの発言は即日、インターネットに掲載され、中国国民に、デモは政府公認だとの証拠となった。

11日、谷内正太郎外務次官が改めて謝罪と補償を要求する一方で、小泉純一郎首相は対話で事態の打開をはかるよう町村外相に指示した。

問題が深刻であるほど、話し合いは重要だ。その意味で、日中外相会談を予定どおり17日に行うべしとの首相の指示は正しい。

その場合、日本側が心しなければならないことがある。中国は話し合いを通じて日本の立場を理解し、受け容れるような国ではないということだ。中国は目的を達成するまでは決して諦めないということを、町村外相は肝に銘じて訪中すべきである。

中国の目的は、歴史問題で未来永劫日本に反省を続けさせ、尖閣も、東シナ海の資源も諦めさせ、国連安保理の常任理事国に日本を入れさせないことだ。中国国民の目に、加害者としての邪悪な日本の姿を焼きつけ続け、不満の捌け口として日本を利用出来れば、それが中国政府にとって最も都合がよいのである。

江沢民時代に執念にも似た熱心さで始めた全国的な反日愛国教育の根深さとその影響の深刻さを思えば、トヨタ自動車の奥田碩会長の「暫く様子を見る」などのコメントは的外れである。

屈辱外交のツケ

中国政府が政治的思惑で醸成してきた反日感情は容易にはおさまらない。だからこそ、日本は暫く、少なくとも一世代か二世代の間、中国に対して特段の覚悟、日中関係は緊張が基調であるとの覚悟を持つべきだ。

1992年の記憶を喚起しておきたい。この年こそ、日本にとって日中関係がいかに理不尽、不均衡で、どれほど屈辱的な立場に、日本側が自ら甘んじてきたかを示す年だ。

92年2月25日、中国は全国人民代表大会で「中華人民共和国領海法及び接続水域法」(以下領海法)を定めた。同法は尖閣諸島、台湾、澎湖島、南沙諸島、西沙諸島、東沙諸島、黄海の大陸棚も東シナ海の大陸棚等も全て、中国領だと定めた。

同法14条には「中国の領海および接続水域」に許可なく入ってくる外国艦船を排除し追跡する権限を、中国海軍の艦艇および航空機に与えると明記された。自ら勝手に決めた領海法、その領海法で中国のものと勝手に定めた海域に許可なく入れば、軍事力を行使して排除するという特異かつ、一方的な法律だった。

日本側は翌日、直ちに中国政府に「極めて遺憾であり、是正を要求する」と抗議した。但し、抗議は口頭で行われた。なぜ口頭なのか。中国側が「少しの土地、海域も失うことは出来ない」として軍事力で死守すると宣言したのに較べて、日本側の口頭抗議は余りに弱々しい。

外務省は当時、「日中関係を荒だてないため」と説明した。中国問題専門家といわれる学者たちは、日中国交20周年にあたり、中国側が天皇、皇后両陛下の御訪中を希望している年に、このような強硬な法律を作ったのは、中国内の保守派や軍部の圧力の故だと解説した。

今月の一連の反日デモに関して中国政府も戸惑っているのだと中国政府を擁護する中国問題専門家の言葉を彷彿とさせる説明が、92年にもなされていたわけだ。領海法の成立は、保守派や軍部の圧力の故ではなく、中国政府の長年の戦略が実を結んだに他ならない。同じく今回のデモも基本的に中国政府の思惑に沿ったものと考えるべきだろう。

92年の領海法制定から4ヵ月後の6月30日、中国政府は東シナ海に鉱区を設定し石油探査権を外国企業に開放した。同時に同年6月4日の『解放軍報』は中国側が88年から4年をかけて中国海軍が主力となって東シナ海の調査を行い、同調査は92年6月に完了したと報じた。準備万端整えていたのだ。

友好のために主張せよ

日本は、この時、中国に対して、口頭ではなく強い外交上の措置を伴う抗議をすべきだった。日本が抗議をしたとして、それには十分に正当な理由がある。尖閣は日本の領土であり、東シナ海が中国ひとりの海であるはずはないからだ。また、領海法成立に先立つ78年には、日中平和友好条約を結んだが、このとき鄧小平副首相は、尖閣諸島の帰属問題は子子孫々の時代に平和的に解決すべきだと語っていたからだ。日本側はそれを信じたが、中国は裏切ったのだ。
その時の日本の対処は、実に、卑屈以外の何物でもなかった。ひたすら摩擦を回避しようとし、同年10月に天皇、皇后両陛下の御訪中を実現させてしまったのだ。

狡猾な言辞で日本を欺き、軍事力の行使を法制化して力ずくの外交を展開する中国に、日本側は、日本の持てる最重要の外交カードを切ったわけだ。89年6月の天安門事件で各国から経済制裁を科せられていた当時の中国にとって天皇御訪中は救いの手となった。御訪問が突破口となり、各国の中国への経済制裁は順次解かれたからだ。

“困っている時に手を貸せば中国は必ず感謝する”“中国との友好はこれでこそ深まる”などと、中国問題専門家たちは語った。しかし、現状は、そうした甘い見方が決定的に間違っていたことを示している。中国政府は尖閣諸島は中国領だと教え続け、国民はそれを信じ込んできた。尖閣について正当な主張をすれば、日本人は心底中国人に憎まれる状況が出現した。

日中関係のみならず、朝鮮半島に対しても、日本外交は、当初は友好を妨げないためとして物を言わない、問題が発生すれば今度は事を荒だてないためとして物を言わない。ツケはたまり、最後に先鋭的に突きつけられ、日本は行き詰まる。

だからこそ、町村外相は中国訪問にあたり、中国側と正面から対峙することを恐れてはならないのだ。心して日本の立場を主張し、謝罪と損害賠償を求めるところから、地平は開けてくる。日中関係の重要さを隠れ蓑にして、譲ることに徹してはならないのだ。

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