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2004.09.04 (土)

「 電力会社と政府のご都合主義 捨てて思いとどまるべき 核燃料再処理施設の稼働計画 」

『週刊ダイヤモンド』    2004年9月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 557

日本国はなぜ、問題解決能力が劣っているのか。米国や欧州諸国、中国などには解決できる問題が、なぜ、日本には解決できないのか。理由の一つは、立ち止まることや、政策の変更をしないからである。一度決めたことから生じる既得権益や、つまらないしがらみを振り切る政治的決断ができないからだ。

原子力発電の結果生ずる使用済み核燃料の再処理施設を稼働させるか否かの議論も同様である。再処理施設は一度稼働させたが最後、プルトニウムに汚染される。プルトニウムの放射能汚染は、その毒性の強さからも、2万4000年という半減期の長さからも、最も恐れるべきものの一つである。だからこそ、再処理施設は、真に必要か、経済性から見て理にかなったものか、科学的に見て本当に今、手をつけるべきなのかを、慎重に判断しなければならない。

で、その議論を聞いてみると、原子力発電は日本のエネルギー供給上、今も将来も、おそらく必要不可欠であるという立場に立ってさえも、再処理施設を稼働させようという主張には納得いかないのだ。そこに見えてくるのは、電力会社と政府のご都合主義にすぎない。

そもそも、核燃料の再処理施設はなぜ必要とされたのか。それは以下のように、再処理施設が夢のエネルギー工場のとば口だと考えられたからだ。原子力発電所で使用したウラン鉱石には、発電後もウランが残っている。それを化学処理(再処理)すれば、ウランが回収される。そのウランをプルトニウムに変えることもできる。そのプルトニウムから混合酸化物燃料(MOX)と呼ばれる核燃料ができ、MOXを高速増殖炉に使えば、投入した量のなんと60倍のプルトニウムが回収できる。つまり、高速増殖炉は新たな燃料を投入しなくとも、そのシステム自体が次々に核燃料を生産、永遠に持続可能な夢のエネルギーを生み出してくれる仕組みだと考えられていたのである。核燃料の再処理施設は、資源小国日本にとって、果てることのないエネルギーをつくり出す夢の発電所への第一歩と考えられていた。

ところが、1995年の「もんじゅ」の事故により、日本の高速増殖炉計画は事実上、つぶれてしまった。同じく高速増殖炉構想を進めていた独、米、英、仏各国も、過去10年余のあいだに次々と計画を断念した。内外の事情を見れば、高速増殖炉をたどり着くべき最終目標として構築された日本の再処理施設は、もはやその意味を失ったはずだ。にもかかわらず、青森県六ケ所村に造った再処理施設をこれから稼働させようという動きが止まらないのだ。

理由として、電力会社と地元の関係がある。

電力会社は再処理施設を稼働させ、雇用も生み出し、税金も払うと約束してきた。特に使用済み核燃料を持ち込みはするが、それらは再処理して、いずれまた他の地域に持っていくのであり、六ケ所村に永久にとどめるのではないとの前提で話を進めてきた。こうしたことをくつがえせば責任問題になり、六ケ所村などに違約金も払わなければならなくなる。一方で、稼働させれば、再処理費用は電力料金に上乗せして消費者から回収できるため、業界は損失を被らないですむ。さらに、稼働しないとなれば、各地の原発から出る使用済み核燃料の持ち込み先がなくなるなどの事情がある。

だが、再処理施設は高速増殖炉を最終目的とするエネルギーサイクルの入り口だったはずだ。その最後の着地点が実態としてつぶれた今、少なく見積もっても消費者に約19兆円の料金負担を求める再処理施設の稼働は、思いとどまるべきだ。いったん稼働させれば、未来永劫引き返すことができないのだ。このまま突っ走る前に、広く国民に向けての議論をすべきである。

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