「 次世代プラットフォームをまたもや独断で構築 総務省は懲りないお役所 」
週刊ダイヤモンド 2004年5月15日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 542
昨年8月25日に住民基本台帳ネットワークが本格的稼働に入って以来、いったいどれだけ活用されたか。年度末時点での集計は予想どおりだった。ほとんど活用されず、費用だけがふくらんでいたのだ。
全国でいち早く合併を拒否し、住基ネットへの不参加も表明した福島県矢祭町(やまつりまち)とその周辺の町村を較べてみる。棚倉(たなぐら)町は人口1万6,121人で住基カード発行枚数は4枚、塙(はなわ)町は1万1,042人で13枚、鮫川(さめがわ)村は4,490人で6枚だ。総人口に対する発行率は、それぞれ0・02%、0・12%、0・13%である。
住基カードがあればどこでも住民票を取ることができるのはすばらしいメリットだと総務省は喧伝した。が、住民票の広域交付件数は、右の3町村でそれぞれ5件、1件、1件である。では、それに対応する費用はどうか。住基カード発行機器は、住基ネットの要の組織である地方自治情報センターから指定されており、その使用料は年額22万0,500円。つまり、棚倉町が発行した住基カード4枚のために22万0,500円かかったわけだ。1枚当たり5万5,125円である。塙町と鮫川村では住基カード発行は各1枚であるから、ここではカード1枚に22万0,500円かけたことになる。
だが、費用はこれだけではない。セキュリティのバージョンアップに棚倉町は21万円、塙町は60万円、鮫川村は20万円を3月末までに使った。これからも永久にバージョンアップは必要で、費用に上限はない。加えて、三町村ともに回線使用料がそれぞれ三〇万円、そのほかの住基関連機器使用料がそれぞれ143万円、144万円、113万円だ。
棚倉町の担当者は、それでも4月に新たな住基カードの申請があったと述べた。何枚かと問うと「1枚」だという。70代のお年寄りが、銀行から身分証明書があるほうがよいと言われ、住基カードを作ったという。住基カードも住基ネットの利用も、この程度にとどまっている。このような状況は福島県下90の自治体のいずれもだいたい同じで、県全体のカード発行率は0・09%である。同じ状況は長野県にも当てはまる。つまり、日本全体が同様なのだ。
住基ネットに断固不参加の、矢祭町の担当者が元気よく語った。
「町民から住基ネット不参加への批判や不便だという声は、まったくありません。矢祭町は住基カードなどの費用の支払いはありませんが、他の市町村は、費用について不安があるのではないでしょうか」
根本良一町長も快活に語った。
「実際にこの二年間、住基ネットなしでやってきて、問題は一つもありませんでした。不参加は正しい選択だったのですよ」
国民の圧倒的多数、99・9%以上が住基ネットにソッポを向いたのだ。総務省が美辞麗句で効用を説こうと、国民のカード取得率の低さが、ごまかしようのない数字となって実態を語っている。国民に十分な説明もなく、闇雲に始めたシステムだから、当然の結果だ。
だが、総務省は懲りないお役所だ。4月26日、次世代地域情報プラットフォームの構築を発表した。地方自治体のあらゆる情報システムをインターネット技術で統合し、異なるシステム間でも自動的にデータを交換できる仕組みだそうだ。2007年度に導入予定で来年度予算で開発費数十億円を要求する。住基ネットと比較にならない大量の情報が統合され、全国の自治体が一つのシステムにまとめられていくのである。国民情報の完全な捕捉システムが、またもや地方自治体にも国民にも、十分な説明もなく、総務省の独断で構築されるのだ。本当に彼らは、役にも立たない懲りない人びとだ。