「 住基ネット回線がいまだにインターネットに接続中の長野県27自治体の危険性 」
『 週刊ダイヤモンド 』 2003年6月7日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 496回
去る5月19日、参議院個人情報保護に関する特別委員会で、吉川春子議員と片山虎之助総務大臣による応答があった。
長野県出身の吉川議員が、県下には人口数百人の小自治体が多くあり、住基ネットシステムの管理体制がきちんとできていなければ大変なことになるとして、準備は万端なのかと問うた。
片山大臣が答弁した。
「制度的にも技術的にも運用面でも、われわれは万全のセキュリティ対策、プライバシー保護対策を取っていると思っております」
「(住基ネットを導入した)去年の8月5日以降、致命的な問題は一つも起こってはいないんですよ」
「安全措置が過剰じゃないかというご意見がありましたよね。1万円のものを守るのに100万円の設備をしていると。そういうあれもありますので、われわれは万全だと思っているんですよ」
国民の個人情報を「1万円のもの」にたとえるセンスのなさは、この際置いておく。だが、住基ネットに限って論ずれば、片山大臣の発言は、今もこれまでも、総務官僚の言葉や情報に依拠するのみで、真実や現実とはほど遠いことが、またも確認されたと思う。
地方自治体の実態は「万全のセキュリティ対策」以前の酷い状態にある。現に、長野県では120の自治体のうち27の自治体の住基ネットが、なんとインターネットにつながっているのだ。
昨年、私は長野県個人情報保護審議会の一員となり、約半年間、県内の自治体の実態調査に力を注いできた。その結果わかったのが、27自治体で住基ネットとインターネットが接続されているという恐ろしい事実だった。しかも、この事実がわかったのは暫く前のことである。審議会はただちに長野県に対して対策を取るよう要請、県は両回線の切り離しなどについて、業者に見積もりを出させた。
27もの自治体の住基ネット回線が、インターネット回線に物理的につながっていることがどれだけ危険なことかは、今どき、子どもにもわかる。私たちは、当然、2つの回線はただちに切り離されるなどの措置が取られたと考えていた。
ところが、今週になってわかったことは、見積もりコストが高額で、各自治体の財政事情から、コスト負担は無理と判断され、結果として2つの回線は今もつながっているというのだ。
接続時間を最小限にとどめる努力はしているというが、あまりのことに一瞬、言葉を失いそうになった。だが、これが住基ネットの現実だ。
長野県について、片山大臣は述べた。
「長野県は少し合併してもらわにゃいかぬのですよ」
話題をスリ替えるな。合併は地方自治体の判断だ。総務省がゴリ押しすることではない。片山大臣はさらに言った。
「なにも問題起こってないじゃないですか。起こっていれば、どうぞひとつご指摘を賜れば、即時に対応します」
胸を張って答弁する片山大臣の姿が想像されるくだりだが、インターネット接続という、これ以上は考えられない深刻な問題が発生していることも知らずに、なんと無責任な大臣か。
強調したいのは、長野県下の実状は他県の実状だという点だ。長野県の市町村課長も、審議会の問いに対し、当初は「まったく問題はありません」と回答した。問題は、私たちが現地の実態調査をして初めて判明した。「うちの県は大丈夫」と信じている多くの知事は、長野県の事例を他山の石とすべきだろう。
1ヵ所でもインターネットへの接続があれば、日本国民全員の情報が盗まれる。こんな状態を放置するなら、放置する自治体の責任が問われて然るべきだ。巨額の対策費が払えないのであれば、解決法は一つしかない。ただちに住基ネットから離脱することだ。