「 日本は『過去の教訓』を生かし戦争終結後の貢献に準備せよ 」
『週刊ダイヤモンド』 2003年3月29日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 487回
日本時間の3月18日午前10時から、ブッシュ米大統領が演説した。約20分間の演説は、フセイン父子に48時間内の亡命を求める、文字どおりの最後通告だった。
亡命が実現する気配がないため、小欄がお手元に届くころには、米・英・スペイン連合にオーストラリア、ポーランドなどが参加するイラク攻撃が始まっているだろう。
この火急の状態のなかで、日本は何をすべきか。対米協力という選択肢以外に道はないなかで、日本にできることは、あくまでも非軍事分野に限られている。その枠内で、最も効果的に動くには、1歩も2歩も先のことを考えて手配しなくてはならない。
12年前の湾岸戦争終結時、日本は掃海艇を派遣して、技術的にもむずかしく危険の伴う機雷除去に多大な貢献をしたにもかかわらず、ほとんど評価されなかった。なぜか。あまりにも遅すぎたからだ。
今回も、機雷除去については優れた技術を持つ日本に期待が寄せられている。が、18日現在、政府は掃海艇派遣についてなんの指示も出していない。日本の自衛隊法では、海上自衛隊による掃海作業は戦争が終わったあとの機雷除去しかできない。自衛隊そのものが軍隊ではなく、日本は戦わない国であるとの前提に立つため、武力行使の一環として撒かれた機雷は触ってはならないという考え方なのだ。
そのため、戦闘が続いているあいだは、掃海艇も動けないという理屈になる。しかし、戦争が終結してから出港するのでは、またもや遅すぎる。掃海艇が湾岸海域まで航行するのに、ひと月かかるのだ。同じ間違いを避けるためには、周辺海域の調査や情報収集などの名目で、事前に派遣することが必要だ。湾岸海域に日本の掃海艇を配備しておけば、戦争終結直後に掃海作業を開始することができる。
掃海艇派遣にみられるような米軍の軍事行動への間接的支援も、なぜこの支援をするのかという明確な考えと理解なしに行えば、価値は半減する。一つひとつの行動や支援を、明確に国益に結び付けていくことが重要だ。
日本はポストフセインのイラク復興に力を貸すことになるが、そのときも、米国の依頼にただ応じるだけではダメなのだ。イラク復興には、ブッシュ大統領も18日の演説で触れた。食糧や医療の供給、政治的自由の保障、教育の普及、民主主義の実現などをイラク国民に約束した。言うはやすく行うは難い事業である。米国が単独でできるはずはなく、日本は、非常に大きな貢献をこれらの分野で求められている。
私は、日本はこれらの分野で、米国よりも英国よりも優れた業績を残すことができると考える。理由は、日本自身の過去にある。日本の海外統治にはいくつもの失敗も反省すべき点もあるが、台湾における日本の貢献は趣(おもむき)が異なる。台湾のインフラ、農業、工業、鉄道、教育などにおいて、現在でも高く評価されるだけの貢献を日本人は果たしてきた。あの当時の、真に台湾の人びとのために行ってきた事柄や、それを支えた日本人の気概を振り返って、過去の優れた貢献よりもさらに優れた貢献をすることだ。
もう一つの貢献は、かつて米国とGHQに占領されて味わった苦い体験を繰り返させないために、確固とした発言を続けていくことだ。
米国は、2年間の米国による軍政のあと、イラク国民と米国の国益に適う民主主義国を創造すると述べている。さらに、中東全体を民主化するとも述べた。だが、イラクも中東も米国ではない。イラクや中東につくるのは彼らの民主主義国家であるべきだという当然のことを、米国の価値観を押し付けられた国の苦い体験として、米国に申し入れていくことだ。