「 “国益”がわかる中田宏氏の横浜市長当選に変化の期待 」
『週刊ダイヤモンド』 2002年4月13日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 441回
時代は本当に動いている。政令指定都市横浜で無所属の中田宏氏が市長になった。現職で4選を目指していた高秀秀信氏を破っての当選だ。
高秀氏には自公保に加えて社民党の応援までついた。連合のみならず、人気の高い石原慎太郎東京都知事は2度も応援に足を運んだ。高秀氏が支援を取りつけた企業は2200社にも上ると報じられた。従来ならば、盤石の勝利が保証されていたはずだ。
一方の中田氏は組織体の応援にはいっさい頼らず有権者一人ひとりに訴えた。中田氏を推したのは、政党ではなく個々の人間であり政治家だった。民主党若手政治家の応援とともに、印象に残ったのは小泉首相の姿勢だ。中田氏は国会議員を辞して出馬するときに官邸に挨拶に行った。小泉首相は中田氏を激励した一方で、現職の高秀氏の応援には一度も足を運んでいない。
自民党内には不満もあると伝えられているが、私は、補助金でハコ物をつくり続ける4選目の候補者よりは、郵政事業民営化に賛成し、一票の格差是正に熱心で、日本の安全保障政策にも通じていて、日本の国益を考えられる候補者のほうが望ましいと考えるのは、当然だと思う。
中田氏には私自身、鯨問題について教えられる点が多かった。日本の外交は、対北朝鮮、対韓国、対中国で典型的にみられるように、国益も論理も無視して展開されてきた。そうした事例とは対照的なのが、日本の鯨外交だ。
今、鯨たちは、全人類の消費する漁業資源9000万トンの3倍から6倍を食べている。FAO(国連食糧農業機関)は海洋資源が減少しているとして、世界の漁船の数と漁獲量を3割削減させることを決定した。海中生物の生態系の頂点に位置する鯨を人間が人工的に保護しているのであるから、人間が手にすることのできる漁獲量が減少するのは当然のことだ。
このままいけば、人類は漁獲量の減少を甘受し続けざるをえないが、それは合理的なことなのか。鯨保護は、鯨が絶滅の危機にあるとの認識から始まった。だが、日本の調査は正反対の結果を示している。鯨は絶滅状態からは程遠く、海の生態系を考えるならば、むしろ適度に捕獲するほうがバランスを保つことができるのが現実だ。
鯨外交に関しては、他の事案と異なり、日本の主張が論理的、かつ、科学的で欧米の主張が感情的で非科学的である。だが、日本の正論は、長年、国際社会で敵視されてきた。日本人のなかにも「国際社会の反発を買ってまで、私は鯨を食べたいとは思わない」という類いの情に基づいた意見がある。
それでも、国際社会の意見は徐々に変化しつつある。今年5月には下関で国際捕鯨委員会総会が開かれる。その場で日本の主張がどこまで取り入れられるか、私は注目している。票にもならない鯨問題に長年取り組んできたのは、正論が通じない国際政治の現実を学び理解し、日本が成長していくことのできるよいケーススタディであるから、と中田氏は述べた。政策は論理的に立案し、主張し続けよということだ。
そんな中田氏を、選挙民は選んだ。横浜市の抱える問題は多様である。まず、市とはいえ350万人近くの人口を抱えている。港町でもあり、外国籍の住民も多い。そうした人びとといかに健全でよい関係を保っていくかも問われる。彼らとのよりよい共存関係を築くためにも中田新市長は日本の立場をしっかり踏まえたうえで心寛い行政を心がけなければならないだろう。一票の格差是正にも安全保障にも関心を失わず、地方自治体から日本国を変えていく力になることだ。
横浜市長選のあと、京都府知事選、参院新潟と衆院和歌山2区の補選が続く。改革を軸に私たちの国が変わりゆくのではないかと大いに期待している。