「 安全保障で自立しなければ沖縄ひいては日本の未来も暗い 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年2月17日号
オピニオン縦横無尽 第384回
沖縄県では「基地に見合う振興策を」という考え方で、さまざまな企画が立案されてきた。普天間基地移転先の名護市を金融特区にして、日本のみならずアジアの金融センターに育て上げる構想をはじめ、沖縄県は政府の全面的な支援を得て、元気である。
同時に、普天間の米軍基地を名護に移転した場合、米軍の使用は15年に限定するとの立場に沖縄県知事の稲嶺恵一氏は固執してきた。一方、米国の軍事戦略からみてこの15年問題が受け入れられないことにも変わりはない。
結果、沖縄の基地移転問題は、実態としては、ほとんど進展していない。そんな状況下で沖縄駐留のヘイルストン四軍調整官が、部下に宛てた電子メールのなかで稲嶺知事らを「ナッツ」と中傷した。「朝日新聞」の報道によると「バカで腰抜け」と書いていたそうだ。
このような表現は下品であり、ヘイルストン中将のメールは感心しないが、対する稲嶺知事は、どう反応したか。テレビカメラの前に立ち、憤然として「非常に不快です」と答えていた。
「非常に」「不快」と、外向的にはたいそう強い表現で知事は述べ、沖縄問題について日米間にはまたまたわだかまりが生じた。日米双方に“いや気”という空気がたまっているのだ。
沖縄問題を取材してこの1年ほど節目節目で感じるのは、米国が在沖縄米軍の削減を現実的選択肢として考え始めたということだ。ブッシュ政権の要人たちにもその傾向は顕著にみてとれる。たとえば、安全保障問題を専門分野のひとつとする自民党の山崎拓氏とアーミテージ国務副長官の対談である。ともに安全保障問題の専門家である彼らの会話から、米国の考え方が見えてくる。以下、山崎氏の話の要約である。
会談では、米国側は普天間にも15年問題にも触れず、在日駐留米軍の規模は固定化されたものではない、増えることも減ることもあると述べた。山崎氏は、そのような発言は、「増える」可能性と受け取られることは政治的にはありえず、即、「削減」と解釈されると指摘した。この指摘にアーミテージ副長官はコメントせず、黙って聞いていただけだったというのだ。
このことはいくつかのメッセージを私たちに送っている。ひとつは、沖縄米軍の削減および撤退の可能性が具体的に考えられているということだ。コソボ空爆で米軍は2万回に上るピンポイント攻撃をし、目標をはずしたのは20回のみと報じられた。99.9%の命中率は、中国やロシアが息をのんで見守った高水準だ。他国の追随を許さない長距離攻撃能力を手にした米国は、海外の基地からでなく、本土からのミサイル発射で、“敵”と戦うことができる。つまり海外の基地撤収が、戦略的にも戦術的にも可能になったのだ。
同時に、米国は本気で日本に自立を求めているということだ。昨年10月、共和、民主両党の政策ブレーンが共同で発表した対日政策提言には、21世紀の日米関係は米英関係をモデルにすべきと書かれていた。常に対等で、自立した主権国家同士の協力関係を日米間に築いていきたいというものだ。
そのためには、日本は安全保障ももっと自力でやってほしいということだ。
普天間移転は実態として進展しておらず、たとえ何年か先に実現したとしても15年の期限付きであり不十分だとなれば、もう沖縄から引き揚げようと米国が考えることも十分あるだろう。
沖縄県民の多くも、稲嶺知事も、米軍削減には乗り気である。しかし、米軍撤退後の沖縄の自立を考えずに撤退要求するとすれば、沖縄の未来は暗い。同様に、日本国政府も、いつまでも現在のような形の日米安保条約があると考え、その上に安住できると考えるのは誤りである。在日米軍は、米国の“押しつけ”と考えるような姿勢は、日本の未来を暗くすることになる。