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2006.09.02 (土)

「 はじける笑顔の雅子妃に複雑な思い 皇室はなんのために存在するのか? 」

『週刊ダイヤモンド』    2006年9月2日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 655

8月18日、皇太子ご一家がオランダに到着され、オランダ王室のお出迎えを受けて撮影された写真が各紙の一面を飾った。「はじける笑顔」と見出しを付けた社もあったほど、雅子妃の表情は明るかった。国内で見なれてしまった鬱々とした表情の上に努力して重ねて見せる笑顔とはまったく異質の、心底楽しそうな豪快な笑いがそこにあった。笑顔の妃を見て、十分な休養を願いつつも、心中複雑な思いを抱いた日本人は少なくないだろう。

皇室はなんのために存在するのか。日本人は皇室のために何をなし、何を求め、皇室はどう応えるのか。雅子妃の問題に限らず、このところ、皇室と国民のあり方について頻りに考える。

天皇の思いを記した書として「昭和天皇独白録」がある。敗戦直後の1946(昭和21)年3月から4月にかけて、昭和天皇のご記憶を5人の側近が記録したものだ。そこには気になるお言葉が少なからずある。一例が、42(昭和17)年12月12日の伊勢神宮ご参拝に関する項である。そのときすでに、日本はミッドウェー海戦で大敗し、戦争の行方は見通しが立たなくなっていた。同年12月、昭和天皇は伊勢神宮に参拝され、そのときのお気持ちを次のように語られている。

「あの時の告文を見ればわかるが、勝利を祈るよりも寧ろ速かに平和の日が来る様にお祈りした次第である」

一方、ご参拝は当時「一天万乗の大君御親ら神宮に御参拝、大御神に御告文を奏せられ、親しく戦勝を御祈願あらせ給うた御事は、神宮御鎮座以来未だ嘗て史上にその御前例なく……」と報じられた(「独白録」)。

勝利よりも平和を願ったとしながらも、昭和天皇は右の新聞報道のように、戦勝祈願もなさっていた。それは「伊勢神宮は軍の神にはあらず平和の神なり。しかるに戦勝祈願をしたり何かしたので御怒りになったのではないか」と語られたことが、木下道雄侍従次長の『側近日誌』(文藝春秋)に書かれていることからも判断出来る。

戦局不利のなかでの天皇による戦勝祈願は国民を大いに鼓舞し、戦いへの新たな決意を堅固ならしめたことだろう。が、昭和天皇は、勝利は二の次で早い平和をこそ願っていたと仰る。

立憲君主としての矩(のり)を守ろうとなされば、戦争続行の政府決定を受け入れるしかなく、その限りにおいて、真意を表現出来ないおつらさはあっただろう。また目前の戦争での勝利よりは、長い目で将来を見つめるがゆえの、平和を優先するお気持ちを持たれるのは、上に立つお方として必要な良識でもあろう。だが現実に、軍人を輩出し、戦死者を出しながらも勝利を信じて力を尽くさざるを得なかった国民は、天皇の“ご本心”を、戦後になって目の当たりにして、置き去りにされてしまったかのように感ずるやもしれない。このギャップは埋め得るのか。

それにしても、天皇の存在が必要となるのは、明治維新のときや終戦時がそうであったように、100年あるいは200年に一度、国家の危機に直面し、最終的に国民を統合し国をまとめる権威を発揮していただくときだ。

分裂する国論をまとめ、この国を一体として守り通すことは、国民を守るための必須の基盤である。皇室に求めるものが国家統合の権威であるなら、その余のことを問題にするより、国民はまず、権威を真の権威ならしめる尊崇の思いを心のうちに育てていきたいものだ。応えて皇室は、ひたすら国民のために祈り、その祈りを実践なさっていただきたいものだ。どちらが欠けても皇室の存在意義は失われる。日本の日本らしさも同様だ。

憂うべきは、その心構えの双方における稀薄さである。雅子妃のご健康を祈りながらも、妃のはじける笑顔から皇室の存在理由としての国民のための祈りを読み取ることが出来ないのは、残念なことに私一人ではあるまい。

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トラックバック: 6件

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櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 はじける笑顔の雅子妃に複雑な思い 皇室はなんのために存在するのか? 」

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