「 歯止めはどうする、共謀罪 」
『週刊新潮』 '06年5月18日号
日本ルネッサンス 第214回
この国の安全について考えるとき、いつも疑問に思うことがある。なぜ、オウム真理教による一連の事件を、なぜ、北朝鮮による一連の拉致事件を、防ぐことが出来なかったのかという疑問である。
オウム真理教の犯罪については警察当局への情報提供は幾件もあった。拉致事件については1977年9月19日に石川県能都町(現・能登町)宇出津(うしつ)の海岸から久米裕さんを拉致した犯人が石川県警に逮捕されている。情報どころか拉致実行犯の片割れを、警察は逮捕したのだ。
で、その後の展開はどうなったか。麻原らは暴走を続け、松本サリン事件、地下鉄サリン事件などをおこし多くの命を奪った。拉致事件は、その後も続き、横田めぐみさんら多くの人々が連れ去られた。
日本国がこうした犯罪を防ぐことが出来ないのは、それを取り締まる法律がないからだと言われる。たとえば、北朝鮮から工作員が侵入しても、スパイ防止法がない。そこで日本政府は彼らを、出入国管理法違反、または彼らが外貨を所有していれば外国為替法違反という微罪で取り締まる。これは懲役一年、執行猶予三年と相場が決まっている。裁判が終ると、彼らは勾留を解かれ、強制退去させられる。
そのとき、犯人たちは密入国するのに用いた通信機器やゴムボート、乱数表など、“スパイの七つ道具”の返還を求めるのだ。危機管理の第一人者、佐々淳行氏が語った。
「昭和48年、山形県で発生した崔光成事件で工作員2名が逮捕されました。執行猶予がついて釈放されるとき、崔は通信機器とゴムボートは金日成主席閣下のもので北朝鮮の財産だから返してくれと主張したのです。こんなものは没収するのが当然なのですが、裁判所の判断は、返却せよというものでした。こんな国、世界にあるでしょうか」
法律ではなく運用の問題
それでも久米さん拉致のケースでは犯人を逮捕していたのだ。警察当局にやる気があれば、かなりのことが出来たのではないかと残念でならない。犯人を尋問し、全国の警察に、北朝鮮による拉致事件が発生したと警告していれば、その後の拉致は防ぐことが出来ていたかもしれない。だが、犯人は23日間勾留され、処分保留のまま釈放された。
それはやはり法律がないからか。だとすれば共謀罪も必要だと思えてくる。が、共謀罪の法案を見ると、問題も多い。
共謀罪が日本で浮上してきたのは国連の国際組織犯罪防止条約がきっかけである。同条約は国境を越える組織的犯罪集団による犯罪やテロ行為を、事前に効果的に防止することを目的として作られた。日本は、自民党も民主党も含めて同条約に賛成し、法務省は同条約締結で生じた義務を果たすために、新しい法律が必要だとして、この共謀罪を出してきた。
法案は当初、2003年の通常国会に提出されたが、全く審議されずに同年10月の衆議院解散で廃案となった。次に2004年の通常国会に提出され、今度は審議入りしたが、またもや05年8月の郵政解散によって廃案となった。3回目の提出は2005年の特別国会だった。現在06年度の通常国会で審議が続いており、与党は採決に入りたい構えだ。
同法案に関して生ずる危惧は、国連の条約の目指している国際的組織犯罪取り締まりの域を、この法律ははるかに超えているのではないかという点だ。法律には、共謀、つまりニ人以上の人間が犯罪を行う意図で話し合っただけで取り締まりの対象になりかねないととれる部分がある。
メディアでは、考えられる具体的事例として、数人で金を使って選挙の票のとりまとめを相談した場合、それを実行しなくても、その謀議が発覚すれば罪に問われる可能性などが報じられた。
行為に至らない、人の心の内面を言葉にしただけで取り締まられるとすれば、それは想像するだけで息苦しい。話し合った人々の意思を、その真剣さも含めて、外部からどのように確認出来るのか、確認困難な“合意”によって処罰されるとしたら、言論や思想の自由にとってこの法律は脅威となる。物言えぬ社会が到来すると言ってよい。この点について、与党は4月21日修正案を出した。
摩擦を恐れる国
修正によって、共謀罪で処罰するには、共謀した事実と、その“実行に資する行為”がなければならないとされた。4月28日の衆議院法務委員会で、この点について自民党の稲田朋美議員が、では共謀のみの段階で強制捜査することが出来るのかと、尋ねている。
右の問いに対する直接的な回答は「あり得ない」つまり、出来ないということだ。共謀内容を具体的実行に移す行為なしには取り締まれないとしたのは、ひとつの歯止めだ。だが、同委員会での議論を辿っていくと、民主党の細川律夫氏の「資する行為が現実になければ逮捕はされないんですね。逮捕出来るんですか」との問いに、政府側は次のような微妙に異なるニュアンスで答えた。
「共謀だけで犯罪が成立します。したがって、逮捕することは法的に可能と考えます。(しかし)実行に資する行為がなければ事実上起訴出来ません。犯罪が成立しませんから。処罰出来ませんから、起訴出来ません。(中略)したがって、共謀の段階で逮捕することは現実問題としては考えられないと申し上げました」
与党と民主党の間では、共謀罪の対象となる「団体」をどう定義するかも論点となっている。民主党は共謀罪の対象は、組織的犯罪集団に限定すべきだと主張、対する与党側は「共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体、つまり犯罪組織と言えるような団体の活動として行われるものである場合に限って共謀罪の対象となることを明示した」と説明する。
一連の議論を聞いていて、幾つもの矛盾を感じざるを得ない。まず、連想するのは住基ネット問題だ。当初、住基ネットの利用範囲は厳しく限定されていた。だが、今や、住基ネットは国の事務全体に使われている。官僚たちは入り口は狭くして、時の経過を見ながら利用範囲を広げたのだ。それを政治家もメディアもチェックしていない。同じことが、共謀罪でも起きないとは限らない。
他方、反対の感慨も抱く。この国は、どんな法律を作っても、それが摩擦をおこすとなれば、恐れて使えないのではないかということだ。念頭にあるのは破壊活動防止法である。オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こしたときでさえ、政府は破防法の適用も、彼らを解散させることも出来なかった。彼らに適用出来なければ、この法律は一体、誰に適用されるというのか。法律があっても使い切れていないのではないか。だからこそ、新法の前に犯罪取り締まりにかける国家としての意思を確立しなければならないのではないか。
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rape
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