「 中国、国土買収の嵐、超党派で止めよ 」
『週刊新潮』 2023年4月13日号
日本ルネッサンス 第1044回
中国人女性が沖縄県島尻郡の無人島、屋那覇島を買い取っていたと判明したとき、フジテレビの緊急世論調査で99%の人が外資への土地売り渡しを規制すべきだと答えた。この圧倒的な数字は、国土を奪われ続ける深刻な事態を何十年も放置してきた政治への強い抗議でもある。
それから約ひと月、畏友の加藤康子(こうこ)氏が上海電力問題を調査する中で、もっと酷い事例を発掘した。氏は「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録に大きな役割を果たした人物だ。
「青森県には日本のエネルギー安全保障の観点から非常に重要な施設がいくつもあります。六ヶ所村では原子燃料再処理施設が、むつ市では使用済み核燃料の中間貯蔵施設が建設中です。今回判明したのは、むつ市の中間貯蔵施設の真ん前の広大な土地が上海電力の手に落ちていたことです。ここに風力発電施設を建て、固定価格買取制度(FIT)で事業展開するための認可が下りていました」
風力であれ太陽光であれ、FITの認可を得れば生み出した産業用電力は比較的高く設定された固定価格で20年間買い取ってもらえる。買い取るのは電力会社だが、そのコストは全て各家庭の電気代に再生エネルギーのための賦課金として上乗せされる。ツケは全て国民に回される一方、再エネ業者には20年間の高収益が保証される。これがFIT事業の仕組みだ。
むつ市の中間貯蔵施設の周りには建物はなく、見渡す限り原野が広がる。土地が日本人女性の名前で登記されている一方、この土地を活用した風力発電の事業はSMW東北という合同会社名で申請・認可されている。SMW東北社を辿っていくと、所在地は上海電力の住所に行きつくのだ。
加藤氏の証言だ。
「事業も、同じ上海電力の人物名で申請されています。この点は経済産業省の資料でも確認しました」
核燃料の中間貯蔵施設はわが国の原子力エネルギー産業を支える重要な柱のひとつだ。原子力発電で使用された使用済み燃料は本来なら六ヶ所村の再処理施設で処理される。そこでウランとプルトニウムを回収し、再利用する。一方、使用済み燃料1トンの再処理で廃棄物30キロが残る。これはガラスと一緒に溶かして固形にし、地下に埋める。
最も危ういのは農地、森林
だが再処理施設の完成は延びてしまっている。そこで、たまる一方の使用済み燃料を金属のキャスクに入れて原子炉建屋内に保存しているのが現状だ。その集積地となるのがむつ市の中間貯蔵施設なのだ。
政府は使用済み燃料の扱いに万全を期してきた。部厚い鉄鋼製のキャスクに入れ、高所からの落下テスト、摂氏800度の炎に放り込んでの耐熱テストでも放射能漏れのないことを確認した。陸奥湾で荷上げされたキャスクが施設に輸送される際のテロ襲撃も想定して専用道路を整備し、警備要員も訓練してきた。万全の安全対策を講じているにも拘わらず、広大な隣接地を上海電力に与えてしまった。こんな馬鹿なことを、なぜ、政府は見逃しているのか。
「実はこうした酷い事例はここだけではないのです。むつ市の陸奥湾に面したあたりに海上自衛隊の大湊地方隊の基地があります。そこから余り離れていないところにむつ市城ヶ沢という地区があり、漁港や材木屋が目に入ります。この辺一帯の土地も先の貯蔵施設と同じ状況になっているのです」と、加藤氏。
登記簿では土地は日本人の所有だが、事業認可はまたもやSMW東北という合同会社が風力発電事業で受けており、これもFIT事業だ。会社の住所は先の事例と同じく上海電力と同一である。加藤氏が近隣の人々に取材した。
「漁協の人たちも上海電力や中国の投資マネーの話など、聞いたことがないと言うのです。大きな材木屋さんの方に聞いたら『自分の所にも話が持ち込まれた』と言いました。なんと地元の有力機関、みちのく銀行が話を持ち込んでいたのです」
材木屋さんはみちのく銀行に勧誘されて、固定価格買取制度を利用して自分の所有する広い土地で風力発電事業を展開しようと考えたが、許可が下りなかった。
青森県の原子力施設や自衛隊関連施設の周辺には風力発電用の高い風車が林立している。しかし「風がないために、風車はひとつを除いてすべて止まっていました」と加藤氏。にも拘わらず、こんなエネルギー政策のために何兆円も費やし、国民に賦課金を払わせ、挙げ句に土地は中国にとられる。この愚策をいつまで続けるのか。
「有志の会」の北神圭朗氏が1月31日の衆議院予算委員会で、日本でいま最も危ういのは農地、森林であり、脅威は外国資本、というより、ズバリ中国資本だと指摘した。
これで政治家なのか
中国人はまず日本の土地を借りる形で入ってくる。そこで農業なり再生エネルギーなり実績を積んで、その後買収を進める。青森県の事例でも、土地の所有者は一応日本人だ。他方、事業認可は正体がよく分からない合同会社が取り、最後まで辿っていくと上海電力が事業認可を取得済みなのが分かるというわけだ。さらに将来、どこかの時点で、彼らは必ず土地の所有権まで取ってしまう。
一連の中国による狡猾かつ計画的な国土買収を阻止する法整備を求めても、政治家も官僚たちも反応は鈍い。野村哲郎農林水産大臣は北神氏の問いにこう答えた。
「森林につきましては、北海道を中心に非常に買い占められてしまった。これを規制することは難しい状況です」
これで政治家なのか。本当に大臣なのだろうか。気概はどこにある。現行法で難しいのなら、新法を作って解決するのが政治家の仕事だろう。立法が議員の仕事であろう。中国資本の侵略的買収を止められないという人々がいつも口にする理由がWTO(世界貿易機関)である。日本は加盟するときに土地取引について何の留保もつけなかったので、今更、中国による土地買収は止められないというのだ。
北神氏は、日本と同じく留保条件なしでWTOに加盟したフランスもイギリスも対処できていると語る。
「フランスは水源の保全、安全性、調達、食料安全保障に関わる農産品の生産、加工、流通については、大統領が指定をしたら、事前認可制になり、認可しないこともできるのです。イギリスは全国土を監視対象にし、安全保障上の疑念があったら、関係者を呼び出し、調査し、場合によっては契約させない、無効にする権限を政府が持っています」
日本も同様にできるはずだ。ここまで日本の国土が奪われているとき、規制は難しい、で済むはずはない。気概なき政治家は要らない。自民、日本維新の会、国民民主、有志の会など、志ある政治家が主導して中国の日本の国土侵略を即刻、止めるときだ。