「 米国同時多発テロ後の日本の報道と指導者の発言を憂う 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年9月29日号
オピニオン縦横無尽 第414回
米国中枢部へのテロ攻撃のニュースを、取材地のベトナムで見た。ハノイでもホーチミンでも、欧米諸国および日本の放送は同時中継で見ることができる。朝と夜と、ホテルの自室に戻った時には、予想だにしなかった衝撃のニュースを各国のメディアがどう伝えたか、各国の首脳がどう対処したかを見較べることとなった。
現地で見た日本からのニュースはNHKと日本経済新聞に限られており、その限りでの印象だが、テロ攻撃後1週間の対応は、日本は湾岸戦争当時の愚を繰り返そうとしているのかと問わざるをえないものだった。また、衛星放送などを見る海外の人びとが日本に抱く反応は、なんとひとりよがりの国かという印象ではないかと感じさせられた。
9月11日夜(ベトナム時間)事件発生のニュースをBBC、ABC、NBC、CNN、アンテンドゥなどがいっせいに報じ始めた。各メディア局は民間機が世界貿易センタービルに突っ込み、恐ろしいほどの煙が上がり瓦礫が降り注ぐ映像や人びとが逃げまどう姿を幾度も映し出しつつ、事件に関する情報を臨機応変に伝え続けた。
BBCでは、事件発生後、まもなくブレア首相が行なった記者会見を中継した。同首相は米国へのテロ攻撃は、米国一国に向けられたものではなく、自由主義世界全体に向けられたものであるとし、「われわれは米国と肩と肩を並べて」テロ攻撃に立ち向かうという固い決意を表明した。
同首相はさらに、多くの被害者が出たこと、そのなかには英国民も含まれていると語り、「米国と米国民がこの悲劇を乗り越え、卑劣な敵との戦いに勝利の決着を見、心を安んずる時まで、英国民の心もまた安んずることはない」と、感情込めて訴えた。同首相は、テロリズムとの戦いのために英国がなすべきことも具体的に語り、米国への支持が言葉だけでなく行動を伴うものであることをも明確に示した。
ブレア首相のスピーチは、聞いている者の心に沁み込んでくる想いと説得力を有していた。このスピーチを聞いた米国民と米国政府は、英国こそ米国と同じ価値観を共有する真の同盟国だと感じたことだろう。ブレア首相に続いてフランスもドイツも、そしてロシアのプーチン大統領さえもが米国への支持を打ち出した。
一方NHKが伝えた日本政府の反応は、まず福田官房長官の12日午前1時の会見だった。官房長官は邦人の安否を含む情報収集を約束し、さらに遅れて田中外相のコメントが送られてきた。外相はサンフランシスコ講和条約50周年記念式典で訪米した時に、米国が異常だと思えるくらいに緊張していたと語っていた。「私の護衛は50人もガードが付いた」などと語る姿を見ながら、もしこれが彼女のコメントのすべてなら、なんとピント外れのことかと考えた。外相としての立場や識見はどこにあるのかと考えた。そして次に紹介された小泉首相のコメントはさらに驚くべきものだった。首相は「怖いね」と述べていたのだ。この人もまた、外交や国際政治については著しく、欠けるものがある。
事件発生直後とはいいながら、いったいどの国の首脳が、田中外相や小泉首相のようなコメントを出すだろうか。
そしてNHKの報道はといえば、繰り返し邦人の安否を中心に伝えていた。邦人の安否ももちろん大切である。しかし、各国の報道は、安否の問合せ先を随時、報じながらも、ブッシュ大統領が「21世紀の新しい戦争」と呼んだこのテロ攻撃の分析と対処に、大半の時間を充てた。NHKの報道内容は否が応でも、際立って異質なものだった。このままでは私たちは湾岸戦争の愚を繰り返すことになる。そうならないように、各当事者たちは心せよ。