「 太陽光発電を原発並みに規制せよ 」
『週刊新潮』 2021年7月29日号
日本ルネッサンス 第960回
7月3日午前10時半頃、静岡県熱海市の伊豆山で発生した土石流では18人の方が亡くなり、2週間がすぎた今も12人の方が行方不明だ。大きな被害をもたらした土石流はなぜ発生したのか。そのすぐそばのメガソーラー開発との因果関係に注目するのは当然だが、静岡県はメガソーラー設置が土石流発生に直接の影響を及ぼしたのではないと発表した。
土石流はメガソーラー設置場所から200メートルほど離れた谷沿いに埋めたてられた残土を主とする、約5万5000立方メートルとされている。この中に産業廃棄物が含まれていたことから、静岡県はメガソーラー開発よりも残土を問題とする視点で今回の災害を説明した。
16日の「言論テレビ」では静岡県選出の衆議院議員、細野豪志氏と札幌医大名誉教授の高田純氏を招き、熱海土石流とメガソーラー開発の関係を論じた。静岡県の説明に異議を唱えたのが高田氏である。
「7月3日午前に発生した土石流について、静岡県副知事の難波喬司氏が会見しました。最初から盛り土原因説を語っていました。そのこと自体が疑問です。上空から撮影した写真には、崩落場所とその近くに設置されているメガソーラー施設をつなぐ道路がはっきり写っています」
写真からは土砂崩落のすぐ近くの尾根沿いでメガソーラー発電が行われているのが見てとれる。そこから崩落の起きたところまで道路が通じている。パネル設置のための整地工事で生じた残土を、今回崩落した地点に運び込んだ可能性はないだろうか。一連の工事は埋めたて量も50メートルに及ぶ高さも業者の申告は嘘だった。埋めたて部分は崩れ落ちたが、ソーラーパネルはきちんと立っている。だから、パネル設置と土砂崩落には直接的因果関係がないと難波副知事は言ったのであろう。
かつて熱海が自身の選挙区の一部だった細野氏が語った。
「メガソーラー設置の尾根が崩れていないからといって、メガソーラーを土石流の原因からなぜ、排除するのか。調査の必要があります」
細野氏は民主党に所属していた時、福島の原発事故に関連して除染の長期目標を放射線量年間1ミリシーベルト以下にすべしとして、土壌掘り返しのパフォーマンスを行った。福島には、細野氏の当時の言動は大いなる間違いだった、あの厳しい基準が多くの人々の故郷への帰還を妨げたと批判する人は今も少なくない。現在の氏はその点も含めて、「歴史法廷で罪を自白する覚悟」だという。
元産経新聞記者の三枝玄太郎氏は全国各地のソーラー発電を取材した体験から次のように語った。
「私が取材したソーラー発電の事例では、少なくとも六つの事例でソーラーパネルの設置地域に土砂崩落が発生していました。下田では家が流されていました。いずれもソーラーパネル自体は損傷していないのですが、設置場所近くの山地が大規模土石流をおこしていたのです」
メガソーラー批判はタブー
埼玉県嵐山町での大崩落もその一例だという。同町では森林を伐採して4万6000平方メートルの斜面が切り開かれ、約1万枚のパネルが敷き詰められた。2020年10月、数日間にわたって降り続いた雨で斜面を支えるかつての森の部分が大きく削り取られて崩れた。森を切り尽くしたあとの山は、森林が果たしていた保水機能が著しく失われ、大雨に持ちこたえられなかったのだ。
再度強調したいのは、ソーラーパネル自体が崩壊していないから、山の崩落がソーラー開発と無縁だとは断じて言えないということだ。
取材に応じた静岡県知事の川勝平太氏が意外なことを語った。「静岡県が多くの犠牲者を出した土石流とメガソーラー開発には因果関係がないと判断し、原因究明からメガソーラーを切り離している」などと報じられていることに困っているというのだ。
川勝氏は難波副知事の専門的知識を評価しながらも、その発言が完全にメガソーラーを土石流の原因から除外しているととらえられているのは本意ではないと言うわけだ。両者間の因果関係を認めているともとれる。氏が語る。
「メガソーラー問題は非常に深刻です。今回の土石流にメガソーラーがどう関係しているか、県の調査委員会を設けました。7月12日には菅(義偉)総理がおいでになり、総理も国として調査することを了承しました」
それにしても奇妙ではないか。副知事は、なぜ、土石流とメガソーラーの因果関係を否定したととられるような説明をしたのか、また、テレビ局のニュースも殆どの新聞も通信社も、土石流とメガソーラーの関係を報じなくなったのはなぜか。メディアによっては崩落現場近くのメガソーラーが写らないような映像構成で報じている。恰(あたか)もメガソーラーに触れることを恐れているかのようだ。いつからメガソーラー批判はタブーになったのか。何が原因なのか。
自然大破壊計画
言論テレビでも指摘したことだが、土石流を起こした現場周辺の広大な山地の現所有者は、ZENホールディングスである。所有者の代理人は反原発運動で社民党の福島瑞穂氏らと共闘してきた河合弘之弁護士だ。ZENホールディングス、或いは河合弁護士らと真正面からぶつかることを恐れなければならない理由が、メディアや静岡県側にあるのか。メガソーラーを批判しないことが何らかの利益につながるのか。
菅政権のエネルギー政策はここでどんな役割を果たしているのか。小泉進次郎環境大臣は菅総理の秘蔵っ子として将来を嘱望される存在だ。氏が父親の強い影響下にあるのは明らかで、原発ゼロとCO2削減を目指す余り、どう考えても実現には非常に大きな犠牲を払わなければならない太陽光発電の大幅増を推進する。それを後押しするのが菅総理である。
小泉氏は50年までのCO2排出の実質ゼロを目指して原発20基分、2000万キロワットのソーラー発電新設を主張する。そのためには100平方キロメートルの山林伐採が必要だと高田氏は語る。
「仮に100メートル幅の太陽光発電所を造ったとして、1000キロメートルのソーラー発電ベルトがなければ小泉氏の目標は達成できません。青森県から東京を過ぎて西日本の方まで、緑豊かな山々を裸の山にしてソーラー発電ベルトを作るのでしょうか。こんな自然大破壊を日本国民は望んでいません」
菅政権の下で、なぜ、こんな自然大破壊計画が推進されるのか。経済成長を支える戦略だというが、瑞々しい国土を破壊し、土石流を起こし、多くの犠牲者を出しかねないメガソーラー開発を菅政権はなぜ許すのか。メガソーラーの開発を続けるとして、少くとも原発同様の厳しい規制を設けるべきであろう。