「金融危機、日本の価値で打開せよ」
『週刊新潮』’08年10月16日号
日本ルネッサンス 第333回
10月3日、最大で7,000億ドル(約74兆円)の公的資金で金融機関から不良資産を買い取ることを柱とする金融安定化法案を、米国下院が可決、同法が成立した。米国発の金融危機が世界恐慌に直結する事態は、とりあえず回避された。
とはいえ、同時期、パリで首脳会議を開催した英仏独伊の4ヵ国は、欧州連合(EU)が歩調を一にする対処策を打ち出し得なかった。日本もまた、10月6日現在、株式市場で今年の最安値を更新した。金融安定化法が出来ても、世界が金融システムの安定を取り戻せるのかは定かではない。
日本の金融機関はバブルがはじけて以降、10年余りを費やして不良債権を処理してきた結果、今回は比較的痛みも苦しみも少ないという。だが、問うべきは、お金がお金を生むマネーゲーム経済で人類はこれからもやっていけるのかという点だ。金融資本主義は恐ろしいほどの勢いで世界経済を左右してきた。マネーの仕組みに通じている人々にとっても、いわんやその仕組みに疎い人々にとっては、モンスターのような金融資本主義に立脚する経済に不安を覚えざるを得ない。
このマネーゲームを推進してきた米国流のやり方に、多くの国々が従ってきた。とりわけ日本は、六十余年間、米国の足跡を辿り、忠実に米国の価値観を踏襲してきた。
米国や欧州で生まれた価値観や制度、金融システムも金融商品も、それなりの合理性とともに、したたかな戦略を反映する。彼らによる国際金融や経済の制度設計は自国の金融や経済を如何にして守り、強めるかという目的から発して、自国の利益のために他国の力を如何に利用するかという地平に着地する戦略だ。勝者がすべてを奪い、敗者は徹底的に敗れ去る。敗者復活の道はあっても勝敗の差は極めて大きく激しい。日本は、こうした制度の受け手ではあっても、設計の側に立つことはなかった。その結果、翻弄されてきた。
欧米の経済基準の狭間で
たとえば、85年9月のプラザ合意だ。ドル安円高の構造が作られ、ドル安の米国は輸出拡大に成功し、極端な円高に直面した日本は、汗と涙を流しながら、国内産業構造を変えて対応した。それでも米国の対日貿易赤字は減らず、プラザ合意から4年後、米国は構造協議で日本国内の仕組みを変えるよう、迫った。郊外に大規模小売店が立ち並び、週末には広い駐車場が満杯になるほど、買物客が押し寄せる光景は、いまや日常風景だ。これも日米構造協議の結果、大店法の改正などに、日本が踏み切った結果である。大型店は生活を便利にしたが、日本社会から、さまざまなものを消し去った。中小の店々、地元商店街、人間関係。そして、町の佇まいまで変わった。
バブルがはじけ、金融機関は貸し渋りから、かつての日本の金融機関の選択にはなかった貸しはがしに移った。資金とともに時間を貸してきたのが、日本の金融だった。2年契約で借りた事業資金が、3年や4年の返済期間に延びるのは珍しくなかった。借り換えを繰り返すのも、当然だった。そのような日本的慣習を否定して、何が何でも、契約どおりに返済を迫り、結果として、多くの、実態は悪くない会社を潰したのが貸しはがしだった。
それでも経済の国際化のなか、日本全体の生き残りと発展のためには、国際基準に合わせるしかないと結論づけられた。政府も金融機関も、経済学者も専門家も、米欧諸国に合わせることに精一杯で、彼らの制度設計に挑戦し、日本の文化文明、商習慣を反映した日本的システムの長所を国際基準に仕立て上げる発想を欠いてきた。
けれどいま、金融資本主義が危機に瀕し、世界経済はさらなる深みに嵌ろうとしている。米欧式制度に危機が発生したいまが、好機だ。受け身から攻勢に転ずるときだ。これまで言えなかった、日本の主張や価値観を、金融資本主義に替わるものとして世界に発信していくべきだ。
健全な経済に自信を持て
日本初の独立系投資信託会社、さわかみ投信を設立した澤上篤人氏は語る。
「金融は、世界経済の拡大発展を下支えするためのものであるはずです。けれど、それが、金融プレーヤーのための巨額の利益創出のゲームになり果てています。金融派生商品(デリバティブ)の取引高は、07年12月末、国際決済銀行(BIS)統計で596兆ドル、6京3,772兆円という途方もない額になっています。マネーがサイバー空間を飛び交って、いまやどこも軒並み巨額の損失を蒙っているのです。本来、経済の潤滑油であるはずの金融が、逆に足枷になっている。こんな経済や金融が、よく働くことを大事にしてきた日本人や日本の経済に馴染むはずがないのです」
まず、世界を揺るがしている金融危機と実体経済は全く別物だと明確に認識することだ。日本は金融ゲームでは米欧にかなわないが、実体経済は健全である。よく働くこと、人が喜ぶよい製品や商品を作ることを第一義としてきた日本人の考え方と経済運営は間違ってはいない。むしろ、これからの人類のお手本になるべきものなのだ。だからこそ、澤上氏はお金の運用に関しても、日本なりの健全な運用の形を世界に示すべきだと語る。
「お金の運用を、どのように本来の金融に戻すか。経済の潤滑油、或いは、経済の成長を支える力に戻していくかを考えなければなりません」
日銀統計で、今年3月末時点での日本の個人の金融資産は1,490兆円、世界最大規模の資金だ。
「政府系ファンドで高い利回りを稼ぎ、国家財政を潤すという国もありますが、シンガポールや中東諸国の政府系資金、すべて合わせても約300兆円しかありません。日本国民の金融資産は本当に凄いのです」
氏はこれを「日本ならでは」の長期戦略に運用するのがよいと強調する。日本ならではの運用は、マネーゲームに注入された巨額のマネーの動きとは全く別物で、投資の対象を、金もうけをさせてくれる企業ではなく、人間を幸せにする企業に絞ることだ。
日本には世界の先頭を走る企業群、産業群が存在する。こうした企業や産業を元気にするための資金を、長期かつ安定的に供給する。そうして支えられた日本企業はグローバルに展開していくことが出来る。
日本が世界をリードするのは、代替エネルギー、新素材、工業における中間財を始め、きめ細やかさで知られる機械、電化製品など多岐にわたる。日本の強さに自信をもって、日本ならではのお金の流れを創生すれば、経済の潤滑油としての健全なる資本が日本に集まる。こうして、日本ならではの経済、金融モデルで、21世紀の世界を牽引するのだ。
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