「 キラキラネームが示す『親の変質』 家庭の立て直しこそが最重要課題だ 」
週刊『ダイヤモンド』2019年3月23日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽1272
3月13日付の「産経新聞」に「18歳改名」という記事があった。山梨県の高校3年生の赤池さんが、卒業を前に、親がつけた「王子様」から「肇」への改名を希望し甲府家庭裁判所に認められたのだ。
赤池さんは、「極めて個性的なキラキラネーム」について、「本人が嫌なら行動できる。勇気を持ってほしい」と語っている。
教育問題の専門家である麗澤大学特任教授の高橋史朗氏は、全てを一律に論じることはできないとしながらも、それでもキラキラネームは親の自己中心的な思いでつけられる場合が多いと語る。
私は暫く前に、インターネットの「言論テレビ」で氏と家庭教育の在り方を語り合った。その中で高橋氏は、或る保育園でのお母さん方との対話を紹介した。子供の名前に「子」をつけたのはわずか2~3人で、殆どが「オンリーワンの個性を尊重したい」として「特別の名前」をつけたと返答したそうだ。
そこで聞いた子供の名前はざっと以下のようだった。漢字表記の下の( )内が実際の読み方である。
「輝宙(ぴかちゅう)」「一二三(わるつ)」「愛猫(きてぃ)」「七音階(どれみ)」「強運(ラッキー)」「英雄(ひいろ)」「美貝(みっしぇる)」などだ。
「せぶん」は「ウルトラセブン」からとったもの。「じゅりあな」はディスコの店名から、「剣(ぶれいど)」は「仮面ライダー」の主人公の名前からだそうだ。
「『れある』ちゃんはサッカーチームのレアルマドリードからとったそうです。『礼』は『ぺこ』ちゃんと読みます。子供が社会人になったとき、どう感じるでしょうか。キラキラネーム全てが悪いと決めつけるのではありません。けれど全体的な兆候から読みとれるのは親心の崩壊です」と、高橋氏。
赤池さんは、会員証などの作成時に偽名だと疑われたり、女子生徒から笑われたりして、名前ゆえに「みじめな思いが蓄積」していた。高校卒業後は「これまでの人生をリセットし、新たに始めていく」との決意で知人の僧侶の知恵を借りて「肇」とした旨、語っている。彼には広大な未来に向かって歩んでいってほしいと願うものだ。
高橋氏が命名の在り方に読みとる「親の変質」とは何なのか。
「厚生労働省の虐待死例の調査結果で『子供の存在の拒否・否定』が四大加害動機のひとつに入っています。なぜ、自分に子供がいるのか、子供がいるゆえになぜ自分の行動が制限されるのかという自己中心的な思いに親が落ち込み、子供を死に至らしめる事例が少なくありません。かつては当然視されていた『子供のために自分を犠牲にする親』が減りつつあるのが現代日本のひとつの断面です」
安倍晋三首相は3月12日の衆議院本会議で「これまでとは次元の異なる政策を実行して日本を子供が産みやすい国へと大きく転換する」と述べた。
10月から3~5歳児は原則全世帯、0~2歳児は低所得世帯を対象に認可保育園や幼稚園を無償化する予定だ。経済的支援も大事で、決して否定はしない。しかし、本当に必要なのは親心を育てる支援ではないか。
「かつて日本の子育ては世界一素晴らしいと絶賛され、日本の赤ん坊は日本を天国にするために大人を助けていると描写されていました。無邪気な子供たちの笑顔が全ての大人を幸せにするという意味です。日本のお母さんで癇癪を起こす人は見たことがないとも言われました。けれど今、癇癪を起こさない母親は見たことがないような社会になりました」と高橋氏は語る。
平成の30年間で虐待事件は、1101件から13万3778件に約120倍に増えた。余りにも遅いかもしれないが、家庭と家庭教育の立て直しこそ、最重要課題である。