「 中国と対話を続けるダライ・ラマ法王 チベット仏教は人類の幸せに貢献する 」
『週刊ダイヤモンド』 2018年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1258
ダライ・ラマ法王にお会いするのは2年振りだった。昨年秋、来日予定だったが、医師の助言で急遽中止された。今年、法王のお顔は明るく、頬は健康的なうすいピンク色だった。
今回、ネット配信の「言論テレビ」の番組で取材したのは激動する世界で、大国中国に弾圧され続けるチベット民族の未来や混乱する価値観の方向性について、83歳になられた法王に聞いてみたいと考えたからだ。三度目の番組出演に、法王は快く応じ、中国との関係についての質問には意外な答えが返ってきた。
ダライ・ラマ法王がインドに亡命して来年で60年になる。近年、中国との関係は断絶されたと言われてきた。法王がいくら対話を求めても、中国政府は応じることなく、一方的に「分裂主義者」「反逆者」「犯罪人」などの酷い非難を法王に浴びせてきた。ところが状況は改善に向かっていると、法王は次のように語ったのだ。
「この数年間、(私への)批判は大幅に減りました。私と中国との関係は、まず、1979年、私が中国政府と直接接触し、その後数年間、こちらの代表が先方を訪れて話し合う形で対話は続きました。それは中断されたのですが、私と中国指導部の接触は非公式な形でいまも続いています」
対話は断絶しておらず、非公式だが現在も続いているというのだ。そこで再度、その点を確認した。
「そうです。ビジネスマンや引退した当局者が、時々私に会いにきます。私たちは関係を続けているのです」と、法王。
中国共産党一党支配を浸透させようと、あらゆる監視体制をとって国民の動向を見張っている習近平政権の下では、ビジネスマンであろうが引退した当局者であろうが、自由意思でダライ・ラマ法王に接触することなどできない。彼らの訪問が習政権の意を受けているのは明らかだ。
如何なる形であっても対話の継続は重要だ。一方で、政権の意を受けた人間が法王に面会するのは、法王の健康状態も含めて亡命チベット政府の状況を監視する活動の一環ではないかと、つい、私は警戒してしまう。
後継者問題についても尋ねた。中国共産党政権が次のダライ・ラマは自分たちが選ぶと宣言したことを尋ねると、法王は「ノープロブレムだ」と、次のように語った。
「(ダライ・ラマに次ぐ高位の)パンチェン・ラマには後継者が二人います。一人は私が選び、一人は中国政府が選びました。多くの中国当局者が、中国が選んだのは偽のパンチェン・ラマだと言っています」
法王の生まれ変わりが次のダライ・ラマになる「ダライ・ラマ制度」についても重要なことを語った。
「後継者について深刻な心配はしていません。1969年以降、私は後継者問題はチベット人に任せると表明してきました。最終的にはダライ・ラマと特別な関係にあるモンゴル人を含む人々を招集して決めればよい。私が90歳になったらダライ・ラマ制度に関する会議を開けばよいでしょう」
法王はこうも語った。
「将来のことは人々の関心事ですが、私は関与できないことです。大事なのは私に残された日々を、学びと研鑽を積むことで意義深いものにすることです。亡命政府の下のチベットでは僧侶も尼僧も学び続けています。昔の信仰は、率直に言えば訳も分からず信じ込むのに近かった。しかしそれは時代遅れです。学ぶことで確信が得られます」
日本の仏教徒も般若心経を暗唱するだけでは不十分で、もっと真剣に学ぶことが必要だと指摘し、仏教哲学と科学を融合させて学び続けることが、二一世紀の仏教の重要事で、チベット仏教はその先頭に立って人類の幸せに貢献するとの決意を、法王は強調した。