「ウィグル弾圧も止めない中国」
『週刊新潮』’08年5月15日号
日本ルネッサンス 第312回
福田康夫首相は胡錦涛主席とピンポン球を打ち合うことで日中の絆が深まり、問題も友好裡に解決されると考えたのだろうか。だが、国際社会が重大な関心を寄せるチベット等、異民族弾圧について、表面的ではない真剣な話し合いも出来ないのでは、他の如何なる問題も解決されるはずがない。異民族弾圧の実態が如何に深刻か、胡主席来日前に日本を訪れた東トルキスタン(ウィグル族)亡命政府首相のラクマット・ダミアン氏の話を聞いた。
氏は、1947年、アルタイ山脈の集落で生まれた。2本の大きな川が流れ、そのまん中に草原が広がる美しい自然のなかで、氏は恵まれて育った。北京大学で数学を学び、日本の九州大学で教育学の修士号を取得、豪州のアデレイド大学でも修士号を取った。ウィグル族のエリートとして数十年をすごし、1988年、古里のアルタイに戻ったとき、胸がキリで刺されるような痛みにうずいたという。
「豊かな川の一本は完全に干あがり、もう一本は汚れきっていました。川岸沿いに漢人が家を建て、汚物を垂れ流しているのです。漢人たちは古里を破壊し、汚し尽していました」
中国の異民族支配への氏の憤りは、1997年、決定的になる。
「イリで発生した抵抗運動を、人民解放軍が徹底的に弾圧し、多くの人が無惨に殺されたのです」と、氏。
新疆ウィグル自治区の首都、ウルムチから西へ約700キロ、カザフスタンの国境近くにイリ地区がある。そこで97年2月5日、中国共産党支配に抵抗し、真の自治と宗教の自由を求めて、ウィグル族の老若男女が平和的なデモをした。武装した中国人民解放軍はこのとき、1,000人以上を拘束したという。
東トルキスタンの2月は極寒の季節だ。摂氏で零下30度にもなる。その寒さのなか、中国共産党は捕えたウィグル人を全裸で戸外に立たせ、頭から水をかけて立たせ続けた。女性も子どもも含まれていた。少なくとも200人が一晩で凍死したとダミアン氏は涙を浮かべて語る。
「女性や子ども、同胞たちをここまで弾圧する中国共産党は絶対に許せないと強く思いました。この事件が私の亡命の直接のきっかけとなりました」
朝日が報じたウィグル騒乱
同弾圧から6年以上がすぎた2003年8月1日、『朝日新聞』はイリ事件を「ウイグル族過激派が『イスラム王国樹立』を叫んで騒乱状態となり、死者7人、けが人200人余が出た」と報じた。
ダミアン氏が反論した。
「全て中国共産党の発表を鵜呑みにした報道です。死者7名など、そんな生易しいものではありません。しかも、現場で死ななかった人々は、その後、激しい拷問で命を落としているのです。私たちは誰がどのようにして殺されたか、固有名詞で詳しく語ることが出来ます。中国当局の発表など信じないで下さい」
チベットでいま進行中のことは、東トルキスタンで過去約50年間行われてきたことだ。だが、東トルキスタンへの弾圧は、チベットへのそれよりも尚、過酷だと氏は強調する。
「チベットへの鉄道の開通は2年前ですが、東トルキスタンは40年以上も前からです。鉄道は人民解放軍と漢民族、彼らのための大量の武器を運びました。結果、ウィグル族の人口約1,500万人に対し、漢民族は約2,000万人になりました。人口構成に関しても中国当局の発表は歪曲されています。中国全土の6分の1を占めるウィグル族の国土には天然ガスや石油、金、稀少金属など、豊富な資源が埋蔵されています。漢民族は我々の資源を盗み続ける一方で、我々の古里でこれまでに46回、核実験を行いました。ウィグル族の国土を利用し尽すのです」
漢民族は国土と資源にとどまらず、民族の心と文明も奪い去る。
「中国共産党政府は、外部世界に向かって、中央民族学院などを指して、少数民族の若者たちに高度の教育を施している、差別もせずあたたかく育てていると宣伝します。しかし、実態を知れば背筋が寒くなります」
中国共産党は東トルキスタンなど、辺境には、ほとんど予算を注ぎ込まない。インフラ整備も、教育も医療もなしだ。だが、子どもたちの一部は就学年齢に達すると、順次、親元から離して集団で生活させる。貧しさゆえに子どもの教育が出来ない親たちは、中国政府のこの措置を喜ぶという。
親元から離された子どもたちは集団生活で徹底的に中国語を学び、毛沢東主義や社会主義を学ばせられる。頭のよい子は中学、高校、大学進学も夢ではない。しかし、上級学校進学の最重要の基準は、成績よりも、中国共産党への従順さである。
中国による他民族消滅策
こうして親元を離れて暮らすうちに子どもたちは自らの民族の言語、文化伝統を忘れ、中国共産党の色に染まり、中華文明に染まる。何年か後、親に再会しても言葉が通じない。おまけに子どもたちの心は、すっかり中国人(漢民族)になっているというわけだ。
また中国では少数民族の子どもたちの人身売買は日常茶飯である。低賃金労働者として闇で取引されるのだ。4月30日の共同電によると、広東省東莞市で10歳未満の子どもたちを含む一群の少年少女が一日5元(約74円)で働かされていた。少女には性的暴行も行われていた。それでも警察の調べに、12、13歳の少女らが「家に帰りたくない」「貧しくて両親は私を必要としていない」と泣いて訴えたという。
「貧しいから国が教育してやるといっては、異民族の子どもたちを中国人に仕立てあげていくのです。また、異民族の女性を、強制的に漢民族に妻合わせるのです」とダミアン氏。
中国の人口構成は一人っ子政策の結果、大きく歪んでいる。一人っ子なら男の子がよいと親たちは考え、堕胎や産み分けを実行する。そして、女児100人に対し男児117人が生まれるようになった。2020年には結婚相手のいない適齢期の男子は4,000万人にのぼると言われている。
「そのため中国共産党は15歳から22歳の結婚適齢期のウィグルの女性ばかりを北京や上海、天津、青島などの都市に送り出しています。計画は06年から5年間で40万人、逃げ帰ると罪に問われます。彼女らはまず、劣悪な環境で安価に働かされます。その後は漢人の男性との結婚が待っています。中国共産党の異民族支配は、漢民族のための安価な労働力と結婚相手の双方を供給する構造です。漢人にとって一石二鳥の政策は、明らかにウィグル族の消滅の上に描かれているのです」
中国共産党の常軌を逸した企みに目をつぶり、パンダやピンポン球で喜ぶ日本であってはならない。首相は勇気を振るって道義をこそ説け。
1997年2月5日グルジャ(伊寧)事件12周年、事件当時の朝日新聞
今日2月5日でグルジャ事件から12周年を迎える。毎年グルジャ事件についてはそのことをこのブログでも取り上げてきた。その重要記事をライブドアブログに転載しているので、読んでい…
トラックバック by 真silkroad? — 2009年02月06日 00:00
[…] かけて立たせ続けた。女性も子どもも含まれていた。少なくとも200人が一晩で凍死したとダミアン氏は涙を浮かべて語る。 『櫻井よしこ ブログ! ? 「ウィグル弾圧も止めない中国」』 […]
ピンバック by ウイグルで起こっている本当のこと | 朱雀式 — 2009年07月13日 11:27