「ヒラリー、感情を克服できるか」
『週刊新潮』’08年4月24日号
日本ルネッサンス 第310回
演壇ですれ違ったヒラリー・クリントンとバラク・オバマ両氏。笑みを作った表情には、白い歯がこぼれている。だが、その眼光は凄まじい強さで相手にとどめを刺そうとしているかのようだ。両氏の対立が険しい感情的対立に陥ってしまっていることを示す写真だった。
二人は4月13日の日曜日、米国ペンシルベニア州メサイア・カレッジで「信仰と正義(faith & justice)」をテーマに、聴衆を前にして、一人ずつCNNと米誌『ニューズウィーク』の記者の問いに答えたのだ。
「信仰と正義」についてがっぷり四つに組む大統領候補の考えに耳を傾ける米国人。彼らにとって、宗教が生活のなかにどれほど深く根づいているかを改めて痛感させる。先に登壇したクリントン氏は、ここぞとばかりにオバマ氏を攻めた。オバマ氏が非公開の資金集めの集会で「貧しい労働者が、銃に執着し、宗教にすがっている」と発言したとされた点を激しく非難したのだ。
22日に予備選挙が開かれるペンシルベニア州は、低所得の白人層が多い。宗教的にはカトリック教徒と保守的なエバンジェリカルが多数を占める。オバマ氏よりもクリントン氏が有利と見られる同州で勢いをつけ、圧勝出来れば、現在までオバマ氏優勢で推移してきた予備選挙の流れを、或いはクリントン優位に変えられるかもしれないのだ。攻撃はヒラリーの最も得意とする武器である。彼女は力強い声で言った。
「オバマ氏はエリート意識で凝り固まっている。庶民の感覚をわかっていない。有体にいえば尊大である」
対して、そのあとに登壇したオバマ氏は「私の発言を曲解し、歪めている」「私の発言は、私自身も大切にしている信仰を貶めるものではない」と弁明。貧しいときに神に縋るのは人間として当然だとも語った。そのうえでオバマ攻撃を続けるヒラリーに対して「クリントン氏は、本当のところ、わかっているはずだ。(にもかかわらず歪めて攻撃する。)恥を知れ!」と言い放った。
2月にはヒラリーもオバマ氏に「恥を知れ!」と言い放っている。彼女は諄々とした語りかけにおいても巧みだが、理路整然と舌鋒鋭く、時に声を荒らげての攻撃には並ではない迫力がある。そんな現在の彼女を髣髴とさせる学生時代のエピソードがある。
開学以来初の卒業演説
米国の名門女子大、ウェルズリーを卒業するときのスピーチである。同大では、それまで学生代表が卒業式で演説したことはなかった。にもかかわらず、ヒラリーが演説することになったのには、人種差別撤廃を訴えたマーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺があった。1968年4月、キング牧師が暗殺された。65年に北爆を開始して以来、リンドン・ジョンソン大統領の下で、米国はベトナム戦争への深入りを本格化させていた。そして68年6月、キング牧師に続いて、ロバート・ケネディも暗殺された。
ウェルズリーでのヒラリーの級友、E・D・アチソンが語っている。
「ベトナム戦争と暗殺によって、私たちの級友の多くが、ほとんど死に物狂いになって政治に関わるようになったと思います」
ウェルズリーの女子学生たちは、自分たちが警鐘を鳴らさなければならないと考えた。卒業式は単なる式典であってはならず、社会にメッセージを発信する場でなくてはならない、そのために学生代表の演説が必要だと考えた。数か月にわたる学長との交渉で、ついに、学生たちに演説の機会が与えられた。共和党リベラル派で黒人の上院議員、エドワード・ブルックの記念講演の後に、学生代表の演説という開学以来の名誉を担ったのはヒラリーだった。
彼女は何週間もかけて草稿を練った。だが当日、会場でブルック上院議員の演説に耳を傾けていたヒラリーは、練りに練った原稿を捨て去り、その場で、即興で、年長の政治家のスピーチに挑戦したのだ。
彼女は語った。「あまりにも長い間、私たちの指導者は、政治を可能性の手段として用いてきました。今求められているのは、不可能に見えることを可能にするための手段としてこそ、政治を用いることです」
人種差別、戦争、暗殺、憎しみの連鎖といった混乱のまっただ中で立ちすくみ続ける米国であってはならないというヒラリーの訴えは、「ウェルズリーの森を揺り動かした」。米国の政治の現状を鋭く批判した彼女の力強い言葉に、全員が起立し、7分間にわたる嵐のような喝采が贈られたと、政治ジャーナリストで多くの政治家の評伝を著してきたゲイル・シーヒーが書いている。これは彼女の級友の多くが、ヒラリーこそ、米国で初めての女性大統領になると、信じ始めた瞬間でもあった。
女性大統領になりたいなら
ではヒラリーは、実のところ宗教についてどう考えてきたのか。ペンシルベニアでの討論会で、彼女はローマ法王、ベネディクト16世の世界各地での厚生と貧困への取り組みを高く評価し、聴衆に語りかけた。
「子供のときから日々、神の存在を感じてきました」「その感覚が信じ難いほどにしっかりと続いてきたこと自体、神の恵みです」
神は夫の不貞に際しても自分を支えてくれたが、神の恩恵は苦しいときだけではなく、喜びのときにももたらされたと、彼女は語る。「人生の生き甲斐を実感させる高揚した気分になれるとき」や「森のなかの散歩、夕陽の沈むのを眺めているとき」にも、自分は神を身近に感じたというのだ。彼女はメソジストとしての自分を、信仰心の篤い有権者に上手にアピールした。だが、シーヒーの評伝を読むと、ヒラリーが心の依り処としているのは、宗教よりも生身の人間だと思われる。
彼女のロールモデルはフランクリン・ルーズベルト大統領夫人のエレノアだと言われる。フランクリンがエレノアに会ったとき、彼は「お気楽で口が軽く、軽薄なマザコン男」だったとシーヒーは書く。まるでビル・クリントンのイメージである。対するエレノアは真摯で倫理観が強く、理性的な女性だった。エレノアのイメージは、これまたヒラリーのそれに重なる。野望に燃えていたフランクリンは、セオドア・ルーズベルト大統領の姪であるエレノアこそが、人脈、資質において、自分を大統領に押し上げ、支えてくれる女性だと直感したのだ。事実、彼は大統領となり、エレノアは歴史に残る大統領夫人となった。
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