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2008.03.22 (土)

「失敗に終わった道路改革を放置する福田政権の愚」

『週刊ダイヤモンド』   2008年3月22日号

【特集】

自民党税制調査会長の津島雄二氏は3月10日、日本記者クラブで会見し、道路特定財源をめぐる与野党の対立に触れて「弾力的な対応をしてもいい」「なにがなんでも(10年間で59兆円を高速道路建設目的で確保する)という人は党内でも少数派だ」と語った。
自民党首脳部でさえも、さすがにためらうのが、現在の野放図な道路政策だ。昨年11月に国土交通省が制定した「道路の中期計画(素案)」は、総額65兆円でまず、9,342キロの高速道路を完成させ、次に総延長1万4,000キロまでの整備を目指すとした。政府・与党はコスト削減等を図り、事業費を五九兆円に圧縮するとしたが、基本的考えは、ひたすら、高速道路をつくり続けるというものだ。
他方国会では、もっぱら、ガソリンの暫定税率を維持するのか、道路特定財源を一般財源化するのかが議論の焦点となってきた。首長までもが道路財源をめぐって、地方に高速道路は不要だというのかなどと議論する。これは、途方もなくおかしなことである。
かつて小泉純一郎首相は道路特定財源の一般財源化を主張した。安倍晋三政権は同じ路線を引き継ぎ、具体的にガソリン税に言及した。これらすべて、道路公団改革は惨めな失敗に終わったけれども、道路改革は諦めてはいないという決意の政治公約だった。強調すべきは、小泉首相が道路特定財源の一般財源化を公言したのは、小泉改革の最大の象徴だった道路公団民営化の失敗を踏まえてのことだった点だ。
小泉首相の道路公団民営化の考えは、返済できない借金をこれ以上重ねて高速道路をつくり続けるのには慎重であるべきだという次元から始まっている。
といっても、高速道路をつくらないというのではない。必要欠くべからざる道路なら、それをいかにしてつくるのか。返済できない借金を増やし続ければ必ず破綻する。第二の国鉄にならないためにはどうすべきか。税金投入か。暫時、建設を凍結するのか。そもそも、真に必要な道路はいったいどこなのか。
こうしたことを議論して高速道路計画を決定すべきだというのが、当初の目的だった。道路特定財源や財政投融資からの借金を自明の前提として、コストも考えずに高速道路をつくり、天下り先としてのファミリー企業を潤すばかりでは許されないという考えだった。
この種の議論を道路公団が自ら行なうことができただろうか。無理である。道路族や道路官僚の牙城となっている国交省、そしてその下にある道路公団に、内部からの改革はとうてい期待できなかった。そこで、民営化案が浮上してきた。民営化すればおのずと経営の規律が働く。経営者は、野放図な経営をすれば責任を取らされる。会社はつぶれる。そうした危機を回避するために、民間企業なら真剣に問題に立ち向かうはずだと小泉首相は考えた。

新規道路が不採算でも気にならない構造

首相の下で、7人の委員で発足した道路関係四公団民営化推進委員会は、最後には猪瀬直樹氏と大宅映子氏が残った。改革の旗手として振る舞った猪瀬氏は、実際には真の民営化をつぶした張本人の一人だった。
彼らがつくり上げたのは「上下分離」の組織だった。かつての道路公団などは現在六つの道路会社となっており、六社の道路資産と債務を一手に引き受け、返済するのが日本高速道路保有・債務返済機構(以下、機構)である。高速道路をつくるのは六つの道路会社だ。だが、彼らがつくった道路は、完成時点で機構に移され、機構が保有する。道路建設にかかるすべての借金も、機構が引き受ける。資産も債務も経営権も、機構がすべて握るわけだ。道路会社には借金もない代わりに資産もほとんどない。彼らは機構から道路を借り受け、運用し、料金を徴収して会社の維持管理費用を払う。各会社は利益を上げてはならないとされているため、経営努力をするインセンティブはまったくない。
この上下分離の下で、道路会社は、せっせと道路をつくり続ける。たとえ採算が合わなくても、道路を完成させた途端に、道路も借金も機構が引き受けるのであるから、まったく気にならない。通常の民間企業なら、採算が合わない事業には金融機関は資金を貸さない。しかし、道路会社の背後には機構、つまり、国が控えている。借金を最後に引き受けるのが政府であれば、金融機関は安心して資金を貸す。こうして今、各地で高速道路の建設が進行中だ。
思い出すまでもなく、小泉改革で当時議論されたのは、具体的な整備計画が出来上がっていた9,342キロまでの高速道路のうち、残り約2,000キロをはたしてつくるべきか否か、そのかなりの部分を凍結あるいは中止すべきではないかということだった。だが、ふたを開けてみれば、すべてをつくることになっていた。今、道路官僚らは、9,342キロを超えて1万4,000キロまでの建設を中期計画に掲げるのだ。
そのための借金は、9,342キロまでに建設費だけで一二兆円、修理、維持、管理費などを入れれば20兆円に達すると見られている。1万4,000キロまでにはさらに30兆円の借金が必要といわれている。ざっと見て、50兆円の新たな債務を背負うのだ。加えて現在40兆円の債務がある。はたしてこれは返せる額なのか。民間企業なら、ここまで壮大な債務計画を策定するだろうか。

債務の全体像を隠す不可思議な仕組み

冬柴鐵三国土交通大臣は2月15日の衆議院予算委員会で「(平成)18年度、(道路公団民営化で生まれた高速道路会社)六社の合計で(収入は)2兆5,243億円」で、料金収入が借金の返済額を「444億円上回っている」「決して悲観的なものではない」と語り、返済は順調に進んでいると強調した。しかし、ここには民間企業なら絶対にありえない会計上のからくりがある。高速道路建設のために会社が調達した資金、つまり債務を「仕掛かり資産」として分類する方法だ。
仕掛かり資産は高速道路が完成して機構に移されるまで、会社側の会計で処理される。会社が高速道路建設を進めれば進めるほど、債務、つまり仕掛かり資産はふくれ上がる。現在計上されている仕掛かり資産は1兆7,982億円だが、現在工事中の高速道路が完成して機構に引き渡されるまで、それらは、仕掛かり資産ではあっても、機構の債務とは見なされない。つまり、高速道路が工事中である限り、債務の全体像はわからないのだ。こんな状況で、返済は順調だと言っても、意味はない。
もう一点、民間ではこれまた絶対にありえないごまかしが、猪瀬氏らが考案した民営化のなかにある。金利の想定である。40兆円の借金を、機構は45年間で返済するとしているが、その間金利は4%を超えないとの前提で組まれている。しかし、半世紀近くもの長きにわたって、金利が4%以下であり続けるという前提は、まともではない。金利が4%を超えれば、40兆円の債務返済は必ず、つまずく。さらなる50兆円の債務返済はなおさらだ。
破綻が明らかな現行計画に加えて、ガソリン暫定税率を維持し、道路特定財源を10年間、確保するという主張が、いかに国民に対して不誠実であることか。それを福田康夫首相は了承したのだ。道路族と道路官僚の意向を是とし、国民に大きなツケを回す道を選んだ福田首相の下で、道路改革は完全につぶされ、道路行政の暴走が加速されつつある。
道路行政を一挙に悪しき昔に引き戻したのが福田政権だ。今こそ、私たちは利権にまみれた自民党案を捨て、高速道路の無料化を含めて、大胆な政策を考えるべきだ。

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