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2026.04.16 (木)

「 中露イランを結ぶ異形の価値観 」

『週刊新潮』 2026年4月16日号
日本ルネッサンス 第1191回

歴史の捏造をはじめ、中国とロシアには幾つもの目に余る悪しき共通点がある。そのひとつが「子供の拉致」だ。

国連の独立国際調査委員会は今年3月10日、ウクライナを侵略中のロシアがこれまでに2万人のウクライナの子供を連れ去り、ロシアとベラルーシに違法に送ったと発表した。事件にプーチン大統領が「直接関与」しているのは「当初から明らか」で、氏の行為は人道に対する罪である「強制失踪」と、戦争犯罪である「不当な帰還遅延」にあたるとした。

ウクライナが取り戻した子供は約2000人にとどまり、ロシアの管理下にある子供たちは「ウクライナは将来なくなってしまう」などと言い聞かされる。動揺する子供たちにロシア国籍を与え、ロシア語で教育し、ロシア人として育てるのだ。

プーチン氏は、ロシア人とウクライナ人とベラルーシ人は元々同じ民族であるため、ウクライナ人がロシア人になることも自然の摂理に適うと、甚だしい歴史の捏造を披露している。だがこのような奇想天外の説を主張するのはプーチン氏だけではない。中国の習近平国家主席も同様だ。ロシアと中国、プーチン氏と習氏はまるで悪徳の双子である。

今年3月12日、第14期全国人民代表大会で中国は「民族団結進歩促進法」(民族団結法)を可決した。7月1日から施行される同法を、国家基本問題研究所の企画委員で静岡大学教授の楊海英氏は「ジェノサイド2・0の法制化」と形容した。

65か条にわたる同法は「序言」で「中華民族は各民族が凝集してできた多元一体の大家族」「民族団結は中国の生命線」だと謳っている。第一章で、中国では「各民族人民が共に主人として国を担う」「各民族は一律に平等」と明記した。第二章で、中国は「社会主義核心価値観を導きとする」「正しい国家観、歴史観、民族観、文化観、宗教観」を打ち立てると強調した。

明らかな嘘

これだけでも全国民をひとつの色に染め上げる意図が明らかだ。憲法をはじめ中国の文書を読む度に、このような言い方は本来慎むべきなのだが、中国共産党指導部は生まれながらの“詐欺師”ではないかとさえ思う。文字化された内容と現実の間に余りにも大きな開きがある。というより、現実は正反対なのに、文書に堂々とその正反対を書き、公式文書とするからだ。

一例が憲法だ。各民族の言語や文化、宗教を尊ぶという条項がある。チベットやウイグルの人々の多くの体験を私は取材してきた。彼らは中国共産党による宗教弾圧を死の危険を冒して訴える。教育が中国語だけで行われることも決死の覚悟で告発する。中国共産党はチベットやウイグルの文化を否定し、民族を抹殺すると言う。チベット人、ウイグル人、さらにモンゴル人への迫害の現実と、中国の憲法にある各民族の独自性の尊重という美しい文字の間には、何の接点もない。

3月に決定された民族団結法が謳う「各民族の一律平等」も中国社会の現実の中では影も形もない。漢民族の他民族に注ぐ視線は控え目に言っても侮蔑的だ。ここで強調しておきたいのは、中国人全員がそうだというわけではないことだ。良識ある中国人も多い。しかし、中国共産党に連なる人々については、先述の悪しき特質がついて回ると、私は感じている。

現在の共産党一党支配下での各民族の一律平等は、明らかな嘘である。国家通用言語文字なるものを全面的に普及させるというが、それは各民族独自の言葉を奪い、全員に中国語を強要することに他ならない。

楊氏が強調した。

「私の出身地である内モンゴル自治区では現在小学生がモンゴル語を学ぶのは週一回です。残り全ての授業は中国語です。中学生になると週一回のモンゴル語教育もなくなります。こうして子供は自分の民族の独自性、精神性を伝えてくれる母語を失っていくのです」

習氏はまた民族団結法で「各民族の団結融合の促進」(第23条)を定めた。これは各自治体において少数民族を積極的にコミュニティに取り込めという意味だ。中国で言われるところの「砂にまぶす」作戦である。

中国の人口約14億人の内、90%以上が漢民族だ。600万人のチベット人、600万人のモンゴル人、1162万人のウイグル人は14億人の中では小さな存在である。共産党政権は、これらの人々が住む地域に彼らの数倍の漢民族を移住させて、地域全体を乗っ取るのである。

ホルムズ海峡ビジネス

結婚については第40条でこう定めている。

「国家は公民の婚姻の自由を保護する。いかなる組織および個人も、民族身分、風俗習慣、宗教信仰などを理由として婚姻の自由に干渉してはならない」

楊氏が憤る。

「中国共産党が各民族に結婚の自由を保障しているなんて厚かましい主張です。たとえばウイグル人の若い男性は、労働力として内陸部に連れて行かれます。男性がいなくなった村に漢民族の男たちが移住してきます。豚肉を好む彼らは、豚肉を食べない年若いウイグルの女性たちと結婚するのです。無理矢理の結婚であるのは明らかです。ウイグル人の男性は結婚相手を失い、女性たちは漢人との間に子を生みます。ウイグル人口を減らし、漢人との子を増やす。漢人はこのような結婚を『漢人の血を野蛮人に注入する』と言います」

漢人の血で他民族の血を薄めるという考え方で、習氏の中国が行っていることは「ジェノサイド2・0」だと楊氏は言う。

今、私たちは米・イスラエル軍とイランの戦いに直面している。軍事的優勢を誇っても、非対称型の戦いを続けるイランに米国は苦戦中だ。わが国はこの戦いの全体像をとらえて判断する必要がある。

イランは事実上、ホルムズ海峡を支配しており、通航料をとって船舶を通過させ始めた。通航料は人民元か暗号通貨で支払われる。中国はイラン支配下のホルムズ海峡ビジネスで人民元の価値を高めつつある。

現在ドルの価値は石油によって担保されているが、その特権を中国が手にしようとしているのだ。ペトロダラーが・ペトロ人民元・になることは防がなければならない。イランのホルムズ海峡支配を受け入れられない理由のひとつだ。

また米国のシンクタンク「戦争研究所」は、イランのミサイル製造を支えるべく中国から大量の物資がイランに運びこまれていることを明らかにした。私たちとは全く異なる価値観で14億の民を管理する中国がイランの後ろ盾になっているのだ。異形の国、中国が支援するイランをこの戦争の勝者にしてはならないのは当然であろう。

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