「 政治家は世界情勢を忘れるな 」
『週刊新潮』 2017年4月6日号
日本ルネッサンス 第748回
ニュースはどこも森友学園一色だ。
私は6年前、同学園の幼稚園の父母を対象に家庭教育、食事、親子の対話、日本の歴史や戦後社会の変容などについて講演した。その学園の籠池泰典氏が証人喚問され、問題の核心が逆にぼやける中、3月27日の予算成立後も国会では他の重要課題を横において、森友学園問題に集中するそうだ。
しかし、世界では本当に激震が起きている。日本が森友学園問題にかまけている暇はあるのか。
トランプ米大統領は、3月16日、540億㌦(約6兆円)に上る大幅な軍事費増額を盛り込んだ予算教書を発表したが、各省の局長級人事さえ固めきれていない現在、手足となって働くスタッフが揃っていない。自身の交渉力を最大の「売り」にするトランプ氏だが、共和党議員さえ説得できず、3月24日には目玉政策の医療保険制度改革(オバマケア)改廃法案の撤回に追い込まれた。
トランプ政権の求心力低下が懸念される中で、北朝鮮軍は米韓が3月1日から行っている史上最大規模の合同軍事演習に反発して、「いかなる策動も先制攻撃で踏みつぶす」と宣言した。彼らは3月6日のミサイル4発発射の際、標的は在日米軍基地だとしており、現実に日本攻撃の可能性が眼前にある。急いでも間に合わないかもしれない危機対策を尻目に、森友学園問題にかまける国会とは一体、何なのか。
3月26日、フジテレビの番組では、民進党の玉木雄一郎氏が安倍昭恵氏を証人喚問せよと主張していた。共産党でも社民党でもない民進党の、将来を担う貴重な人材の一人である氏の発言に驚いた。森友学園問題の本質は国有地払い下げの手続き及び大幅値引きに正当な理由はあったのか、政治家の介入はあったのかに尽きる。昭恵夫人の喚問は筋違いだ。
まず、大幅値引きの妥当性についてだが、その判断に必要な財務省(近畿財務局)の書類が処分されている。法令上、違法ではないというものの、事業完了まで関連資料を保存しないのは、政府側の瑕疵といえるのではないか。書類保存について与野党は早急に新たな規則を打ち立てるべきだろう。
「口利きはなかった」
同時に、籠池氏を喚問した自民党の葉梨康弘議員の指摘に注目したい。氏の指摘では、伊丹空港周辺の国有地払い下げは森友学園、豊中市の公園及び給食センターの3か所だ。給食センターの場合、2015年に掘りおこしたら、アスベストを含むコンクリート片が埋まっていたため、撤去費用14億円が計上された。隣の公園の売却額は14億2000万円だったが、廃棄物処理費は14億円とされ、土地は豊中市に2000万円で払い下げられた。いずれも処理費は14億円規模だ。
そして森友学園である。埋設廃棄物等の運び出しと処理に8億2000万円が必要とされ、その分を引いて1億3000万円で売却された。
ここに至るプロセスが公正だったかどうかを示す財務局資料は前述のように処分済みだ。ならば、先の給食センターや公園、他の国有地の払い下げと比較すればよい。ちなみに国有地はごみ処理名目以外でも、「朝日新聞」をはじめ多くの新聞社にも公益名目で通常では考えられない廉価で払い下げられている。
次は政治家の介入の有無だ。証人喚問で籠池氏は、買い取り価格の値下げについて、「政治家による対応はなかった」(衆議院、自民党葉梨氏への回答)、「(国有地の)定期借地権料は結果として高止まりになっている。本来口利きがあれば低止まりになっていた。だから口利きはなかったと思う」(参議院、自民党西田昌司氏への回答)と述べている。後述する外国特派員協会での記者会見でも、「安倍首相は口利きはしていないでしょう」と語っている。
一方で籠池氏は昭恵夫人への忖度があったのではないかと推測するが、森友学園側の要請に昭恵夫人付職員は、「ご希望に沿うことはできない」と回答した。要請拒否は忖度はなかったということではないのか。
国会証言後に東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見に臨んだ籠池氏に、雑誌「エコノミスト」のマクニール記者が、安倍首相も夫人も100万円の寄付を否定する中で、籠池氏の主張を信じるべき理由は何かと質した。籠池氏は次のように答えた。
「私一人ではない。100万円の件は職員、先生方にもその時すぐに伝えた。嘘を言うわけではない」
一方、公開された安倍・籠池両夫人のメールで、昭恵夫人は100万円についても、森友学園が夫人に講演料として支払ったと主張する10万円についても、「記憶がない」と丁寧な言葉で繰り返し否定している。
辻褄が合わない
ニコニコ動画の記者は幼稚園のホームページに、「天皇陛下が訪問されたという、事実でないことが掲載されている」件を取り上げた。参院で、天皇陛下が籠池氏の幼稚園を訪問されたと園のホームページに掲載されていることを質されて、籠池氏は「知らなかった」と答えており、ニコ動の記者は、では誰が、畏れ多くも天皇陛下行幸に関する重大な虚偽を、別の行幸の際の写真までつけて、ホームページに載せたのかと問うたわけだ。籠池氏の答えだ。
「本というんですかね、雑誌の中で、その書き取りの中で、編集者が間違って書いておるということは今日の国会の、なんだったかな、なにかの関係で私は知ったことがあります」「申し訳ないですけどもホームページをすべてチェックしてるわけではございませんので」
だが、天皇陛下行幸の有無は余りにも重大な問題だ。だからこそ、記者は尚も質した。誰が虚偽の情報をホームページに載せたのかと。
「私どもの職員になるのか、ホームページを立ち上げたときの業者になるんだと思います」と籠池氏。
回答になっていないだろう。日本の新聞やテレビはなぜ、こうした質問ができないのか、と思う。
前述のフジテレビの番組で印象深い場面があった。籠池夫人のメールに民進党の辻元清美氏が幼稚園に「侵入しかけた」と書かれている点に言及されて、玉木氏が「党として事実に反すると発表した。間違ったことを言わないで下さい」と反論した場面だ。
辻元氏に関する籠池氏側の情報は事実ではないと断ずる玉木氏は、では、なぜ、昭恵夫人や安倍首相の否定を認めないのか、辻褄が合わない。
森友学園で残る疑惑は、籠池氏が刑事訴追を受ける可能性ありとして答えなかった3種類の見積りについてである。
この間にも国会は朝鮮半島と中国の動きに目配りを怠ってはならない。政治の責任は国民の命、領土領海領空を守ることだ。そのことを国会議員全員が肝に銘ずべきだ。