「 北朝鮮戦略で自衛に対する準備必要 それでも安倍首相に考えてほしい拉致問題 」
『週刊ダイヤモンド』 2017年3月18日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1174
マレーシアの国際空港では金正男氏をVXガスで殺害、ミサイル発射では事実上、標的は在日米軍基地だと発表してみせる。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の一連の決定は、危機が新たな段階に入ったことを示している。
金正恩氏にまともな判断が下せない理由は、余りに多くの側近を粛清し、残っているのは主に組織指導部の幹部だけだからだと言われている。組織指導部は国内の動き、反金正恩の動きを監視する組織である。国際情勢が多少でもわかる人材は、2013年12月の張成沢氏処刑をはじめ、一掃された。玄永哲人民武力部長(国防長官)は15年4月に、崔英建副首相は同年5月に、金勇進副首相は16年7月に処刑された。内、金副首相は金正恩氏臨席の場での座る姿勢が悪い、それは最高指導者への尊敬や忠誠が足りないからで、死に値するとされた。
常軌を逸した処刑命令を下す人物がいま、在日米軍基地への攻撃能力を手にしたと誇示しているのである。朝鮮問題専門家、西岡力氏はこう語る。
「金日成氏の時代から北朝鮮は在日米軍基地が諸悪の根源だと考えてきました。朝鮮戦争では韓国を奇襲してほぼ全土を席巻したとき、米軍が反撃を開始した。米軍は日本からやってきたのです。以来、北朝鮮の戦略の基本は在日米軍基地を使わせないことになりました。少なくとも1週間、米軍基地が機能しなければ、その間に韓国を取り尽くせると彼らは考えています」
日本にはすでに少なからぬ北朝鮮工作員が入っている。彼らは有事の際に在日米軍基地や日本のインフラを機能停止に追い込むよう訓練されていると思わなければならない。逆から見れば日本のすべきことは明らかだ。在日米軍基地が機能停止に陥らないように担保することであり、これが有事の際の集団的自衛権行使の基本である。
深刻な現実問題として、日本は北朝鮮の核及びミサイル攻撃にどう対処するのか。北朝鮮が複数のミサイルを日本に向けて発射した場合、日本は防げない可能性がある。彼らはノドンミサイルを200基、スカッド改良型ミサイルを300基有しており、複数のミサイルを同時に、正確に発射する能力を持った。加えてミサイルに搭載可能な小型の核も彼らは手にしている。
日本を守るには北朝鮮がミサイルを撃つ前に、向こうの基地を攻撃するしかない。国会でようやく敵基地攻撃能力についての議論が行われるようになった。それに対して野党側は、強い牽制の批判を声高に叫ぶ。しかし、日本国民を守るのが政治の責任ではないのか。北朝鮮が移動式ミサイル発射の能力も手にしている現在、事前に彼らの攻撃能力を潰すことはいよいよ困難になりつつある。それでも日本は自衛の軍事行動を可能にする法的、物理的準備を急がなければならない。
一方、横田早紀江さんが語る。
「子供たちを拉致するという絶対に許してはならない犯罪に、世界各国は一致協力して当たってほしい。安倍首相を信頼していますが、絶対に全員を取り戻すために、あらゆる手段を取ってほしい」
拉致被害者の家族で構成する家族会は2月22日、安倍晋三首相に北朝鮮に対する日本独自の制裁を解除してほしいと要請した。国際社会で絶対的な孤立に陥ったいま、唯一何らかの救いを求めることができるのは日本であると、北朝鮮側が見ている節がある。わずかでも歩み寄りができるのであれば、それを逃さないでほしいと家族の皆さんは切望する。日本は拉致問題ゆえに国際社会よりも厳しい制裁を科している。その日本独自の制裁の分を解除して拉致問題解決につなげてほしいというのである。
安倍首相にとっては極めて難しい判断だが、私も日本は拉致問題解決を第一に考えてほしいと思う。