「 見事だったバンドン会議の安倍演説 中国ではなく日本に吹く歴史の追い風 」
『週刊ダイヤモンド』 2015年5月2・9日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1082
歴史の追い風を受ける安倍晋三首相は強運の人だ。4月22日、アジア・アフリカ会議(バンドン会議)で首相が演説した。
「侵略または侵略の脅威、武力行使によって他国の領土保全や政治的独立を許さない」「国際紛争は平和的手段によって解決する」
このくだりはバンドン会議創設時の宣言だが、誰しも中国を思い出したことだろう。続けて首相はこう語った。
「バンドン会議で確認されたこの原則を、日本は、先の大戦の深い反省とともに、いかなるときでも守り抜く国であろう、と誓いました」
バンドン会議はそもそも、武力や脅威による侵略に立ち向かう精神から生まれた。それがいまや中国に向けられていることを、世界の人々の心に想起させ、日本が「深い反省」とともにバンドン精神を守ってきたことも明らかにした。見事なメッセージだ。
「アジア・アフリカはもはや、日本にとって『援助』の対象ではありません。成長のパートナーであります」のくだりも過去の反省とともに、参加国の胸に染みたはずだ。
それに対して中国は相変わらず歴史を突き付け、韓国も「植民地支配と侵略に対する謝罪と反省」が抜け落ちたことに「深い遺憾の意」を表した。
日本のテレビ局のコメンテーターたちも「植民地支配」「侵略」「反省」「謝罪」の4つのキーワードのうち、今回は「反省」しか言及していない、これでは米国上下両院合同会議での演説や70年談話は心配だなどと論じていた。
このような議論をする国家やメディアには、世界の大きな潮流が見えていないのではないか。安倍首相は昭和の日の4月29日、米国議会で過去よりも未来に向けて語り、日本が果たそうとしている役割について力強いメッセージを送るだろう。世界で進行中の地殻変動を考えれば、首相演説を米国も国際社会も大いに歓迎するはずだ。
南シナ海では次々に中国が島々を埋め立て、米国議会は米国自身の対中抑止力の低下を認めた。有力上院議員らは早急に南シナ海における軍事的対応の強化を訴えた。金融面ではアジアインフラ投資銀行(AIIB)に予想を超える国々が参加し、あたかも、日米が孤立したかのように見える。多くの人々が世界情勢の変化を生々しく実感しているはずだ。
だが、よく考えれば歴史の追い風は明らかに、中国ではなく、こちら側、とりわけ日本に吹いている。米国ではホワイトハウスが機能不全に陥っているが、立法府の議会も司法も健全だ。その立法府では上下両院共に共和党が多数を占める。
共和党主導の議会が日本にもっと自立してほしいと要望しているのは確かだ。視線を専ら過去に向けて謝るよりも、反省を生かして前に進め、どこまで日本が世界のために働けるか示してほしいという考えだ。
首相は不満足な形ながら安全保障法制で公明党と合意した。岡田・細野体制の民主党はこれに反対の姿勢を明らかにしたが、中国の野望と北朝鮮情勢を考えるとき、自公路線しかあるまい。それを米国も世界も歓迎している。
米国世論の六割が日本はもはや歴史で謝る必要はないと考え、中国と朝鮮半島を除けばアジアの国は日本の謝罪より、眼前の中国の脅威を排除することを求めている。彼らもまた、日本が中国とバランスを取り得るほど強くなってほしいと願っているのは、日米を交えた合同軍事訓練を東南アジア諸国が望んでいることからも明らかだ。
平和で安定した国際秩序に貢献するためにこそ、強い日本になろうと努力する安倍政権はいま圧倒的に歓迎されているのである。安保法制における合意と、その先の憲法改正にも歴史の追い風が吹いている。首相の運の強さを日本の立て直しにつなげていきたいものだ。