「 慰安婦問題めぐる議論で感じる変化し始めた世界の対日世論 」
『週刊ダイヤモンド』 2015年3月28日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1077
3月18日、東京・有楽町の外国特派員協会で、秦郁彦氏と大沼保昭氏が慰安婦問題に関して会見した。秦氏は日本大学教授で慰安婦問題に関する吉田清治氏のうそを暴いた近現代史の専門家である。大沼氏は元慰安婦への償いとして1995年に「アジア女性基金」の設立を呼び掛けた。慰安婦問題に関しては立場が異なる両氏の会見に、反日的論調を展開する外国特派員らも含め、約50人の記者が集った。
秦氏は米国の大手出版社、マグロウヒルの高校用歴史教科書の慰安婦の記述は事実に反するとして、日本人歴史学者19人による同社への訂正勧告を発表した。これは、米国の歴史学者19人がマグロウヒルを守る声明を発表したことに対抗するものだ。秦氏は次のように語った。
「問題の教科書の慰安婦に関する記述は26行です。この短い文中に明白な間違いが8カ所あり、学者としては考えられないほどお粗末な内容です」
訂正要求の幾つかを紹介する。まず、(1)「日本軍は強制的勧誘、徴集、迫害」によって、(2)「20万人に上る女性たち」を狩り集めたという点だ。
(1)について秦氏は以下のように主張した。米国の歴史家19人に連帯する日本の歴史家に吉見義明氏がいる。氏は対日歴史非難を繰り返す外国の学者や研究者に最も信頼されている日本人学者の1人だが、その吉見氏でさえ「朝鮮半島における強制連行の証拠はない」と述べている。氏がコロンビア大学から出版した英文の書、『慰安婦』の中でも、「慰安婦の内、最も多くが(朝鮮人のブローカーに)騙されて」慰安婦になったと記している。朝鮮半島では女性の両親が朝鮮人ブローカーに娘を売り、そこから慰安婦所に連れていったのが一般的であり、日本軍の強制連行はなかった。
(2)について、マグロウヒルの教科書は20万人の女性が毎日20~30人の軍人の相手をさせられたと書いている。事実なら毎日400万人から600万人の日本の軍人が慰安婦所に通ったことになる。当時日本陸軍の兵力は約100万であり、右の数字は荒唐無稽である。そのような状況では日本兵は戦闘する時間も、まともに生活する暇さえもないということになる。
秦氏は実際の慰安婦の数は全体で約2万人、日本人が最も多く8000人、朝鮮人は4000人、中国人その他が8000人だと説明した。
教科書には、「20万人の女性たちの大半が殺害された」とあるが、そのような大虐殺があったなら、東京裁判をはじめ各地の裁判で必ず裁かれているはずだが、そのような事例はない。根拠のないことを教科書に書くのは極めて不適切だと、秦氏は指摘した。
氏は、慰安婦は兵士への天皇からの贈り物だとの記述は、「教科書としては国家元首に対するあまりに非礼な表現だ」と厳しく指摘し、話を終えた。そのとき拍手が起きた。私も拍手をしたが、最前列の女性外国特派員が私を振り返り凄まじい形相でにらんだ。彼女はきっといつもの決め付けで「強制連行、大量虐殺」と書くのであろう。
秦氏の次に語った大沼氏は、日本政府の慰安婦への対処は不十分だと批判しながらも、慰安婦問題で最も責任があるのは「英語を母国語とする欧米のメディア、とりわけニューヨーク・タイムズ、フォックステレビ、CNNだ」と述べた。彼らは事実を報じず、思い込みで虚偽の情報を拡散させた。韓国メディアの責任も重く、韓国メディアの成熟なしには日韓関係の改善は期待できないと厳しく指摘した。
氏は年来、日本の責任を一方的に追及してきたといってよい人物だ。それだけに、私は氏の指摘を意外なものとして受け止めた。そして感ずるのは、世界の対日世論は依然として厳しいが、それでも少しずつ、良い方向への変化が起きているということだ。