「 言論弾圧の脅迫には強く抗議でも許されない朝日と元記者の責任逃れ 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年10月18日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1055
「朝日新聞」が吉田清治氏の主張した慰安婦の強制連行は虚偽だったと認めて以降、多くの動きが生じている。
その中で、慰安婦と挺身隊を同一のものとして報道した植村隆元記者の勤務する北星学園大学に、「大学を爆破する」「学生に危害を及ぼす」などの脅迫文が届いたと、大学側が9月30日に発表した。
これは言論の自由を社会の基本とする国では許されない行為だ。私は朝日、植村氏双方の責任を厳しく問う者ではあるが、大学爆破などの脅迫行為は断じて受け入れることはできない。植村氏が10月7日の朝日の紙面で「家族や職場まで攻撃するのは卑劣だ」と訴えたのはその通りである。言論には言論をもって対するべきで、その矩(のり)を守って初めて民主主義が機能することを肝に銘じたい。
その上で、この機会に再度強調したいのは言論機関としての朝日と言論人としての植村氏の責任は計り知れなく重く、両者はまだおのおのの責任を全く果たしていないということだ。
朝日は、なぜ、一連の虚偽報道を繰り返し、しかも32年間も虚偽を認めなかったのか。記事取り消しの8月5日の検証記事は到底、この問いに応える内容ではなかった。真摯な言論機関たらんとするのであれば、朝日はもっとまともな説明をすべきだ。
国際社会に広がった日本に対する誤解を解くためにも、強制連行はうそだったという正確な情報を、朝日が率先して発信するのが正しい責任の取り方というものだ。
植村氏の責任も極めて大きい。前述の7日の紙面で氏は「記事を捏造した事実は断じてない」とし、今後、手記を発表するそうだ。それにしても、朝日の記事取り消しから2カ月余り、この間、氏は一体何をしていたのか。
氏が1991年8月11日の紙面に書いた記事は「思い出すと今も涙」という見出しだった。「女子挺身隊の名で戦場に連行され」「日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』」と書かれている。
記事の中で女性は匿名にされているが、同じ女性が3日後の8月14日にソウルで内外記者団を前に会見した。彼女は金学順という実名を名乗り、家が貧しかったため実の母親にキーセンに売られたと語っている。どこにも女子挺身隊など出てこない。
植村氏の記事のわずか3日後に内外に明らかにされた「母親に売られた」という事実を、なぜ、植村氏はその後、ずっと書かなかったのか。なぜ、女子挺身隊として日本軍に連行されたという重大な虚偽を、ずっと、訂正しなかったのか。
朝日は当時、挺身隊と慰安婦は混同されていたと釈明したが、年配の人なら、およそ全員が両者は別物と知っていたはずだ。植村氏は金氏の言葉を裏取りもせずに報じたのか。その場合、記者として、謝罪すべきだ。
一方、金氏はその後もいろいろな機会に発言した。その中で、私の知る限り、一度も、自分は挺身隊だったとは語っていない。従って、なぜ植村氏が挺身隊の名の下で彼女が連行されたと書いたのかと、疑問を抱くのは当然である。彼女は植村氏にだけ挺身隊だったと言ったのか。しかし、他の多くの場面で彼女は一度も挺身隊だと言っていないことから考えて、この可能性は非常に低いと思わざるを得ない。
ならば捏造かと考えるのは当然である。植村氏が捏造ではないと言うのなら、証拠となるテープを出せばよい。そうでもしない限り、捏造だと言われても仕方がない。こうしたことを含めて、植村氏は1日も早く、きちんと説明することだ。
植村氏に降り掛かった言論弾圧の脅迫について、強く抗議する一方で、朝日と植村氏が説明責任を逃れ続けていることも断じて許されない。