「 朝日が支えた『河野談話』を潰せ 」
『週刊新潮』 2014年9月11日号
日本ルネッサンス 第621回
『オックスフォード・ハンドブック 国際法の歴史』(オックスフォード大学出版会)最新版の記述に、福井県立大学教授で「救う会」の副会長、島田洋一氏は驚愕した。
「『奴隷売買者(slavers)』の項に近現代の代表例として日本軍の慰安所が記述されていたのです。オックスフォードの概説書は、国際法を学ぶ世界の研究者が参照する権威ある書物です。そこに慰安婦が現代の奴隷売買の唯一の例として記された。しかも、『当時奴隷制を禁じる慣習法はなかった』という日本政府の抗弁が卑怯な言い逃れだとばかりに脚注に書かれています」と島田氏。
右の政府弁明は98年6月、国連人権委員会の「現代的形態の奴隷制」最終報告書、通称マクドゥーガル報告に際して行われたものだった。
奴隷制は行動の自由も金銭的自由も与えず人間を物として扱う制度であり、慰安婦は断じてそれに該当しない。その点を曖昧にして、奴隷制を禁じる法律はなかったなどという的外れの説明は有害無益である。
国益をかけて真実を主張する勇気もないこの無責任な弁明は、外務省と内閣府の男女共同参画局の共同作業から生まれたと考えられる。先の公務員人事で、男女共同参画局長に、武川恵子氏が就任した。一見地味に見える局だが、国際社会に発信するメッセージの作成に極めて重要な役割を果たす部署なのである。武川局長と外務省の動きを、歴史の事実と日本の名誉に関わる問題として注視し続けなければならないゆえんである。
国際社会に広がった慰安婦の「強制連行と酷い扱い」での対日非難は、朝日が今日まで強力に支え続ける河野談話が基になっている。にも拘わらず、国内にはまだ、河野談話は見直すべきではないという考え方が少なくない。そう主張する人々には、国際社会で日本がどのように非難されているかをまず知ってほしい。
荒唐無稽な話
96年4月、国連人権委員会で採択されたクマラスワミ報告は河野談話を引用し、慰安婦を「日本軍の性奴隷制度」と断じ、これまた朝日が喧伝した吉田清治氏の体験談も多用している。共に信用出来ない河野、吉田両氏の談話と言説に依拠するクマラスワミ報告の生々しい記述は、何も知らない国際社会の善意の第三者を日本への憤怒の情に駆り立てた。
そこには「連行された村の少女たちは非常に若く、14歳から18歳が大半だった」、慰安婦の個室の多くは「広さ91センチ×152センチ強」で「1日60人から70人の相手をさせられた」、「軍医は兵隊が女性たちに加えたタバコの火傷、銃剣の刺し傷、骨折などはほとんど診なかった」などと書かれている。
朝鮮人の少女が抗議すると、「中隊長ヤマモト」が「剣で打て!」と命令し、「私たちの目の前で彼女を裸にし手足を縛り、釘の突き出た板の上に転がし、釘が彼女の血や肉片で覆われるまでやめなかった。最後に彼女の首を切り落とした」と、元慰安婦チョン・オクスン氏が証言している。チョン氏はさらにもう一人のヤマモトもこう言ったと主張する。
「お前ら全員を殺すのは、犬を殺すより簡単だ」「朝鮮人女が泣いているのは食べていないからだ。この人間の肉を煮て食わせてやれ」
性病の拡散防止のため、「殺菌消毒」として「少女の局部に熱した鉄の棒を突っ込んだ」、揚げ句、日本軍は「この守備隊にいた少女の半数以上を殺害」したとも語っている。
こんな荒唐無稽な話は、日本人は誰も信じない。この種の行状は日本民族のそれではない。右の証言がチョン氏の体験に基づくとしたら、それは朝鮮民族や、陸続きで幾百年も朝鮮を支配した中華文化の反映ではあり得ても、断じて、日本人の行いではない。
古来、日本人はどんな罪人に対しても、朝鮮民族や漢民族とは異なり、これ程野蛮な責め苦を与えたことはない。英国人女性旅行作家、イザベラ・バードは『コリアと近隣諸国』で朝鮮の刑罰を「残酷な鞭打ち、罪人は死ぬまで鞭打たれる」と描写した。朝鮮に長期間滞在し、李王朝の高宗と親交のあった米国人宣教師、H・B・ハルバートは「(鞭打ち刑には)巨大な櫂状の棒が使われ、猛烈な勢いで振りおろされて囚人の脚の骨を砕く」と書いた。
朝鮮統治において日本人は朝鮮人の刑罰の凄惨さに驚き、罪人処罰の方法を緩和し、朝鮮統治開始から10年後の1920年4月には鞭打ち刑を廃止した。だが、国連報告は、日本人には考えられないおぞましいばかりの刑罰を、日本軍が子供のような少女たちに与えたと決めつけているのだ。この恥辱に私たちは耐えられるのか。
だが、これとてクマラスワミ報告の一部にすぎず、同報告は英語圏の対日非難の序章にすぎない。
諸悪の根源
先に触れたマクドゥーガル報告は、クマラスワミ報告の2年後に出された。同報告は慰安所は「レイプ・センター」で、「奴隷にされた女性たちの多くは11歳から20歳」「毎日強制的にレイプ」「厳しい肉体的虐待」で「生き延びた女性はわずか25%」と明記、これは日本の「人道に対する罪」だと断定し、責任者を特定して訴追せよ、国連人権高等弁務官が乗り出し、他国も協力し、訴追の立法化を進めよと勧告した。
朝日が吉田証言に頬かぶりを続けた32年間に、河野談話を確固たる拠り所として、最悪の状況が生まれたのだ。中国と韓国が手を結び、アメリカでの対日歴史戦が加速した。07年に米下院が採択した対日非難決議にも河野談話が引用された。オランダ、カナダ、EUの非難決議も同様だった。そしていま、ワシントンの保守系シンクタンク、ヘリテージ財団の上級研究員でさえ、「日本軍による女性の強制連行は事実」と主張する。
8月29日には、サンフランシスコの中華街に、中国系住民らによって新たに慰安婦像を設立する準備が進行中であることが明らかになった。対日歴史戦で、韓国系団体を統合して中国が前面に躍り出たのだ。
同じ日、国連人種差別撤廃委員会も慰安婦の人権侵害問題で最終見解を発表し、日本政府に元慰安婦と家族に誠実な謝罪と十分な補償をし、責任者を法的に追及せよと求めた。この最終見解を軽視して、またもや好い加減な弁明をしてはならない。その場合、日本は国連によって未来永劫、法的責任を問われることになる。外務省と男女共同参画局は、その恐ろしい程の深刻さを認識せよ。
河野談話という日本政府の正式談話を取り消さない限り、私たちはありとあらゆる国際社会の非難を浴び続ける。正確な事実を発信して、たとえ幾年かかっても河野談話を潰さなければならない。当然、諸悪の根源である河野談話を支え続けた朝日も許されない。