「 金正日体制をまた一歩崩壊に近づけた中国による北朝鮮聖地での軍事訓練 」
『週刊ダイヤモンド』 2006年12月16日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 670
朝鮮半島問題の専門誌「現代コリア」(2007年1・2月号)の佐藤勝巳、花房征夫両氏の対談がおもしろい。
佐藤氏は現代コリア研究所所長、花房氏は東北アジア資料センター代表である。花房氏は過去3年間、毎年、中朝国境2,000キロメートルを取材してきた。現場に立てば、中朝関係が「史上最悪の状況」であること、中国が北朝鮮の核の排除に本気で乗り出したことが見えてくると指摘する。
現在、中朝国境地帯に中国の人民解放軍が展開中であることは小欄でも報じてきたが、その主体は中国人民解放軍の東北瀋陽軍区だという。同軍区は兵力数十万人規模と伝えられるが、今年7月下旬、ミサイル部隊、戦車師団などの中核部隊を白頭山の麓に集結させ、夜間演習を強行した。
白頭山は金日成、金正日二代の“偉大なる指導者”による“偉大なる革命”の根拠地とされ、北朝鮮にとっては至高の聖地である。
一方、中国は、かつての高句麗王朝は中国の一地方政府だったとの主張を続ける。高句麗と北朝鮮の領土はほぼ一致するため、事実上、北朝鮮は中国領だと言っているのだ。そして今、北朝鮮にとっての聖地で軍事演習を展開するのだ。金正日政権への強烈な圧力にほかならない。
花房氏は、右の軍事演習には、瀋陽軍区の通信、工兵、偵察、化学兵器、電子、気象など七専門部隊が参加したと指摘する。七月下旬といえば、同月5日の北朝鮮のミサイル実験から約2週間後である。中国軍の動きは、次に考えられる核実験を牽制したものと見るべきだろう。
9月に入って中国の軍事訓練はさらに拡大された。5日から、瀋陽軍区の精鋭師団の3,000人と、北京軍区の3,000人を合流させて、内モンゴルまで1,000キロメートルの大歩兵訓練を決行したのだ。行軍途上で仮想の核戦争、化学兵器戦の訓練を繰り返したと、軍機関紙「解放日報」が報じた。
さらに注目すべきは、9月下旬の陸、海、空、三軍合同の渡海作戦が黄海および渤海湾で行なわれたことだ。かつて中国は高句麗を攻めるのにてこずった。隋は3度にわたる高句麗攻めで自らが滅び、その後の唐は知恵を絞り、黄海を渡って攻めてようやく成功した。中国人民解放軍の黄海での渡海訓練は、古代史の教訓を生かした北朝鮮攻略策といえるであろう。
対する北朝鮮は10月8日、核実験を断行。中国も軍事訓練をエスカレートさせた。10月6~13日の一週間あまり、山東省を管轄する済南軍区が「確山06作戦」を行ったのだ。作戦を指揮したのは中国人民解放軍総参謀部。胡錦濤国家主席の事実上の直接指揮による作戦だったのだ。山東半島と平壌はわずか200キロメートル。明らかに北朝鮮有事に備えたこの訓練に金正日総書記は10月29日、ミサイル発射で応えた。黄海訓練場での地対空、空対空ミサイル五発の発射である。
10月19日に中国の唐家迺㍾走ア委員が次官2人を伴って平壌を訪れ、金総書記と会談したが、そのときに公開された映像を憶えている方はおられるだろうか。中国側3人と北朝鮮側3人が向かい合って座った椅子とテーブルは、庶民の家のテーブルといってよいほどのもので、首脳会談用としては信じがたいほど粗末だった。豪華な部屋での会談をひけらかす北朝鮮の通常の型から、異常なまでにはずれていた。これは金総書記の中国への冷遇、反発、拒否を文字どおり絵に仕立てて国際社会に見せつけたのだ。
中国の経済植民地といわれるほど中国に依存するにもかかわらず、金総書記がこれほど強気に出るのは、彼が北朝鮮国内の反中独自路線派の意見を採用し始めた結果であろう。その選択は必然的に中朝対立を深め、金正日体制の崩壊にまた一歩近づくものだ。この緊急事態への備えは日本にあるか。
胡錦濤政権の「海軍増強」宣言~防衛白書は見直すべきではないか~
胡錦濤主席、海軍増強の必要性を強調 (朝鮮日報より引用)
中国の胡錦濤主席は27日、「中国は海洋大国だ。国家の主権と安全を守り、海洋権益を保護する…
トラックバック by クルトの葉隠な日々 — 2006年12月30日 15:52