「 中国の“蛮行”に打ち出されたオフショアコントロールの効果 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年7月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1042
南シナ海における中国の蛮行の意味を米国の保守系シンクタンク、AEIのアジア研究部長を務めるダン・ブルメンソール氏は、他国の紛争にはもう関わらない内向き姿勢を強めるオバマ大統領を中国が軽蔑(contempt)し始めた結果だと書いた。
何よりも現実の力を信奉する中国共産党政権にとって、力を行使する意思のない米国は軽蔑すべき存在となり、その結果、4月末のオバマ大統領の日本、韓国、マレーシア、フィリピン歴訪直後に、中国が「戦略的領土」あるいは「動く領土」と呼ぶ中国国営海洋石油総公司(CNOOC)所有の巨大な石油掘削装置を西沙諸島海域に移動し、軍艦七隻を含む八〇隻の艦船を随伴させたというのだ。
周知のように、中国はベトナムの抗議を無視し、力ずくで石油掘削を続行すると同時に、南に下った南沙諸島ではフィリピン領有のジョンソン南礁(フィリピン名、マビニ礁)を埋め立て、滑走路と思われる施設の建設工事を推し進めている。
これに対してオバマ大統領は米比新軍事協定を結んだが、いまだ有効な手立ては講じ得ていない。南シナ海で中国の侵略がやまないために、ベトナム、マレーシア、フィリピンのみならず、これまで中立姿勢を保ってきたインドネシアも危機感を強めている。インドネシアは彼らが支配しているナトゥナ諸島海域を中国が自国領だと主張し始めたことに反発しているのだ。
ホワイトハウスの対中国非難が言葉上の非難に限られるのに対して、国防総省は「オフショア・コントロール」(Offshore Control)という概念を打ち出した。これは基本的に対中経済消耗戦である。中国が必要とするエネルギー資源をはじめ、さまざまな資源の輸入ルート、つまりシーレーンを、太平洋、インド洋にまたがる長距離の範囲で封鎖し、中国の輸出入を遮断するというものだ。
海洋政策研究財団の「海洋情報特報」(6月30日)はこれを具体的に次のように説明する。第一列島線(日本列島、台湾、フィリピンを結ぶ線)の大陸側海域を排他的海域と宣言し、攻撃型潜水艦、機雷、限定的な航空兵力を投入する。第一列島線の太平洋側の海域でも優勢を確保し、中国向け艦船の通航を拒否する。さらにマラッカ海峡、ロンボク海峡、スンダ海峡、オーストラリアの南北のルートを閉ざすことによって、中国への海上輸送を遮断するという構想である。
この戦略は、従来の戦争におけるような勝利か敗北かという決定的な結果を求めるのではなく、効果的な目的達成を目標とする。紛争を収拾した方が得であり、賢明だと中国に判断させ、紛争・戦争を終わらせるよう仕向けるものだ。
6月30日に発表された海洋財団の秋元一峰氏らの南シナ海有事の場合の経済的損失の分析は、最大の被害国は、紛争を起こした中国であるというものだった。彼らの輸入原油の90%は海上輸送により、しかも、港は全て南シナ海と東シナ海に面している。
仮に米国がオフショアコントロール戦略を実行する場合、中国は、インド洋西太平洋ルートを使えなくなる。その場合、パナマ運河、マゼラン海峡、または北極海ルートに回らなければならないが、これらの海域は地政学上、米国のコントロールが有効な地域であり、中国の輸送ルートはここでも遮断される。
こう考えると、中国の力による作戦は、ブーメランのように対中攻略戦に転位する可能性が高い。そのような状況をつくり、中国を思いとどまらせるのがオフショアコントロール戦略である。日本がようやく踏み切る集団的自衛権の行使は、有効な抑止力となって中国けん制の戦略に貢献する第一歩となるだろう。