「 偵察機の極秘撮影にサイバー攻撃 朝鮮半島は戦争状態にある 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年4月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1030
3月24日、韓国の首都ソウル北西にある京畿道坡州(キョンギドパジュ)市で三角形の翼を持つ無人航空機が墜落しているのを民間人が発見した。翼は幅1.93メートル、長さ1.43メートル、重さ約15キログラムだった。
1週間後、今度は韓国と北朝鮮の海の境界線である北方限界線(NLL)近くの白翎島(ペクニヨンド)に墜落した無人航空機が発見された。サイズ、重量共に24日の無人機に酷似していた。
韓国側の調査によると2機のエンジンはいずれも日本製、部品の大部分は中国製、ニコンのカメラD800を搭載し、飛行経路や着陸地点など詳細な行動がコンピュータにプログラムされていた。両機は発射台から打ち上げ、落下傘で回収する軍用無人偵察機(UVA)だった。両機は中国産UVAの改良機だった。
「統一日報」論説主幹の洪熒(ホンヒョン)氏が指摘した。
「中国と北朝鮮は、軍および情報・工作分野で明確につながっています。北朝鮮の国家保衛部が中国にまで出かけて脱北者を逮捕するのを、中国は容認、協力しています。中朝の密接な関係はUVAに関しても同様です」
北朝鮮を含む朝鮮半島問題は、中国問題であることを忘れてはならないのだ。氏は、韓国にとってのUVA事件の衝撃を語った。
「ソウル北西で発見された機体のカメラには、大統領府の青瓦台をはじめ市内重要施設の映像が190枚残っていました。撮影開始は当日午前8時、墜落までの飛行時間は約100分、北への帰還途中で墜落したとみられます。
無人機は青瓦台撮影時に高度を300メートルに下げていました。飛行高度としては極めて低い。北朝鮮側から出発して、大統領府上空に至る前も、レーダーの捕捉を避けるために超低空を飛んだと思われます。ソウル到達までの20分間、韓国軍はやすやすと侵入を許したのみならず、大統領府の上を超低空飛行するUVAに全く気づかなかった。痛恨の極みでしょう」
31日に白翎島(ペクニヨンド)で回収された無人機にも驚くべき映像が残されていた。
ちなみに31日、北朝鮮は午後0時15分から約3時間、NLL付近で対南砲撃訓練を行った。約500発中約100発が韓国側水域に落下、韓国軍が約300発を撃ち返した。
その韓国軍部隊の動きがUVAのカメラで逐一撮影されていたのだ。緊急時の展開は機密中の機密である。戦いで相手方の動きがわかれば、半分以上、勝利したといえる。北朝鮮が狙っていたのはまさにその軍事情報だった可能性がある。少なくとも、韓国に向けた砲撃訓練を、単に金正恩第一書記の無謀さの表現と捉えるのには慎重であったほうがよい。
洪氏は、北朝鮮の一連の戦略の背後に金英徹朝鮮人民軍偵察総局長がいると指摘する。
「偵察総局は対南工作やテロ攻撃を担う組織です。金英徹は同局創設の2009年以来5年間、総局長を務めています。金正日時代から一貫して対南工作を指揮する強硬派で、正恩体制の強硬路線も彼の指揮とみてよいでしょう」
北朝鮮の強硬路線はサイバー分野でも顕著だ。サイバー攻撃において北朝鮮には米CIAと戦う能力があるといわれる。理由の一つが、両国の非対称性だ。北朝鮮はコンピュータ社会ではないだけにサイバー攻撃を受けてもほとんどダメージは生じない。逆に北朝鮮は日米両国をはじめ世界の先進国にサイバー攻撃で大きな痛手を与えることができる。非対称構造の中で北朝鮮はサイバーを対外攻撃の武器として磨いてきた。いま韓国に対してはほぼ日常的にサイバー攻撃が行われている。
UVAといいサイバー攻撃といい、朝鮮半島はまさに「戦争の真っただ中」だ。朴槿恵大統領は韓国の生き残りのために、日本非難をやめて日本の協力をこそ請わなければならない。