「 韓国の朴大統領の統治が日本にとって危機である理由 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年5月18日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 985
韓国の朴槿恵大統領が初の外遊で米国を訪れ、7日、オバマ大統領と会談した。彼女は首脳会談の席で、オバマ大統領が北朝鮮の核問題で日米韓の緊密な連携が必要だと語ったのに対し、「北東アジア地域の平和のためには日本が正しい歴史認識を持つべきだ」と応じた。首脳会談の席で他国の歴史認識を批判するという異例の姿勢は、首脳会談に続く共同記者会見でも明らかになった。
オバマ大統領が「米国のやるべきこととして、韓国および日本と引き続き緊密に協力していく」と述べたのに対して行われた朴大統領の発言は、日米韓の協力を困難にするだけでなく、韓国の未来をも危うくするものだった。
朴大統領はまず、北朝鮮に関して、「韓米の強力な協力」を第一に挙げ、日本に言及せず、日本との協力に事実上、背を向けた。また、「六カ国協議の他のメンバー国および国際社会の国々」の力によって、北朝鮮に国連決議を守らせていくとも語った。六カ国協議の主役は中国である。「国際社会」つまり国連安全保障理事会の、中国は常任理事国でもある。朴大統領の発言は、日本よりも中国への期待を強くにじませるものだ。
しかし、朴大統領には、一体中国が北朝鮮関連でどんな役割を果たしたか、よく考えてほしい。長年、中国は六カ国協議で北朝鮮に影響力を及ぼすことを期待されてきたが、結論からいえば、何もできずにきた。北朝鮮はいまやミサイルを有し、三回も核実験を行った。中国の対北影響力はなきに等しく、また中国には北朝鮮を追い詰める気もないのである。その中国の協力を、日本の協力よりも重視して何の意味があるのだろうか。
もう一点、気になったのは「戦時作戦統制権」についての発言である。これは、朝鮮半島有事の際、米韓両軍が共同で対処し、作戦指揮権は米国が持つという取り決めである。1950年から3年間続いた朝鮮戦争で、米国は5万人余の犠牲者を出し韓国を守った。逆にいえば米国なしには朝鮮半島は北朝鮮に席巻されていたはずだ。したがって北朝鮮にとっては韓国からの米軍排除が重要な戦略になる。
現在も北朝鮮は韓国を支配下に置く形での朝鮮半島統一を狙う。そのためには戦時作戦統制権を米国から奪い、韓国を米国からできるだけ切り離すことが必要だ。この構図の中で、盧武鉉大統領が米国と取り決めたのが、2015年までに戦時作戦統制権を韓国に戻すということだった。
金正日総書記に忠誠を誓った盧武鉉大統領の、韓国に対する裏切りである同取り決めに対しては韓国の保守勢力の批判が強い。北朝鮮有事はいつ起きても不思議ではなく、中国が介入し、北朝鮮を支配下に置こうとすると思わなければならないいま、韓国は盧武鉉時代の取り決めを御破算にして、米軍の駐留と軍事的コミットメントを確実にすべきだと考えるのが保守の人々だ。戦時作戦統制権についての朴大統領の発言が注目されていたのだ。
説明が長くなったが、この重要案件で朴大統領はこう語った。
「作戦権返還も韓米連合防衛力を強化する方向で準備し、履行されるべきであるという点で(オバマ大統領と)意見が一致しました」
盧武鉉大統領の負の遺産を朴大統領はいともやすやすと引き継いだわけだ。これによって予想されるのは、(1)米韓連合軍司令部の解体、(2)北朝鮮の核およびミサイルによる恫喝力の拡大、(3)韓国内の北朝鮮勢力の強大化である。
この先に南北朝鮮の軍事的ぶつかり合い、第二の朝鮮戦争の危険性も見えてくる。朝鮮半島の危機は高まり続けるだろう。反日の言葉もさることながら、中国への偏りや戦時作戦統制権に関する発言を聞けば、朴大統領の5年間の統治が非常に不安に思える。日本にとっての危機でもある。