「 名護市長選挙は国防で問え 」
『週刊新潮』 '06年1月26日号
日本ルネッサンス 第199回
去る15日に名護市市長選挙が告示された。投票は22日である。争点は米軍普天間飛行場の新たな移転先とされる名護市内の辺野古崎に、米軍飛行場を作るか否かである。この問題は単に名護市の将来のみならず、日本全体の安全保障に大きな影響を及ぼす。一地方自治体の首長選挙でありながら、日本国の命運に関わる選挙と言ってよい。
立候補した三氏は自民、公明両党の推す島袋吉和氏(59)、民主、共産、社民、沖縄大衆など各党が推す我喜屋宗弘氏(59)、飛行場反対の座り込みをしてきた大城敬人氏(65)である。
島袋氏は岸本建男現市長の路線を継ぐ人物で、修正次第では辺野古に米軍飛行場を移してもよいとの姿勢だ。他方、あとの二氏は新たな米軍基地は受け入れず、普天間の代替飛行場は県外、国外に移すべきだとの考えだ。
地元の人々は、どのような基準で注目の市長選に臨むのだろうか。沖縄の二大紙、『琉球新報』と『沖縄タイムス』は、米軍施設の名護市移設か否かについて、政府による見返り振興策等については頻繁に報道するが、日本全体、とりわけ沖縄周辺海域の安全保障に関係づけての議論は余りに少ない。
中国がどれ程の軍事力を同海域に集中させているかを考えれば、名護市長選挙の焦点は何よりもまず安全保障上の問題となろう。普天間飛行場も含めて、沖縄のどの地域、海域に効果的に軍事施設を配するか、その中で名護市の役割をどう規定するかという論点がなければならない。在沖縄米軍規模の縮小はその議論の中でこそ追求すべきことだ。
1月13日、『朝日新聞』が「中国軍に悲願の空母か」という大きな記事を掲載した。旧ソ連崩壊後に中国が入手した未完の空母「ワリヤーク」がいま、中国海軍の空母第一号として活用され始めたのではないかとの観測記事である。
中国の狙いは日本併合
中国研究の第一人者、平松茂雄氏は、近い将来の中国の空母活用はないと分析したうえで指摘した。
「中国は74年に南シナ海の西沙諸島をベトナムから奪いましたが、当時から空母保有の強い意欲を見せてきました。核兵器保有は建国直後の1950年代早々に決意し、以来一貫して取り組んできました。
中国の当面の最重要目標は台湾併合とその周辺海域の領有です。中国は今後、10年或いは20年で、確実に台湾を奪うでしょう。その後に彼らは第一列島線の外に出る。台湾に狙いを定めた中国の戦略は、事実上、日本併合への道でもあるのです」
第一列島線とは、日本列島の太平洋側から琉球諸島、台湾、フィリピンまで全てを含む形で引かれた線を指す。その中に含まれた全領土及び海域に中国の支配が及ぶべきだとするのが中国の国家戦略である。
中国が台湾を併合すれば、日本は石油をはじめとする国家の死命を制する戦略物資の輸送をはじめ深刻な痛手を受ける。海洋国家日本の活動は大きく制限されるのみならず、米軍の活動もまた大幅に制限される。日本の安全には赤信号が灯る。
「中国は相手国を非常によく見ています。今いくら力を入れても、中国海軍の現状では、絶大な空母機動力を誇る米軍に相対することも、それ以前に空母を使いこなすことも出来ないのは、彼ら自身が一番よく知っています。遠くに置いた大目標、つまり、いつか米国をも凌ぐ軍事大国となって世界の覇権国となることを忘れずに、中国はいま、着実に足元を固めているのです。それが台湾併合です」と、平松氏は強調する。
台湾併合の次に必ず来るのが、日本の実質的支配である。侵略の常道として、それは“辺境”から始まる。つまり、尖閣諸島と東シナ海の実効支配であり、その延長線上に沖縄の実効支配への布石が置かれている。
東シナ海の資源開発状況を見れば、中国による同海域の実効支配がほぼ確立されたのは明らかだ。尖閣諸島と東シナ海の資源を所管する二階俊博経済産業大臣は今月14日、中川昭一前大臣が帝国石油に与えた試掘権を許可しないと述べた。中国が東シナ海問題はすでに片がついたと考える最新の理由だ。
沖縄に関して中国は長年関心を示してきた。たとえば平松氏は、中国が1971年に作製した地図には、日中国境線は琉球列島の与那国島と日本の間に引かれていると指摘する。
「台湾も含めて与那国島までは中国領だと主張しているわけです。但しその地図には、北方領土は日本の領土と記されていて、括弧内で『ソ連が占領』とも書かれています」
軍事的脅威との対峙
71年の地図は、中国が市販したもので、誰でも手に入れることが出来るはじめての中国製地図である。71年当時、中ソは厳しい対立の構図にあった。中国が米国のニクソン大統領と水面下で交渉を続けていたことが世界を震撼させたのも、この年だ。日本はその翌年には中国と国交を樹立。ソ連の脅威の前に、中国は日米両国との連携を深めようと躍起だった。中国のソ連憎しの想いを反映したのが、北方領土は「ソ連が占領」という表現だ。
この例に見られるように、中国は度々、地図の表記を変更する。92年には、尖閣諸島も中国領だとする地図を発行した。中国作製の地図はその時々の中国政府の戦略や目標を雄弁に物語る資料でもある。
歴史を振りかえれば、中国政府が日中国交樹立以前から今日まで、一貫して琉球列島領有への野心を抱いてきたのは明らかだ。
2004年11月、中国の原子力潜水艦が先島(さきしま)諸島から北上し、石垣島から尖閣諸島の東側にかけて北上、日本の領海を明確に侵犯した。同事件について中国政府が今日に至るまで謝罪もしていないのは周知のとおりだ。明確な領海侵犯を謝罪しないのは、厚顔無恥の次元を超えて、中国がこれら諸島を元々自国領だと考えているからではないか。少なくともそう考えれば平仄は合う。
中国原潜が先島の脇を航行し、海上自衛隊の護衛艦とP3C哨戒機が追跡したとき、恐怖を感じたと多くの沖縄の人々は語る。にもかかわらず、台湾は無論、琉球諸島にも触手を伸ばす中国の野望を眼前に見せつけられる地域の人々が、今回の名護市長選挙で論じているのは、米軍普天間飛行場の返還に伴って代替施設を作る際の経済的支援や振興策である。それも大事な要素ではある。しかし、何よりもまず考えるべきは、現実に迫る中国の軍事的脅威に如何にして対処し、沖縄を守り、日本を守っていくかということだ。
だからこそ、名護市長選挙に際しては、沖縄と日本の国防こそが最大の焦点である。
すでに沖縄が、日本と沖縄の安全を担保する現実のせめぎ合いの場になっていることを認識して、名護市長選挙に臨むことこそ正しい。
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