「 再選後初の外遊先をタイ、ミャンマー、カンボジアとしたオバマ外交の真意 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 963
再選されたオバマ大統領がタイ、ミャンマー、カンボジアの三カ国を、再選後初の外遊先として選んだことの意味を考えてみる。
新聞には大統領がアウンサン・スーチー氏の肩を抱いて微笑する写真が掲載され、この一葉の写真そのものが非常に大きな政治的メッセージとなった。それはオバマ政権は二期目も、アジア・太平洋に関与し続けるのであり、基本路線は自由の尊重と民主主義の擁護以外にあり得ないという意味だ。
滞在時間は6時間だったが、スーチー氏の自宅での会談、テイン・セイン大統領との会談、ヤンゴン大学での講演などをこなしたオバマ大統領の発信は、2つの点に貫かれていた。スーチー氏個人への絶大な信頼と、徹底した自由と民主主義の擁護である。
ヤンゴン大学での演説でオバマ大統領はフランクリン・ルーズベルト大統領の四つの自由、言論の自由、信教の自由、欲望からの自由、恐怖からの自由を引用しながら、民主主義は単に投票で実現されるのではなく、国民生活全般においてすべての自由が達成されて初めて真に実現されると語りかけた。
中国語には指桑罵槐(しそうばかい)という諺がある。桑の木を指さして怒りながら、実は槐(えんじゅ)の木を罵倒する──表面的にはAを指さして物を言いながら、実はBを非難するという意味だ。
オバマ大統領がヤンゴン大学で説いた自由の大切さは、中国に対する人権弾圧は受け入れられないというメッセージと考えるべきだろう。
ミャンマーの前にタイを訪れたオバマ大統領は、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉にタイを参加させることに成功した。地域経済協力の枠組みは各国間のFTA(自由貿易協定)などに加えて、中国が力を注いでいる東アジア包括的経済連携(RCEP)がある。これは米国抜きでアジア諸国を中国の影響下にまとめようとするものだ。
他方、TPPは加盟諸国間で共通のルールを作り、人、物、カネの流れを自由化することで国を開いていく制度である。中国のような、一党支配体制で、国際社会のルールに従おうとしない国にとっては明らかに好ましからざる制度だ。
RCEPとTPPは、中国主導のアジア・太平洋をつくるのか、米国主導のアジア・太平洋をつくるのかの違いだと言ってよいだろう。今回オバマ大統領がタイをTPPに引き入れたことの意味は非常に大きい。なぜなら、アジアは、フィリピンなどのように南シナ海で直接中国に対峙し、中国の横暴に批判的な国々と、タイやカンボジアのように南シナ海での直接の利害関係がないために、中国と友好的な関係にあり、むしろ中国に従い、物事を中国ペースで運ぶことに甘んじてきた国々に明確に二分されているからだ。
中国は、アジア諸国に対して孫子の兵法で「敵の分断」作戦を取り、タイやカンボジアを大規模支援で手なずけてきたのだ。
それを今回、オバマ大統領は、タイにTPP参加を確約させ、米国側に一歩引き寄せたわけだ。中国がRCEPの交渉を来年の早い時期に開始すると決定すると、米国もTPP参加国会合を急遽プノンペンで開いた。米中二国間関係は経済交流の大枠を守りながらも、より激しい対立を生み出していく可能性がある。
国会を解散したものの離党者が相次ぐ野田佳彦首相は厳しい状況にある。しかし、TPP参加を党の公約とし、同意しない政治家は公認しないという厳しい政策を打ち出した。結果、山田正彦元農林水産大臣をはじめ数人が去った。野田首相は鳩山由紀夫氏も公認せず、結果、鳩山氏は衆院選には出馬しないという。最後の最後になって野田氏らしさを出して戦う選挙戦で生き残れば、民主党の政治家にもその先に大きく道が開けていると私は思う。