「 万景峰号は動く対日工作基地 拉致解決のためにも今すぐ新潟港への出入港を禁止せよ 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年7月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 599
情報に真摯に向き合うことの出来ない国は常に敗北する。問題も解決出来ない。
北朝鮮に拉致された国民を取り戻す試みも同じことだ。6月24日から3日間、拉致被害者の家族や支援者らは、国会議員会館前の道路で座り込みを決行した。頭のテッペンから足の先まで汗の皮膜で包まれてしまう熱射のなかで、すでに若くはない家族の皆さんがこもごも訴えたのは、経済制裁を発動してほしいという点だった。それはまず、万景峰(マンギョンボン)号の新潟港への出入港禁止要求である。
なぜ、皆がこの船に拘(こだわ)るのか。それは、この船が“動く対日工作司令部”となっているからだ。万景峰号は、金正日(キムジョンイル)一族のための資金や贅沢品もむろん運ぶ。しかし、より重要なのは、日本国内で暗躍する工作員の報告を受け、情報を収集し、金正日の司令を工作員らに口頭で伝えることだ。その任に当たるのが“政治船長”あるいは“指導船長”と呼ばれる輩で、万景峰号を走らせるという言葉の意味どおりの、船長の上に立つ。彼らは統一戦線部(統戦部)を中心とする情報工作活動のプロであり、統戦部とは、韓国の北朝鮮化と、北朝鮮ベースでの統一を実現させるための組織である。
統戦部の部長や副部長が同船に乗って入港することもある。そのような場合、日本側で工作員を束ねる責任者も新潟港に出向き、万景峰号上で指示を受けるといわれている。ここに在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)がかかわっている疑いはきわめて濃い。
月刊誌「WiLL」8月号で、ジャーナリストの加藤昭氏が地村保志、富貴恵夫妻を拉致した実行犯について詳報している。同記事は元工作員の証言に基づき、工作員らはたまたま出くわした2人を拉致したのではなく、事前に2人についてかなりの調査を行っていたこと、2人の拉致に朝鮮総連が関与したことは「100パーセント、間違いない」などと報じている。
警察庁の調査でも、日本国内に非合法に侵入した北朝鮮工作員、彼らと共謀して拉致などにかかわる在日工作員は2,000人を超えるとされている。彼らの活動がすべて本国の指示に基づくのは当然だ。その指示は、かつては乱数表を用いた通信などで伝えられていた。しかし、急速に発達した通信技術は、傍受も可能である。北朝鮮による不法行為に目が光るなかで、いまや最も安全なのは面と向かって口頭で指示を与える方法である。万景峰号の重要性がかつてよりもなお、高まっているゆえんだ。だからこそ、経済制裁を発動させて、万景峰号の出入港を禁止することが重要なのだ。
国会は、衆参両院の特別調査会で経済制裁発動を全会一致で支持した。あとは小泉純一郎首相の決断だけだ。だが、首相は“対話と圧力”が重要だと繰り返す。6ヵ国協議の場で進展があるかもしれないと期待する姿勢を崩さない。
対話と圧力と言いながら対話のみを重視してきた過去の日本の北朝鮮政策は、ことごとく失敗してきた。6ヵ国協議ではそもそも、拉致問題は扱わないことになっている。こうしてみると、首相の北朝鮮政策が、情報分析を欠落させた地平に立脚していることがわかる。
ブッシュ米大統領は、北朝鮮の政治犯収容所に10年間囚われていた姜哲煥(カンチョルファン)氏の体験を綴った著書を読み、本人と会って40分間、直接話を聞いた。大統領自ら金正日の圧政の犠牲者に会い、一次情報に真摯に向き合う姿勢を見せたこと自体、大きな政治的意味を持つ。小泉首相以下日本政府は、多数の国民を拉致され直接被害を受けている立場だ。ならばもっと真摯に、一次情報を掬(すく)い上げる努力が必要だ。情報に誠実に向き合えば、経済制裁の即時発動、万景峰号の出入港禁止の必要性がわかるはずだ。