「 尖閣諸島に一刻も早く日本人を常駐させる方策を 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年7月21日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 945
民主党の前原誠司氏に、野田佳彦首相を一言で表現すれば、と尋ねた。
氏は一瞬考え「鈍です」と答えた。少し間を置いて、「でも、ぶれません」と加えた。
実によく言い当てている。ぶれないのは首相の長所である。しかし鈍はぶれない美徳をも疑わしめるときがある。言から実行まで時間がかかり過ぎて節を曲げたかと疑われるからだ。
鈍ではまた、急変事態に対処が追い付かず、失敗に終わることもある。いま、そのことが危惧されるのが尖閣情勢である。
7月11、12日と「読売新聞」および「産経新聞」がそれぞれ1面トップで中国の不穏な動きを伝えた。尖閣周辺の日本の領海に、11日、中国の漁業監視船、「漁政204」「漁政202」「漁政35001」の3隻が侵入したのだ。
海上保安庁の巡視船が領海からの退去を求めると、彼らは「妨害をするな。ただちに中国領海から離れよ」「魚釣島を含む島しょは中国の領土だ」と反論、約4時間領海内にとどまった。領海から離れた後も接続水域で航行を続け、最終的に接続水域を離れたのは午後6時55分ごろだったという。
同日、中国外務省の劉為民報道官が漁業監視船の巡航は「管理強化のための正常な公務」だと説明したが、この季節、現場海域に漁船の姿はない。公船3隻の派遣は「尖閣諸島は国が買う」との野田首相の意思表明への明らかな牽制である。
公船による領海侵犯の次に考えられるのは、夏場の休漁期間が終わった時点で、数百隻単位の中国漁船が押し寄せることだ。私も一度、似たような光景を空から見たことがある。尖閣諸島近くの海域は、文字通り中国の漁船に覆い尽くされていた。あの夥しい数の漁船が島を取り囲む形で接近してくれば、わずか4隻の海保の船で侵略を防ぎ切ることは不可能だ。
漁船でやって来るからといって彼らが本当に漁民であるとは限らない。南シナ海でフィリピンやベトナムから島々を奪った事例で見れば、最初に上陸した男たちは明らかに軍人である。上陸するや否や、中国の国旗を立て、資材を運び込み、あれよあれよという間に建築物を完成させた。いまでは強固な軍用施設と共に滑走路まで備えている。中国政府は、これらはすべて漁民のための避難施設だというのだ。
あるいは、彼らは意表を突いて空から侵入するかもしれない。船も人員も不足してはいるが、海はともかくも海保が懸命に守っている。しかし、尖閣上空は自衛隊機が始終飛んでいるわけではない。隙を見て、空から多数の人間を島に降下させることも可能だ。
いずれの場合も、島に中国人が上陸した段階で、日本側は即、彼らを拘留しなければならないが、以前と比べて状況は格段に困難となろう。中国政府が軍事的手段も排除せず断固たる姿勢で乗り出してくると思われるからだ。
だからこそ、大事なのは中国人の上陸を許さない堅い守りの態勢をつくることだ。そのために、早急に海保の巡視船を増やし、人員を増やさなければならない。海保の力で不十分なら、海上自衛隊の艦船を南西諸島方面に、より多く配備しなければならない。
さらに大事なことは、島に日本国民を常時駐在させることだ。それはまさに自衛隊の任務であろう。自衛隊を前面に出したくなければ、南シナ海で中国がしたように、民間人の形で自衛隊員を上陸させればよい。日本は法治国家であるから、そのような「だまし」はできないというのであれば、知恵を絞って方法を考えればよいだけの話だ。
日本国民を常駐させることは明確な日本国の意思の表明であり、最も効果的な対中抑止力になる。こうしたことを急いで、いますぐにでも実行しなければならない。鈍では間に合わないのである。