「 いまは見かけなくなった日本の厳しい父親の愛の表現 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年6月2日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 938
畏友、春山満氏と二人の若者による『若者よ、だまされるな!』(週刊住宅新聞社)から、日本人を変える強い力が生まれる気がする。
春山氏は58歳、ハンディネットワークインターナショナルのオーナー経営者だ。24歳で進行性筋ジストロフィーを発症、首から下の運動機能を失ったが、氏は決して後ろを振り向かない。失ったものを嘆かない。氏が若者に伝えているのは、与えられた条件の中でいかに最高の戦いをするかである。氏は若者にこう語りかける。
「人生っておもしろいぞ。自己責任で、自己選択して、しっかりと、おもろい人生歩もうぜ」
キーワードは自己責任と自己選択だ。
春山氏の共著者は宮内修氏と春山哲朗氏だ。修氏はオリックスの宮内義彦氏の、哲朗氏は春山氏の子息である。そろいもそろって圧倒的な存在感を有する父親の息子なのだ。
宮内義彦氏は剃刀のような人だ。少なくとも、それが氏を取材したときの私の感想である。音楽と美食を愛する教養豊かな人である一方、白刃の鋭利さと冷たさは隠しようもない。氏の下で働くには、氏と同等かそれ以上の能力がなければ大変な重圧を感ずるだろう。だが、その氏を相手に、対等の立場で、堂々と仕事を成功させてきたのが「中小企業の親父」を自称する春山氏だ。
氏の会社は資本金1,000万円、従業員12人、オリックスは株主資本金1兆3,302億円、従業員は1万7,553人。両氏が対等の立場に立つこと自体が春山氏のすごさを示す。こんなすごい父親を持つ2人の若者は、一体、どのようにして父親と折り合い、受け入れ、どのように成長しつつあるのか。それが本書の醍醐味の一つだ。
それにしても、春山氏の言葉はいちいち、核心を突いている。
「今の世の中、不景気だって? これまでにない就職氷河期だって? 嘘ばっかりいうな。どこが不景気。こんなにも平和で、こんなにものに溢れて、こんなにも豊かなのに。大手企業は確かに大変だよ。でも中小企業は、人をこんなにも求めているじゃないか」
「大企業って、そんなにいいの? 今の元気な会社、何十年前、黎明期はみんな中小零細企業、怪しいニッチだったんだよ。そこにチャンスがあるんだ。常識にだまされるな」
「豊かさが日本をだめにしたのよ。男を男に育てる女の躾と、日本の精神性がなくなったから、男はこんなに弱くなったのよ」
「僕はこれまで、いっぱい寂しい目にあってきた。いっぱい辛い目にもあってきた。ただ、それが僕の人生だと気づいた」
「難病となんて、闘っていないのよ。開き直って、難病を友だちにしてるのよ。手も動かん、足も動かん。上等やないの、それがどないしたんや」
「病院? 病院なんか行ったら、病気にされるよ。だからお父さん、一生病院行きたくないねん。
わかった? 家で死ぬからな、よろしく。そのための金と環境は、用意するから、心配するな」
つい、春山氏の言葉に引きつけられる。人生を真に自分のものとして生きる言葉を氏が発し、その言葉に衝撃を受け、突き放されながらも吸い寄せられ、神髄を感得していく二人の成長の軌跡を本書が生き生きと伝える。
春山氏は、昔はどこにもいたが、いまは見かけなくなった日本の厳しい父親である。その厳しさは男親の愛の表現なのだ。修氏と哲朗氏が春山氏に寄せる畏敬は、男を男として育て得る人への深い感謝でもあろう。それにしても、春山氏のシゴキに立派に耐える2人の若者の素直な心が私の胸を打つ。
息子を男として育てられない日本の父親や叱ってもらったことのあまりない、しかし、力強い男になりたいと思う若者たちに読んでほしい1冊である。